おうるくと🐰がぬのクリスマス(+ディルガイ)「おーい!こっちは片付いたからアンバーは向こうのほうに回ってくれ!」
「わかりました……あ!先輩!サボらないでください!うさがぬちゃんもおうるくちゃんも一生懸命なのに!」
「コーヒー飲んでただけじゃないか」
「お昼休みはもうちょっと後です!」
モンドが一面銀世界に包まれた翌日のこと。騎士団本部ではあまりのドカ雪にこれでは生活もままならないと救援が届き、自分たちの本部の前の道も視野に入れつつ町中の雪かきを手伝うこととなったのである。
「ふん!」
「ぬ!ぬ!」
「よしよし。お前たちは団員にタオルとカイロを配りに行ってくれ。それが終わったら休憩に入っていいぞ。転ばないようにな」
「ぬ!?」
「ふん……!」
ガイアが話しかけているのは小さな兎と手のひらサイズのフクロウ。名前はうさがぬとおうるく。兎の方は嵐がひどい日にディルックが保護し、回復するうちにアカツキワイナリーの従業員になった経緯がある。そして葡萄畑を出入りしていた兎に一目惚れしたフクロウは『なんて可愛い子だ!』と羽をプレゼントしようとしたところ、ディルックの『うちの子に手を出すな』という固いセコムに打ちのめされたところをガイアが可哀想だと騎士団本部で拾ってアドバイスしたところから懐かれてよく仕事を手伝うようになった経緯がある。今ではなんだかんだあって一緒にいられるようになった二匹は家はワイナリーの敷地内に一緒に住んでいるのだが、偶にガイアの仕事の手伝いという名目で城下に遊びに来ることがあるのだ。そして今日はそのお手伝いというわけで……
「ぬ!ぬ!」
「ふん……!」
「おお!ありがとうな!」
「かゆいところに手が届くねぇ!後でうちにおいで!クリスマスのお菓子を分けてあげるから!」
「ぬ!?」
「ふん……!」
まるでモンドの子とでも言わんばかりに可愛がられるウサギとフクロウは街中から可愛がられている人気者である。小さいから心配されているというのもあるが、冒険者協会並みに小さな依頼や仕事……いなくなったペットを探したり、畑に来る害獣を追い払ったり、時には騎兵隊長についていって魔獣退治までしてしまうのである(と言っても大人達からすれば本心ではなく、囮としても嫌なのだが本人たちが仕事が欲しいと言って聞かないので比較的簡単な仕事について回らせている)
「すっかりみんなのアイドルね。とても可愛らしいわ」
「騎士団の広報としても助かるな」
「俺はそんなつもりはないんだが……」
「あの子は騎士団所属にした覚えはないよ」
「なんでお前がここにいるんだよ!」
上からリサ、ジン、ガイア。そして何故かいる部外者のディルックに思わずツッコミが入る。キャッキャっと可愛らしい声をあげる兎たちを微笑ましく見守っていたはずなのに何故!?と驚くガイアにさも当然とばかりにディルックは雪をどかしつつ話し始めるのである。
「エンジェルズシェアも入り口や屋根の雪かきで大変なんだ。屋敷の方がひと段落したから様子を見にきたら通りが騒がしかったからね。そのまま子供たちと遊ぶものかと思っていたけど、そろそろ休憩させないとあの子達はばててしまうよ」
「はぁ……分かってる。きっと雪で遊んでいれば後でずぶ濡れになることにも気がついてなさそうだからな……」
子供たちとはしゃぐ兎や梟にストップをかけて手持ちのタオルで拭いてやればそのままガイアの手に戯れつく兎と梟だが、こいつらは本当に野生だったのかと呆れていれば子供たちに呼ばれて断りきれずにまた駆けて行く。雪を退かしながらはまだいいが風も出てきたのでほどほどにさせなければとガイアが濡れたタオルを片付けていれば、流れるようにディルックがタオルを巻き取り、ついでにガイアまで拭こうとしてくるのだからそっとよけつつ、いつのまにか騎士団のメンバーがいなくなっていることに気がつく。最早ディルックが現れるとお決まりとなった現象に何故……とディルックを見れば感心したように当の本人は兎達を眺めているのである。
「しかし、昔の君によく似ているな。ここまで笑う子ではなかったが」
「全くよく言うぜ。そういうお前は何故かフクロウの方にヤンチャ度が似てるが……あんなに聞き分けは良かったかどうかは定かじゃないな」
「昔の君は大人しすぎて心配になるくらいだったが、この子達はそのような不安は無い。番ってから少し浮かれているのもあるだろうがあのくらい元気な方がいい」
見ればお菓子をもらって嬉しそうにしているうさがぬに更におうるくが毛並みを整えようと啄んでいる姿は見ていて微笑ましいものがある。ディルックはディルックでこの時期になるとよく新雪を踏み分けながらモンドの街を歩いていたことを思い出すのだ。
モンドではこの時期になると聖歌隊とまではいかないが、希望者の子どもが教会に集まり、一軒一軒家を回って讃美歌を歌う風習がある。ディルックとガイアも子どもの頃、例に漏れず一軒一軒他の子供たちと一緒に家を周った。特にガイアは引き取られた時、モンドの風習も何もわからず、ディルックに手を引かれて小さな足跡を雪につけながらヨチヨチと一緒に歩く姿を見守られたものなのである。
『ガイア!こっち!』
『待ってよ兄さん……!』