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    K(木苺潰す)

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    「婚姻届を書く話」(燐一)

    差し入れ文です。
    5/4燐一ぷちオンリー開催ありがとうございます&御本の執筆お疲れ様です。
    最高燐一bookを生み出して下さって本当にありがとうございます。

    「婚姻届を書く話」(燐一)同室者達が不在だからと招いてみると、部屋に遊びに来た一彩は、ベッドサイドに置きっぱなしの献本された雑誌達に夢中になっている。
    一応、仕上がりのチェックに一通り目は通した物が何冊か溜まってそのままになっていた。
    その様子に思っていた水入らずの過ごし方とは違うと思いながらも、行儀悪く俺のベッドに寝そべり雑誌のページを捲る姿は昔の「正しい」に囚われていた一彩からは考えられなくて、まァこれはこれで有りかもしれねェなんて、隣りに座ってスマホを弄る振りをしながら様子を伺っていると、
    「兄さん、この紙は何かな?」
    一彩がそう言って手渡してきたのは『婚姻届』と書かれた用紙。
    「見ての通り婚姻届だけど?」
    一彩が読んでいたのは新郎役でモデルをした結婚情報雑誌。
    確か付録は人気ブランドとコラボした特製の婚姻届らしい。
    確か保管期限後は溶解処分されると聞いた事があるから無意味といえば無意味だが、記入し、受理された記念に写真を撮ったりする時に無地よりは可愛い方が良いなんて女心の為の物なのだろう。

    「婚姻届、名前の通りなら婚姻を誰かに届け出る為の用紙なのかな?」
    「正解。弟くんは賢いねェ」
    「ム、茶化さないで欲しいよ。誰に願い出るのかな?都会には君主は存在しないようだけれど」
    「基本的には夫婦どちらかの本籍地か住所地だが、日本全国どこでも提出可能だから提出先の市町村の役所の長。町長や市長、区長なんかだな」
    「故郷のように君主に願い出る訳ではないんだね」
    「キャハハッ!あんな時代錯誤な事してたら総理大臣は他の職務なんざ一切できねェよ。ド田舎で人口の少ない集落でもねェ限りな」
    「兄さん、そんな言い方は良くないよ」
    故郷を馬鹿にした俺の発言にムッとした様子で、じっと俺を見つめてくる一彩に、
    「それは俺の発言が「正しくない」からか?それとも個人的な感情からか?」
    と問いかける。
    「「正しい」か「正しくない」かで言えば次期君主としては「正しくない」言い方だけれど、それ以上に僕は大好きな兄さんの口から大好きな故郷を貶めるような言葉が出るのが嫌、なのかもしれない」
    複雑そうな顔で自分の感情を整理する様に淡々とそう答えた一彩の頭をぽんぽんと叩くように撫でて、
    「お前の好きな物を馬鹿にして悪かったな」
    そう詫びれば、
    「ウム!」
    一彩はとびきりの笑顔を浮かべた。

    「ええと、話を戻すけれど、それなら僕達の場合はこのESのある市の市長宛になるのかな?」
    「いや、ちょっと待て、その「僕達」は誰と誰だ?」
    「?、兄さんと僕だけれど」
    何を当たり前の事をといった様子の一彩に大きく溜息をつく。
    「俺とお前は兄弟で男同士、更に三親等以内の親族で、結婚はどこの国に行っても無理だ」
    この国ではまだ認可されていない同性同士という壁とインセストタブー。
    「子孫の繁栄と似通った遺伝子を持つもの同士は、親から引き継ぐ要素が似ていて、悪い部分を引き継ぐ確率が高いからだよね?生物の授業で習ったよ」
    「正解。更にタブーとする倫理観と宗教観まであるからなァ。俺達は神様とやらに硫黄で焼かれても文句は言えねェな。そもそも俺っちは未成年淫行で今のお前との関係がバレちまったらお縄に掛けられちまってアイドルどころか都会にはもう住めないだろうしなァ」
    そう続けると一彩は身を固くして、口を噤む。
    「ンで?そこまで分かった上でお前が婚姻届に興味を示す理由は?」
    一彩は少し躊躇う素振りを見せてからようやく口を開いた。
    「僕達は兄弟だから婚姻は許されない。アイドルだから揃いの指輪すらはめることが出来ない。だから何か目に見える形で兄さんと僕との兄弟以外の関係を示す証が欲しいなって、この婚姻届を眺めていて漠然とそう思ったんだ」
    思わず目を見開いた。
    あの「正しい」以外は求めず何を与えても無感動だった一彩が証が欲しいと言い出すとは。
    「てっきり真面目な弟くんは後学の為にって言い出すのかと思ったけどなァ?」
    歓喜でつり上がってしまった口角を誤魔化すようにそう茶化すと、
    「?、都会で兄さん以外の誰かと婚姻するつもりはないからその必要は無いよ。天城の家の次男として、体裁の為だけに、故郷では定められた誰かと婚姻する可能性はあるかもしれないけれど、……そもそも僕はまだ勘当されたままだから」
    思わぬ流れ弾を食らってしまい、二の句が継げなくなる。
    「ふふ、兄さん、眉間に皺が寄っているよ。そんな顔をする位なら撤回してくれても良いのに」
    一彩は俺の眉間に出来た皺に指で触れて眉を下げて笑った。
    「……せっかく自由にしたのにわざわざ鳥籠に戻す馬鹿は居ねェよ」
    擽ったい指を振り払う。
    「だからね。この「婚姻届」を兄さんと書いてみたいと思ったのは僕の自由意志だよ。」
    そう宣言した一彩は困ったような笑みではなく、まっすぐに俺を見据えていた。
    「役所に提出も出来ないし、世間に許されないのにか?随分と酔狂だな」
    本当は一彩が自分の意思でそう望んでくれた事が嬉しくて堪らないのに素直になれない口が勝手に憎まれ口を叩く。
    「ウム!僕は馬鹿だからね。書き終わったら大事に宝物を入れる箱の中にしまっておくよ」
    「……馬鹿って言うな」
    そんな風に言われてしまったら、低すぎる自己評価の訂正くらいしか出来なかった。



    ーー

    ベッドの上では書きにくいからと、ローテーブルとセットになったソファーに移動し、それじゃあ、さっそく書き始めていくね!と気合いたっぷりに、俺が貸したボールペンを手にした一彩は、
    「氏名とフリガナから書いていけば良いんだね」
    スラスラと書き慣れた様子なのは契約書類やテストの賜物かもしれない。
    兄さんもと手渡された用紙の、一彩が書いた妻側の欄に二重線を引き、男同士だから妻を夫に修正する。
    本当は修正印が必要なのだが、如何せん狭い欄なので省略して、同じく氏名とフリガナを書いて一彩に手渡す。
    「フム、次は住所と本籍か。僕達の場合、住所は星奏館で本籍は故郷だけれど、秘匿された場所だから住所を記入するのははばかられるね……ってあっ!」
    困った様子の一彩から用紙を引ったくり、
    本籍の住所欄にデカデカと「クソ田舎」と書き捨てる。
    「こんなモンどうせ役所には提出しねェんだから適当で良いンだよ」
    キャハハと笑いながらついでに住所の欄も記入していく。
    書き終えた用紙を差し出すと一彩は複雑そうな顔をしながら受け取り記入する。
    本籍欄を覗き見ると控えめに「故郷」とだけ書かれていた。
    「次は父上と母上の名前か。……お前母上の名前覚えてるか?」
    「知識として知ってはいるけれど、僕を産んですぐに亡くなってしまったらしいから僕に母親という存在の記憶は無いよ」
    物心つく前の赤ん坊の頃の記憶なんて確かに俺も持ち合わせてはいないが物悲しさを感じた。
    「でも代わりに兄さんが僕を愛して育ててくれたから、母親が居なくて寂しいと思った事はないよ」
    フォローのつもりだろうか、そう続けた一彩の頭を無言でわしゃわしゃと撫でる。
    「わっ!ぐしゃぐしゃになってしまうから止めて欲しいよ」
    そんな事を言いながらも嬉しそうな表情をしてしまう可愛い弟だから、兄弟の枠を踏みはずしてしまう位愛してしまったんだろう。
    全く同じものが二つ並んだ父母の名前を眺めてそう思った。

    苗字は共通して天城だから変わらないが一応俺の方にチェックを、新居や同居を始めた日付は、星奏館を出て暮らし始めた時に一彩に一緒に住むか尋ねる事を漠然と考えているので空欄のままにした。
    勿論、一彩には同居してないからという言い訳で。

    「次の職業欄は、自信を持って書けるよ!」
    大きくアイドルと書いた一彩の横に同じくアイドルと書く。
    まさか本当に夢が叶うなんて、更には一彩までアイドルになるなんて、二人で都会に居るなんて、アイドルを志したばかりの俺に話したら嘘だと信じては貰えないだろうなァなんてそんな有り得ない想像をしていると、届出人の欄に一足先に名前を書いて、
    「部屋から印鑑を取ってくるよ!」
    部屋から出て行こうとする一彩を慌てて止める。
    「いやだから、役所に出さねェんだからこんなの拇印で良いだろ」
    一彩の親指の指先に引き出しの中から取り出した朱肉を押し付け、紙に押させる。
    同じく拇印を押す。
    べっとりと付いた朱いインクを落とす為に洗面所で二人で順番に手を洗いながら、
    「そういえば証人と宛先はどうすんだよ?」
    とずっと気になっていた事を尋ねると、
    「宛先はALKALOIDの皆にしようと思っているよ。僕にとって都会での大切な仲間だから。兄さんはCrazy:Bの人達だよね?」
    と何の臆面もなくそう言われてしまい、
    「そうだな」
    つい本音でそう返してしまった。
    どうせ提出はせずに一彩がしまい込むのならバレはしないだろうと思っていたのに、
    「証人は重複してしまうけれど、友達である藍良にお願いしようと思っているよ」
    一彩の友達という言葉に真っ先に頭に浮かんだのは相棒であるニキの顔で、アイツなら飯で釣れば何も考えずにホイホイと記入するだろうと二人で頼みに行った先で目敏く宛先を見られてしまい、更に追加で口止め料にお菓子を貢がされてしまったのは別の話。

    そんなニキとは違い藍ちゃんは「ラブ~い!燐音先輩、絶対ヒロくんを幸せにしてよねェ」とかなり乗り気で証人欄に記入してくれた。

    俺の部屋に戻ってから、ほぼ空欄の無くなった婚姻届を眺めながら、
    「最後に届出日だけれど、兄さんとこうして記入した記念に今日の日付にしても良いだろうか?」
    無意識の上目遣いでそう尋ねてくる一彩に、
    「そもそもお前の希望で書いたンだから、お前の好きにしろよ」
    と告げると一彩は用紙に書き込んでから嬉しそうに、
    「一緒に書いてくれてありがとう兄さん、愛しているよ!」
    と抱きついて来た。
    手に握られたまま、せっかく完成させた用紙がくしゃくしゃにならないようにローテーブルの上に避難させると、届出日には『2022年5月4日』の文字。

    2週間程先の俺の誕生日には、例え人前ではめられなくても、揃いの指輪でも買って逆プレゼントも良いかもしれねェなんて思ってしまう位には一彩の提案した証に俺も満更でもなく、浮かれてしまっている。




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