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    hico2号

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    ※腐向け/轟出とか

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    hico2号

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    轟出/去年のクリスマス話としてpixiv掲載中の『追ったきらきら、のみこんだ』の直後の時間軸、緑谷君視点ver.です。あちらの話からでないとイミフです💦
    12/17のそばそばで発行した個人誌に書き下ろしとして掲載しています。通販ご利用頂いた方には、お手元に届くより早いweb公開となり、すみません…。奥付ページに入れた、更にその後のオチ?については本のみの掲載なので、併せて見て頂けたら嬉しいです。

    見上げたきらきら、とりこんだ■side: lovers ver. I

     轟くんがかっこいい。
     誰にともなく胸中でそんな惚気を叫んで、出久は両手で顔を覆うとずるずると自室の床に座り込んだ。
     母が夕飯を作ってくれているのは分かっているが、余韻がすごくてまだ顔を出せそうにない。
     目を閉じれば容易に瞼の裏に描ける街のライティング、隣を歩く好きな人の優しい表情。人の視線を気にする出久を慮ってか身体の間で隠すように握られた手のひらの温度。それから、はじめての———
    「—――ッ‼」
     ぼぼっと耳まで赤くして、顔を覆っていた手のひらを口元にずらした。心臓がとび出そうだ。かさついた自分の手が、まだあの感触をありありと思い出せる唇を辿る。
     考え込む時のいつもの癖のように、むに、とそこを指先でつまんで少し落ち込んだ。
     こんなにカサカサのところへ、あんなにしっとりとあたたかく、夢のようにやわらかいものが人生で触れることがあるとは思ってこなかったのだ。しかも、最愛の人から、最高にロマンチックなシチュエーションで。思い出すだけで勝手に体温が上がった。
     荒れた皮膚に触れて、がっかりされなかっただろうか。嘗てないほど顔を近づけて、何か変なところはなかっただろうか。
     あの後、特にそのことについては敢えてお互い触れずに、ばくばく鳴る心臓を宥めながらイルミネーションを見て歩いた。どうしても気になって何度か隣を見上げれば、盗み見たつもりが必ず目線が合ってその度に出久の心臓はゴムボールより跳ねた。
    (かっこよかったっ……スマートだった! 手を繋いでくれるタイミングも、気遣いも、キ、キッ、……も、全部! やっぱりさすがかっこいい轟くんは慣れてるっていうか……いやでも轟くんも付き合うのは僕が初めてだって言ってたし……えってことは初めてであれ? ウ、ウソだろ……)
     どこで差がついたのか、早くも如実に実感してしまった経験値の違いに撃沈した。緊張で指先を冷やしていたところに、見透かされたように左手で温められ、人にぶつかりそうになればそっと抱き寄せられる。浮かれて話しすぎたかな、と少し恥ずかしさと共に不安になってきたところで、ベンチに腰を落ち着けて身体の内側からカフェオレで温まり、向けられた視線の優しさに杞憂だと知る。一つ一つ思い出してはじたばたと暴れたくなるのを堪えて、抱えた膝に額を押し付けた。
     ふとプレゼントの存在を思い出し、一度乱雑に床に置いてしまったカバンを慌てて引き寄せる。
     大事に取り出した緑色の袋の中身に何の損傷もないことを確かめて、ほっと息を吐いた。小さな鉢を両手で包み、クリスマスらしい色合いに目を細める。
     待ち合わせ前にプレゼントを買いに行っておいて本当によかった、と胸を撫で下ろした。もらっておいて自分からは何も用意がなかったら、後悔するどころじゃ済まなかっただろう。
     焦凍との待ち合わせ時間よりも早く寮を出た出久は、ショッピングモールに寄っていた。
     渡すタイミングがなければそれはそれ、と焦り半分、浮かれた気持ち半分で目星をつけていた売り場へ急ぐ。和雑貨が集められた一角で、焦凍が普段使いそうな湯呑みや箸などの消耗品の域を出ない品を吟味しつつ、ふと季節の花々が飾られた棚が目についた。
     気兼ねなく受け取ってもらえそうな消え物にしようと考えていたが、不意に手が伸びた紅白の梅の花。涼やかなトルコブルーの鉢も彼の個性の半分を思わせて、気がつけば会計を済ませていた。
     このくらいなら、なんて事ないプレゼントだろう。和室の雰囲気に合いそうだし、もしかしたら寮の部屋に飾ってくれるかもしれない。そうしたら一日何度か目にするその度に、送り主である自分を一瞬思い出してくれるかもしれない。
     そんなことを考えている自分が打算的に思えて、けれど季節柄おかしい品でもないはずだ、と言い訳を重ねて、出久は少しだけ落ち込んだ。
     焦凍からのプレゼントを開けて目にした時、選んだ物の似た色合いに内心驚きはしたものの、クリスマスらしい品物だったのもあって動揺せずに受け取れた。まさかそれを、心境まで自分と似た理由で選んでくれたなんて夢にも思わない。
     未だに雲を踏んでいるみたいな頼りない両足を床に押し付けて、体育座りしたままスマートフォンのメッセージアプリを起動した。家に帰り着いた旨と、今日のお礼を送信する。
     少し悩んでから、笑顔ではしゃいでいるウサギのスタンプを追加した。これ緑谷に似てねぇか、と今まさに送信した相手に言われてダウンロードしたスタンプだ。
    【ポインセチアも飾ったよ。でも、クリスマスまでは僕の部屋じゃなくて目立つところに置いてあげることにするよ】
     焦凍からのプレゼントだと、後で母にも見せて暫くは目につくところに飾ろう。そんなことを考えていると、ほどなく手の中のスマートフォンが震えてメッセージの受信を知らせる。
    【俺も家着いた。今日はありがとな】
    【なんで緑谷を連れてこないんだ、って姉さんが拗ねた】
    【次は初詣とかで、会ってくれると嬉しい】
     ふふ、と出久は小さく笑みを零した。
    「お姉さんか……どんな人だろう」
     たまに会話にのぼる内容を聞くに、やさしい人なのだろうということは分かる。まだ直接会ったことはないが、焦凍の家族に自分が認識されているということがこそばゆかった。
     よろこんで。またどこか行こうね。夕飯なぁに? 送信する言葉は気泡のように次から次へと浮かぶのに、どれもこれもが違う、と主張して、次の返信がなかなか打ち込めない。ひとつ、抑え込んでいないと飛び出しそうな大きな感情が大元に鎮座しているせいだ。
    「轟くん」
     息を吸って吐く。まったく同じように、感情がこぼれた。
    「だいすき」
     小さく口にしながら、同じ文字をメッセージ欄に打ち込んだ。だが当然、送信できるわけはない。
     暫く画面とにらめっこして、何をやっているんだか、と消去キーを押そうとした時だ。
    「あ、」
     焦凍から今日撮った写真が一枚送られてきた。それをタップしようとして、何かを誤送信する。
    「えっうわ今なに」
     慌てて消去キーを押してからメッセージ欄を見ると、今しがた自分が送信したスタンプが一つ。頬を染めたウサギが、小さなハートを周囲に散らしながら両手に抱き締めた巨大なハートを差し出している。
    「ウワ――――ッなんか押した! えぇなにこのかわいいの……僕が使うなよぶりっ子か……?」
     だいすき、という文言を打ち込んでいたので、それに関連するスタンプが自動表示されていたのをうっかりタップしたらしい。そういう機能いらないです! と頭を抱えながら、それにしても過去一度も使ったことのないスタンプでなんとも恥ずかしい。
     会話中なのだからアプリを開きっぱなしにしていたのだろう、即座に『既読』マークがついてもう見られてしまったのは分かっている。脈絡がなさすぎて、焦凍はきっと不思議そうな顔をしていることだろう。特に意味はない誤送信として、スルーでいいだろうか。
     出久の葛藤を余所に、またスマートフォンが震えた。
    【今電話繋いでもいいか?】
     電話? と目を丸くして、スタンプは特に気にされてなさそうだな、と安堵する。念のためこれから通話すると母親に一声かけてから、出久は了承の返事をした。すると本当に数秒後に着信がある。
    「は、はいっ、もしもし」
    『悪い、もう飯だよな』
    「ううん、大丈夫。どうかしたの?」
    『もうすぐ夕食だからそれまで待ってろって、少しだけ時間持て余しちまって』
    「なるほど」
    『何か手伝おうとしたら、特にねえって追い出されちまった』
    「ふふ。お姉さん、今日は轟くんにもてなされる側でいてほしいんだよ」
     姉弟のやりとりを想像して胸があたたかくなる。そうして出来た僅かな時間に、さっきまで一緒にいた自分をまた選んでもらえるというのも嬉しかった。
    「あ、写真ありがとう。こうやって見るとまたすごいね!なんだかまだ視界がキラキラしてる気がするんだ」
    『ずっと目ぇキラキラさせて見てたもんな、お前』
    「えっ? そ、そう……? かな」
     ずっとと言われるほど見られていたのか、と考えてしまって頬に熱がのぼる。
    『そうだ、初詣行くか? A組でそういう話が出るかもしれねぇけど』
    「行きたい! えへへ、何回だって行けば楽しいよ」
     少し間があって、そうだな、と返ってくる。クラスの皆でわいわい行くのも勿論楽しいけれど、二人きりで出かけることの楽しさを味わってしまったから。同意を得られたようで、出久は胸をときめかせた。全身を駆け巡るだいすき、が大きくなる。
    「あっ、あのさ。何でも気兼ねなく、誘ってくれていいからね! ……じゃなくて、誘ってもらえたら嬉しい、です」
     言葉を選ぶように、赤くなった頬を掻く。
    「もうすでに行ってたり、もし他の人と予定があっても、何度だって行けばいいし! 僕は、轟くんとも二人で行けたら……楽しいし、嬉しいなって」
     数拍の間があって、どきどきと返答を待つ。きっと目を僅かに大きくして、向こうも言葉を探してくれているんだろうなと思う。容易に想像できるくらいには、出久はたくさん焦凍を見てきた。
    「俺も。行ける行けないは別にして、緑谷に誘ってもらえたら嬉しい」
     そういう事だろ、と尋ねる低く僅かに喜色を帯びた声に、嬉しくなって何度も頷いた。
    「また何か、季節らしいものを見に歩くだけでもいいね」
    『ん。そしたら何がしたい?』
     穏やかな問いに、出久は考えた。
     今日立ち寄ったドリンクスタンドを思い出す。普段あまり立ち寄らないが、おいしそうなメニューがたくさんあった。季節ならではのドリンクを目的に出かけるのも楽しそうだ。今日みたいに、とりとめない会話をしながら二人で並んで歩いて、それで。
     夢想の延長に、ぽろりと願望が零れ落ちる。
    「もう一回、キスしたい……」
     電話の向こうでドタンがたんと大きな音がした。
    「わっ、と、轟くん? 何かすごい音がっ……大丈夫?」
    『いや、おま、えな……』
     僅かに震えた声。何かをこらえているような、そうでなければ照れているような。そう気付いて出久は思わずそんなレアな表情見たかった、と前のめりになった。そして自分の今しがたの発言をようやく反芻する。肌という肌からぼっと火を噴いた。
    「あっいや! その! わ、忘れて‼」
    『無理だろ』
     きっぱりと猶予もない。
    『言質とったからな』
     どこか楽しそうな声音に、羞恥やいたたまれなさはあれどやっぱり表情が見たい、と思ってしまった。
     そっと己の唇をなぞる。かさついた指先のささくれと、唇の皮膚の固い部分が摩擦でひっかかった。人生で唇の荒れ具合を気にする日が来るとは思わなかった。次までには、絶対に改善しておこうと誓う。〝次〟と意識して、渦巻いた色々な感情と熱を押し込めるようにぎゅうと目を瞑る。
     どこか甘やかな空気を漂わせながら、二人同時に名残惜しくも通話の終わりを予感した。出久は少し焦る。
    『それじゃ、ありがとな。帰って早々に悪かった』
    「あ……あのね、轟くん」
     今言え、言うんだ、と拳を握りしめる。
     伝えることの大切さは知っている。そして焦凍は、受け止めてくれる人だと知っている。
     ——顔が見えない分、少し勇気を出せばいいだけだろ!
     電話を切らずに待っていてくれている優しい人へ、もう一度あのね、と唇を湿らせて出久は息を吸い込んだ。
     さっきメッセージでは送信できなかった四文字をそっと舌に乗せると、また電話向こうではガタンばたんと盛大な音がした。





    HAPPY HOLIDAYS!

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    hico2号

    DOODLE高校生轟出。診断メーカーで『初夢に互いが出てきた無自覚両片思いtdizは二人とも好きな人の名前を全力で叫ばないと出れない部屋に入れられました』と出たので、フワーッと浮かんだのをお題を少し改変して短いのを書きました🎍ほんとは初夢って大晦日じゃなくて1日に寝て見る夢だけどもまぁ…目を瞑って!
    好きな人の名前を全力で叫ばないと出られない部屋に入れられた付き合ってない無自覚の高校生轟出「あれ……」
     眠いような、重いような頭を揺らして、ぼんやりした視界でなんとか像を結ぶ。けれど何もなかった。どこか、白一色の空間に佇んでいる。
     何をしてるところだったっけ?
     ぐるりと周囲を見回すと、見知った友人が思いの外近くにいて思わず声を上げた。
    「えっ、轟くん!」
    「……緑谷……?」
     僕の顔を認めた後、さっきまでの僕と同じようにこめかみを押さえて、周囲を見回している。
    「どこだ、ここ?」
    「わかんない……僕ら閉じ込められたのかな?」
     床も天井も、四方全てが白い簡素な空間で、ドアも窓も見当たらないことは一目瞭然だ。
    「ここに来るまでの記憶あるか?」
    「それが、何も……」
    「そうか。原因はわからねぇが、立ったまま寝てたとは……考えたくねェな」
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    hico2号

    MOURNING轟出/去年のクリスマス話としてpixiv掲載中の『追ったきらきら、のみこんだ』の直後の時間軸、緑谷君視点ver.です。あちらの話からでないとイミフです💦
    12/17のそばそばで発行した個人誌に書き下ろしとして掲載しています。通販ご利用頂いた方には、お手元に届くより早いweb公開となり、すみません…。奥付ページに入れた、更にその後のオチ?については本のみの掲載なので、併せて見て頂けたら嬉しいです。
    見上げたきらきら、とりこんだ■side: lovers ver. I

     轟くんがかっこいい。
     誰にともなく胸中でそんな惚気を叫んで、出久は両手で顔を覆うとずるずると自室の床に座り込んだ。
     母が夕飯を作ってくれているのは分かっているが、余韻がすごくてまだ顔を出せそうにない。
     目を閉じれば容易に瞼の裏に描ける街のライティング、隣を歩く好きな人の優しい表情。人の視線を気にする出久を慮ってか身体の間で隠すように握られた手のひらの温度。それから、はじめての———
    「—――ッ‼」
     ぼぼっと耳まで赤くして、顔を覆っていた手のひらを口元にずらした。心臓がとび出そうだ。かさついた自分の手が、まだあの感触をありありと思い出せる唇を辿る。
     考え込む時のいつもの癖のように、むに、とそこを指先でつまんで少し落ち込んだ。
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