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    小月 輝

    @ODUKI547

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    小月 輝

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    小月 輝のマレイデのお話は
    「ずっと貴方を捜していました」で始まり「静かで優しい夜だった」で終わります。
    「こんなお話いかがですか診断」に基づく小話。

    #マレイデ
    mareide.

    海は君の涙で出来ている「ずっと貴方を捜していました」
    黒衣を纏った男はそう言った。ポタポタと服の裾から落ちる水滴が、外が如何に荒れていたのかを示す。
    「……雨が降っていたのか?」
    「ええずっと」
    久しぶりに出した声は思ったよりも滑らかで、長いこと放置されて曇ったガラスからは外は見えない。
    「そうか……」
    久しぶりに動かした身体はギシギシと関節が悲鳴を上げ、手を一振りするだけでも重労働だった。
    ほとばしる煌めきは燃える緑で、次々と蝋燭に火を灯していく。燭台にへばりついていた蝋燭たちは最後の仕事とばかりに小さな灯りを灯し、室内の暗闇を祓った。
    「……ふふ、ここは何も変わらない」
    空気ですら時間を停めていたのに、扉から吹き込んだ風が100年の澱みを吹き飛ばす。
    「はい、あなたが望まれたとおりに」
    音もなく頬を伝った水滴がまた一粒、足元の海に吸い込まれる。ぽたりぽたり、エメラルドの瞳から落ちる水は無色透明なのに、足元に広がる海はどこまでも深い藍色を湛えていた。
    悲哀の色だった。
    「マレウス様」
    「うん」
    ぽた、ぽた。猫足の台に乗せられた棺以外は、どこもかしこも古びて埃だらけの小さな小屋で、そこだけ磨かれた宝石のように輝く妖精は、もう一度頷いた。
    誰かに名前を呼ばれるのは、久しぶりだった。まだ彼の声が残っている耳に、別の音を入れたくなかった筈なのに、どうにも彼の声は吹き抜ける風のようにマレウスを傷つけない。
    「マレウス様、もうそこには誰もいません」
    「……わかっている」
    本当にわかっているのだ。こんな棺などただのハリボテで、当の本人は炎に溶けたのだから。それでも、心臓を丸ごと握りつぶされたような痛みを、少しでも紛らわせたくて、彼が一番馴染んでいた懐かしい学園の棺を用意した。
    「……マレウス様、まずはお部屋を綺麗にしましょう」
    返事も待たずに指を振れば、小屋はたちまち息を吹き返した。曇り放題だった窓も綺麗に磨かれ、並々と水を湛えた外の風景を映し出す。
    「……あおい、ほのお」
    呆然と、見開かれた瞳からまたぽたりと、水滴が落ちて海が揺れる。
    穏やかに微笑んだシルバーの顔を始めて見上げ、マレウスは根を降ろした椅子から百年ぶりに立ち上がった。
    歩くたびに足元の海がちゃぷちゃぷと音をたてる。濡れた服が肌に張り付く煩わしさも気にせず、一直線に窓へ向かうマレウスの視線の先。空から落ちてくる青い炎はだんだんと大きさを増していく。
    慌てて外に駆け出すマレウスの邪魔にならないように、ドアを開け、横に避けていたシルバーは、百年ぶりに晴れた空に、大きな月がかかっているのを見た。
    ばしゃ、ばっしゃ
    百年の静寂を破る靴音はなんとも間抜けで、飛び方を忘れたドラゴンが一生懸命に海を駆けていく。その頭上に落ちてきた蒼炎は、光る尾鰭を拡散させながら、ポンと弾けた。
    声にならない彼の上に、ふわふわ落ちてくるのは、星の衣を纏った幼児だった。
    「こんな移動方法マジでありえない。僕が開発した方が絶対に良い。船酔いどころじゃない」
    ブツブツと文句を垂れながら空中に魔道ディスプレイを展開していた幼子は、いつかの弟にそっくりな髪の毛を振って、パッと顔を輝かせた。
    「マレウス! 受け止めて!」
    ばっと両手を広げた動きに合わせ、彼を包んでいた魔法光が溶ける。ひゅんと、重力に囚われ落ちる先には、ひどい顔をしたマレウスがいた。
    「……っ! イデア!!」
    「ただいま!!」
    元気に大声を上げ、マレウスの腕の中に飛び込んできた温度は、確かに愛おしい彼のものだった。
    「……っ! おか、えり。嗚呼、イデアっ!」
    ぎゅうぎゅうと苦しいほどに抱きしめる彼の腕の中で笑ったイデアは、まだぽろぽろと、海の雫をこぼす瞳に口付けた。
    「全く、マレウスがこんなに泣き虫だとは思わなかったよ。ほら泣きやんで」
    まだまだ小さな手で冷たい頬を撫で、目元に星の祝福を送る。
    「……僕も、知らなかった」
    「それじゃしょうがないよね。ほら、今の僕はマレウスよりずっと小さいんだから、早く腕で抱っこして」
    「もう少し」
    パチパチ弾ける炎の髪は、そこだけ海をほんの明るく照らし出す。哀しみの海に光が灯る。
    「……遅いぞ、イデア」
    胸元から聞こえる恨み言に、イデアはバツが悪そうに目を逸らした。
    「……泣きすぎて海を作ったドラゴンには言われたくないし」
    「なんてひどい恋人だ」
    そんな言葉も語尾は嬉しそうに跳ね上がっている。
    「ごめん、ごめんて。帰って来たんだからまずは僕の手土産話を聞いてよ、な、マレウス」
    小さく頷いた恋人の角ごと髪の毛を撫でつけてやり、イデアは上機嫌に頷いた。
    「ほら、あっちの小屋に行こう!一緒に!」
    「うん。一緒だ」
    静かな海は月を大きく写し、二つの影だけが小さく波紋を広げる。
    小さな小屋に百年ぶりの灯りが灯り、海は初めて煌めいた。
    静かで優しい夜だった。
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    小月 輝

    DONE嘆きの島産モブの帰省話
    モブランド2展示
    嘆きの島に雨は降らない。海の中にあるくせに、遠い先祖の土地と同じく水資源に乏しい島は、無機質な潔癖さに満ちている。住んでいた時には何も思わなかったのに、久しぶりに足を踏み入れた故郷は、知らない人のようだった。まだ来ない迎えにぶつけるように靴底で地面を強く踏む。カンーッと鳴るこの地面の音も、外にはない物だ。一見石畳に見えるのに遥かに滑らかで歩き易い塗装された地面。円形に敷き詰められた模様の外には、迎えが来ないと出れない。
    小さい頃は格好良いと憧れたカローンが囲む中でジュナはもどかしく首輪を引っ張った。魔法力の乏しい両親から生まれたジュナはなぜか豊富な魔力を持っていた。ヒューマン種の保持魔力は年齢と共に増加する傾向がある。両親がせめてプライマリーまでは、と偉い人に掛け合ってくて、ジュナは小学校に上がるまでは両親のもとで暮らす事が出来た。だが、この海底の島は、魔法力を持つ人は住めないのだ。ジュナは泣き喚きながら全寮制の名門プライマリーに送り込まれ、こうして偶にしか帰郷できない。里帰りの度に付けられる魔力制御装置の首輪を窮屈に感じたのも、島の外に出たからだ。
    1956

    小月 輝

    DONEガーデンバース忘羨のタグで花の日のお祭りに参加した時のお話
    花を編む起きた時に感じるのは満たされた幸福感だった。
    ぬるま湯に浸るような心地よい寝床で目を覚まして、一番に目に入るのが美しい夫の寝顔である事にも慣れてしまう程の時間が過ぎた。ゆっくりと藍忘機に体重をかけないように起き上がり、くわりと大きく欠伸をする。半蔀から差し込む光はまだぼやけていて、明朝というにも早い時間に魏無羨が毎日起きているだなんて、この世でただ一人を除いて誰も信じないだろう。藍家の家規で定められている卯の刻起床よりも早い、まだ草木も鳥も寝静まっている時間だ。もちろん時間に正確な魏無羨の美人な夫もまだ寝ている。
    毎晩あんなに激しく魏無羨を苛んでいるとは思えない静謐な寝顔に、思わず頬が緩むのをおっといけないと押さえて、だらしなく寝崩した衣を更に肌蹴る。魏無羨は美しい夫の顔を何刻でも見ていられたが、今はそれよりもすべき事があるのだ。腕や胸、内腿まで、体のあちこちに咲いている花を摘んでいく。紅梅、蝋梅、山茶花、寒椿に芍薬、色とりどりに咲き乱れる花々は魏無羨が花生みである証であると同時に、昨晩藍忘機にたっぷりと水やりをされた証でもある。栄養過多になると、魏無羨の体は花を咲かせる事で消費するのだ。だから、毎朝、一つずつ丁寧に摘んでいく。
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