この方舟で会えた、大人になった彼の、変わらない明るさに救われている事を自覚するのは時間がかからなかった。彼と行動を共にする度に、かつて自分より下だった目線がはるかに上で、やせ細っていた体格もがっしりとしたものになったのを実感するとつい無意識に呟いてしまう。
「君は大人になったんだね、バリー」
そんな彼と別行動をすることになる時には、祈るような気持ちで呟いてしまう。
「もういなくならないでね」
どうかこのまま、彼と変わらない日常が過ごせますように。
でも、そんな願いは……望んじゃいけなかったんだ。
バリーが、行方不明になった。僕達がいた世界の、僕達があんな実験をされなきゃならなかった原因であるヘイズが焼かれて無くなる際に、子供を庇って高所から落下した。子供を庇ってと聞いたら、ああ、バリーらしいなと、真っ先に思ってしまった。なにしろ彼は、自分より幼い子を庇って実験されていたから。
今日も彼が最後にいたらしい場所の付近を探索したけど、彼の痕跡は見つからなかった。致命傷レベルの血痕がなかった事が救いだが、もしかしたらヘイズを焼き尽くした熱でその痕跡が消されたのでは、という考えたくない可能性が頭を過ぎると気持ちが落ちてしまう。
「……一緒に、冒険しようって、言ったのに。バリーからした、約束だったのに」
目頭が熱くなり、じわりと水が溢れそうになるのを急いで抑え、方舟へと戻る。ここ数日の、トビアスの日課となっているこの探索は、じわじわとトビアスの心に影を落とし続けていた。
今日もいつもの探索に行こうとしたとき、聞き逃せない情報を耳にした。
「私が獣を追い返そうとしていた時に、助けてくれた人がいて」
「その人は赤い髪で特徴的な笑い方をしていたんです」
「!!あの、その笑い方って、ニャハハっていう感じですか?!」
「は、はい!そんな笑い方でした」
その笑い方は間違いなく、彼だ。そう思ったらいてもたってもいられずに降灰世界へと駆け出していた。そして、彼を見たという庭へと行くと……そこには、見慣れた赤い髪が、居た。
脚が勝手に動き、駆け出す。こっちを向いて驚いた顔をしていたが、そんなことはお構い無しに、彼の、変わらずがっしりしてる身体へと飛び込み、抱きしめた。
「いなくならないでねって、言ったのに」
「一緒に冒険しようって、君が言ったのに」
「なんで勝手に、居なくなっちゃったんだよ」
もっと色々、文句を言いたかったのに、抱きしめた所から伝わる彼の熱が、しっかりとした感触が、彼が生きていると教えてくれるそれらは、頭にあったはずの言葉を奪い去った。目頭が熱くなり、堪えきれなかった涙が溢れてバリーの腹を濡らす。戸惑う気配を感じたけど、この涙は止められないからどうしようもない。背中に温かい感触がくるとそのままぎゅう、と抱きしめられた。ああ、この力任せな抱き締め方は、彼だ。ああ、本当に、バリーが、生きて、ここにいるんだ。そう実感すると顔を見てこう伝えたくなった。
「……おかえり、バリー」
「おう、ただいま。トビー」