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    gnsn二次創作企画
    「Nostalgia_for_Khaenriah」にて提出させていただいた企画小説になります。

    最終決戦でカーンルイアに突入した蛍に現実を突きつけるダインスレイヴのお話。
    素敵な企画をありがとうございました。

    #Nostalgia_for_Khaenriah

    残滓だとしても「お前は何を選ぶ」

     彼は静かに蛍に問いかける。周りは建物が崩壊し、白い街も壁も瓦礫の山と化す中、そこだけ静寂が訪れたようだった。

    「問おう。今この状況で。お前はどうしたい。何を為す」

     突入したカーンルイアははるか昔に人が生活していた痕跡はあれど生者の姿は見えず、亡霊と恩讐が跋扈するだけあった。ダインスレイヴにはかつての友や仲間、ここに住んでいたであろう多くの人間がその眼に見えているのだろうか。かつて神の力を凌ぐほどの文明を築いたにも関わらず無惨な姿の国に想いを馳せながらも自らは今ここで朽ち果てるわけにはいかないと蛍は腰の皮袋に手を伸ばすが無駄な動きはさせないとばかりにダインスレイヴの短剣が飛ぶ。

    「(一切隙がない……)」

     それだけ相手も本気なのだろう。色々なことを忘れて旅をしていた時のダインスレイヴではない。かと言って何もしないわけにはいかない。背後に倒れている孔雀……モンドを裏切っていたと思ったが最後で義兄を庇い、カーンルイアの兵器の餌食となり気絶したガイア。それを護るように抱きしめ、必死に意識が戻るように声をかけているディルック。ここにいないパイモンとも連絡が取れない状況で何もひっくり返せはしないがせめてどうにかして時間を稼がなければ。冷や汗をかきながら蛍がジリジリと後ずさればダインスレイヴはため息をついた。

    「……兄とはまた違うな。あいつならこんな状況でも仲間を助けながら敵を引かせる方法を思いついただろう」
    「貴方も私の知っているカーンルイアの人間とは違う。少なくともすぐに手を出さずに口でどうにかしようとする」
    「……兄に負けん気は似ているが、状況によっては勇気と無謀は紙一重だと告げておこう。今味方が誰も動けない状況で尚更言葉の剣を吐くべきではない。大体役立たずの口は自らを滅ぼすだけだろう」

     暗に義弟を愚弄されたと舌打ちをして片手で剣のツカに手をかけたディルックをなんとか制し、膝をつきながらただダインスレイヴを見つめる蛍。そのダインスレイヴはお前が剣を振るうと言うのならば、己も容赦しないとばかりに殺気を放つ。
     兄を手にかけたかもしれない人間とのうのうと旅をしていた自分が浅はかだったと悔いてももう仕方ないとわかっていたものの歯軋りするほど蛍は焦っていた。

    「他人を気にしている場合か?言葉を交わしていないからこそ各々の目論見は外れ、状況は最悪だというのに。そもそもカーンルイアの忘形見を何故そこまで気にする」
    「……私は彼がカーンルイアの血を引いていたからここまで来たわけじゃない。私は私の知りたいことを知る為に、お兄ちゃんの足取りを辿ると偶然“モンド人”である彼もここにいると知ったから、『家族を探す』という目的が一緒になったディルックさんと行動しただけ。そもそもカーンルイアを滅ぼした可能性が高かった……お兄ちゃんを私の知らない彼方へやった天理の行動を辿ったらここに辿り着いた」
    「あくまでも天理に追いやられた兄弟を追ってきたというわけか」

     背後を気にする蛍に声をかけるダインスレイヴ。チラリとカーンルイアの末裔……ただ1人生き残ったというガイアを目にしながらダインスレイヴはポツリと呟く。彼の瞳の奥に隠された星と琥珀色の目を知ってか知らずかダインスレイヴはただ淡々と事実を口にするが、すかさず蛍は反論する。彼は現在の時の流れに取り残された異端だと言わんばかりの口調である。

    「強いて言えばそれは『末裔』……力無く滅び消えゆく血筋が悪足掻きで残そうとした”残り物”
     在りし日の姿を知らぬまま伝聞だけ見知っているだけでは、到底真の力は計り知ることはできない。
     本来狩りは集団で行うもの。誰か1人戦場に降り立ったところで戦況が何も変わるわけでは無い。スパイにすらなりきれていないだろう。結果として無茶をしただけだ。これは何もわかっていない」
    「そんな状態で彼を利用したの?……嘘を耳元で囁いて自ら犠牲になるように行動させて?」
    「結果として動いたのは己の意志だろう」

     まだ蛍が何も知らずにテイワットを旅していた時、なぜかダインスレイヴとガイアと鉢合わせたことがあった。あの時は互いに立場を分かった上で行動しているのかと思っていたが現実は互いに探りながらというわけだった。

    「貴方は狂犬よ……滅びた國に取り残されて、それでもと残ったものを追いかけ続けて狂ってしまった……なんでここまで人を傷つける必要があったの……」
    「おまえは先程口がまわるという話をしたな……この建物は昔よく論争が行われていた。正確には弁論か。よく盛んに議論が交わされていたものだ」

     蛍の問いかけに直接答えるわけでも無く、ふと崩れかけた天井を見上げ懐かしむように目を細めるダインスレイヴを他所に蛍は震えるばかりである。

    『この人は今、何処を見て話しているの?』

     ずっと蛍が考えていたことであった。常々カーンルイアの陰謀を打ち砕かなければいけないと言いながらも、本人が行っていることは滅んだ国をずっと追いかけ続け、蛍の兄を手にかけたかもしれなく、カーンルイアのものは全て抹殺するとばかりにガイアにも手をだし、それを庇ったディルックまでにも重傷を負わせ、天理の手から逃れた蛍に剣を向ける。蛍は彼がどうしたいのかもうわからなくなっていた。

    「確かあの時賢者はといていた。

    『汝、目を離すこと勿れ』

     それが自らから目を離すなという意なのか、事象から目を離してはいけないという意なのかはついぞわからない。ただ陰謀術中が渦巻く宮廷において金言だとは思うがな。今もだろうが」
    「……今はその賢者も弁者もいない」
    「生きている人間が舞台に立ち、討論を行えばどこでも討論場にはなるものだ。第三者たる証人がいないのが欠点だが」

     過去のことを言っても今に繋がらないという蛍とそれは間違いだと言うダインスレイヴ。両者の意見は平行線のまま壁が崩れた部屋に静かに響き渡るだけである。

    「俺が要人を警護していたのはごく僅かな間だったが、それでもどれだけ多くの血が流れたのか。そして今も」
    「……ダインスレイヴ……貴方どうしたいの。私をこんなところに連れて来て、みんなを引っ張り回して……!何がしたいの。答えて」
    「言ったはずだ。俺は偽りを正す。それにはかつての故国の血と現在のモンドの血が必要だった。宰相はそれをわかっていて彼を葡萄酒の家に捨ておいたのだろう。随分と乱暴な……捨て鉢なやり方ではある。

    結果としてその目論見は成功した。他にも様々な策を巡らせたらしいが……」

    「目論見って……」

     ガイアだけではない。カーンルイアが遺した傷は様々な爪痕を残した。遺跡守衛、錬金術師、邪眼……どれだけ人々の仲を引き裂いたのか。人生を変えてしまったのか。背後で破綻に暮れる兄弟がいい例だった。それを手段と言い切ってしまうダインスレイヴの神経も蛍にはわからない。

    「このような亡霊の息の根は止めなければならない。奴等は自分達は神の手から零れ落ちた残滓ではないと言い切ったらしいが……このままではアビスの深淵の者達の野望がまた溢れ出す。最早息子を元に戻す計画もコロタールの野望も必要ないだろうに」
    「もうやめて……貴方はモンドだけでなくテイワット全てを巻き込んで災厄を巻き起こして……何がしたいの……!アビスの計画を阻止するってあれだけ言っていたじゃない!人々の尊厳はどうなるの……!!ディルックさんもガイアも……お兄ちゃんだってこんなことのために走り回ったわけじゃない!」
    「人のことを狂犬と言ったがそれはおまえの立場から見た場合の話だ。それにおまえは兄が何をしようとしていたのを知っているのか?
     ……俺が常に意識していたのはいかにアビスの計画を阻止するか。それだけだ。それぞれ立場も信念も違う。そしてお前達は敗れ、俺は歩み続けるだけのこと。そもそも星海を渡り続けていたお前がこの地に執着する意味もないだろう。自分がいた世界よりも文明が遥かに遅れている地で何を成そうとする」
    「……あなたが何と言っても私は私が助けたいもののためにここまで来たの。どうこう言われる筋合いはないわ」
    「ここまで言っても譲らないとは。その強情さには呆れる。モンド人……いや、そもそもテイワットを見捨てれば、『見捨てていれば』天使が生き抜ける道もあったであろうに。人として、個としての希望を優先するか」

     お前が譲歩すれば共闘もまだ存続可能だったかもしれない。モンド側ではなく自分につけばの話だと言わんばかりのダインスレイヴに意地でも現代人の味方をする。それが兄への道と信じて疑わない姿勢に頑なだと吐き捨てる剣。最早蛍の意思は固いものと察したダインスレイヴはこちらを睨みつけてくる小さな天使の瞳を見つめながら、幻影を見るかのように語りかけた。

    「まるで何を言っても聞かなかったあいつの瞳を思い出させる強い意思だ……いや、この場合はもしかしたら意識というのかもしれない。人は意識する理と意識しない集合体、その知というものがある。identityという言葉は個人の個性や意志そのものと認識されがちだが、実態は違う。人は意識している理と意識しない集合体、むしろその無意識の集合体の深淵こそ、その人間の個を作り、本人を為すものだとする

    本人にすらわからない意識はパンドラも同然だが」

    「だから……?」
    「その無意識は彼らやお前を淀みだらけの深淵まで走らせた。おまえの兄もきっとそうだったのだろう。譲れないもの、自分と世界、どちらも救いたいようではあったが、流石に背負うものが重すぎた。どっち着かずの態度は悲劇しか生まず、徒労に終わる。現に今この状態でお前の兄もお前もは何も成せていなかった。

    ……再度問おう。兄か、友か、テイワット……今か。カーンルイア、過去の遺物。どちらを選ぶ。選択肢は時間が経てば経つほど限られる」
    「私、は」

     ダインスレイヴが言う無意識の願望がこの深淵に辿り着くことで自覚すると言うのならば、蛍の望みは自分に纏わる全ての人間を助けたいというものだったかもしれない。しかし両手で救える命など限られる。背後に横たわる異世界の友やテイワットの世界か。それとも星雲を共に渡り、苦楽を共にした兄を追いかけるのか。

    「(堕天使は誰も何も答えられないか)」

     項垂れてしまった目の前の小さな肩が震えている。あの金髪の男の双子なら気概を見せるものと思ったダインスレイヴだが見込み違いかとばかりに蛍の喉元に剣を突きつける。

    「世界は簡単に人間を振り落とす。どんな代償を差し出したとしても慈悲などなく、例えお前でも例外ではない。どんなに足掻いたとしても宿命は初めから決まっている」
    「……ガイアも似たようなことを言ってた」
    「カーンルイア人は思ったよりも現実的だ。神を捨て、自らの足で立ちあがろうとする。些か早すぎた決断だったかもしれないが」
    「……確かに時計の針は元に戻せないかもしれない。

    でも未来に繋がる時間は稼ぐことはできる。貴方は足元すら見ていなかったんだよ。

    宿命は運命とは違う」

     途端に崩れ落ちる弁論場。何事かとダインスレイヴが姿勢を崩した瞬間に物陰から白い物体が飛び出す。

    「蛍!」
    「遅いよパイモン!」

     そのままパイモンは蛍をダインスレイヴから離すように後ろの地面に飛び出した勢いのまま押し付け、義兄弟と合流できたとわかった瞬間に蛍は瞬時に自らの剣で瓦礫を切り出し、4人で瓦礫ごと崖下の方へ滑り落ちてゆく。慌ててダインスレイヴが下を覗き込めばかろうじて水の流れがある水路に傷だらけの4人が吸い込まれてゆくところであった。

    「私は私の未来を選択するよ。例えそれが地獄だとしても。みんな掬い上げてみせる。友達もお兄ちゃんも。残滓だとか知らない。もう後悔したくないもの」

     叫ぶ蛍を見送ることしかできず、唖然とする流れる水の流れを見送ることしかできないダインスレイヴ。妹は猪突猛進型と思いきや虎視眈々と機会を伺うタイプだった。一本取られたとばかりに深いため息をつけば地面に落ちている花を手に取った。先程の騒ぎで旅人の髪飾りが落ちたのだろう。それを拾えば世界の終わりであろうとも凛と咲き誇る姿は持ち主と変わらなかった。

    「……天の羽の生き残り。そこまで運命に足掻くと言うのならば、全てをひっくり返すことがおまえにできるのか?」

     国は天の怒りで燃えた。支えた主人も笑いあった仲間も今は居ない。焼き消えて焼けこげて黒ずんだ燃え殻だけが残った。それでも残り、手をのばすものに運命は……

    「例え残滓だとしても愛おしく、また世界は天使……いや神を選ぶのだろう。
    そして残滓は残滓では無くなるのだろうな」

    微笑むものがいるかもしれない。
    羽をもがれた異世界の神の使いは何処へ行くのか誰にもわからない。運命は反転した世界で神の使いを堕天使か、それとも反英雄として昇格してしまうのか。
    それは誰にもわからないことだった。
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