兎割烹ディルガイ 南国出張帰り進捗「おかえりディルック‼︎今回はどこに行ってきたんだ?」
「今回は南国の方なんだけど……正直本土の方が涼しい気がするよ……」
はい、お土産、とばかりに紫芋のクッキーとミミガーと豚の角煮の真空パックに島豆腐のセットを渡してくるディルックに美味しそう‼︎ありがとう‼︎とにこやかに慣れた様子で受け取る女将。側の赤毛の兎は最早また貢物をしている……最早下手な兎よりもお気に入りの雌に貢いでいるのではないか。と呆れつつも、この男がくる日はガイアがさっさと本日閉店の看板を下げて、酒を取り出し、ディルックだけの定食を作りだすのだから全く……こちらも兎よりもわかりやすいと聞き耳を立てて、今日このタイミングで訪問する可哀想な客がいないか玄関の方を見張っているしかできないのである。外食ばかりだったという男に、栄養バランスのあるものがいいな‼︎何がいいかなと冷蔵庫を見てウキウキしているガイアが幸せそうならいいのだろうかと呆れ返り、自分は美味しい夏野菜でももらわないと割りに合わないとばかりにお野菜‼︎とY字の鼻をフンスフンス‼︎とガイアの足元にくっつけるのである。
「こらこら。今は火をつけているから危ないぞ」
「毛皮を纏っているのにこの子は元気だね」
「それは勿論兎の旦那様のために冷暖房はしっかり完備しているからな‼︎」
夏は暑く、冬は寒い下町。毛皮を纏っているとは言えどもか弱い草食動物である。おまけに小さく体調管理も難しい小動物は少しの気温の変化も油断大敵になる。そのために割烹屋は常に適温の温度管理をしており、光熱費は大分かかるはずなのだが、そこは扶養家族だからと笑って、兎の旦那様のお土産はこっち!ドライフルーツをあげればすぐにY字が手に吸い付いてくるのだ。
「言ってもあんなに靴に噛み付いていた兎の旦那様が懐いているからディルックは兎に好かれやすいんだな」
「うーん、これは妥協したんじゃないかなと思うけれど……」
先程睨み付けられていたのは忘れておらず、今だって赤い毛玉は草食動物とは思えないほどジッと見て耳を立てている。
兎は声帯がないので鳴き声がせず、意思も分かりにくいのではないかと思われがちなのではあるが、意外と顔や強奪に出る。今日は久々にガイアを狙う雄がまたきたな!?という態度と、お土産の香りが普段嗅ぎ慣れない南国の香りを嗅ぎ取ったので、それは何?と興味津々に寄ってきたというわけなのである。
「おっ!モロヘイヤもある!スープにするか?」
「いいね。夏場にぴったりだ」
「(モロヘイヤ?)」
「兎の旦那様はちょっと食べられないかな……ここよりあったかい地方の野菜だ」
そう言うとモロヘイヤを洗って細かく切っていくガイアに、何だかその野菜は自分と関係なさそうだと察した赤い毛玉はぴょこんぴょこん!と畳の今に戻って二人を観察するに留まることにしたのだ。