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    シュカ

    @shuka_op

    遅筆

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    シュカ

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    Dom/Subコラロ
    Domコラさん×Switchロー
    現パロ幼馴染
    くっついてない二人がくっついてイチャイチャするとこまで書きたい(まだ途中)

    COMMAND ME,PLEASE最近のおれは、毎日のように謎の不調に悩まされていた。
    倦怠感や眩暈や頭痛……とにかく身体がすっきりしない。頭もぼんやりして、常にモヤがかかった感じ。最初は単なる風邪かと考えていたが、何日も続く不調と、風邪薬でも解消しないその症状の原因に、心当たりがあった。
    簡単にいえば、欲求不満。けれどただの欲求不満ではない。
    ダイナミクスに起因しているものだった。

    ダイナミクス──全人口の約三割の人間が持つ、第二の性別。性別が男と女に分けられるように、ダイナミクスもDominantとSubmissivに分けられる。
    Dominantは通称Domと呼ばれ、本能的に支配的な欲を持つ人間。反対にSubmissiv(通称Sub)は被支配的な欲を持つ。
    支配欲は普通の人間にも備わっているものだが、ダイナミクスはただの欲求とは違う。睡眠欲や食欲と同じで、不足すると身体を壊す。
    おれも半年前に受けた検査でDomだということがわかっている。だからこの不調は、ダイナミクスが起因している可能性が高い。
    高校受験が迫ってきている中、こんなことで体調を崩すわけにはいかないが、この欲求不満を解消するには、少々面倒があった。

    ダイナミクスを持つ人間がこの欲求を解消するためには、誰かを支配するか──支配されないといけない。けれど人を支配する、なんてのは道徳的にも法律的にも許されていない。だから道徳的にも法律的にも許される「プレイ」と言う行為が存在している。
    プレイは、DomとSubの間で簡易的な支配と被支配を生み出す行為だ。決められた指示を出し、それに従う。ただそれだけの行為だが、DomもSubも大抵はプレイで欲求が解消される。
    とはいえ、そもそもダイナミクスを持つ人間は全人口の約三割。最近は増えてきているというが、それでもまだマイノリティ側だ。
    DomもSubも心を許せる相手を見つけるのはなかなか大変で、まだ未発達な未成年のダイナミクス持ちは薬で欲求を抑えていることが多い。

    おれも例に漏れず薬を飲んでいるが、この不調。薬が合わなかったのか、それとも欲求が強いのか。どちらにしても誰かとプレイをしなければこの不調は解消されないだろう。
    プレイをする相手のことをパートナーと呼ぶが、おれにはパートナーがいない。パートナーがいないダイナミクス持ちはどうやって欲求を解消するか。
    一つは病院。ダイナミクス専門のクリニックでは簡単なプレイをしてくれる専門医がいる。
    もう一つはマッチング店。ダイナミクスを持っていない人間でいうところの風俗店だ。
    プレイが性的なものに繋がることが多いので大抵のマッチング店が風俗店とほとんど同じ形態をとっている。
    もちろん未成年者はいけないので、おれが取れる手段としては前者しかない。
    けれどクリニックは大抵予約で埋まっていて、いますぐにどうにかしてくれというのは難しいだろう。誰か学校でSubがいれば……と思うが、大抵のSubは変に目をつけられたくないからという理由で黙っていることが多い。
    結論から言えばクリニックしかないので、もうそろそろ両親に不調を打ち明けて、どこかクリニックを予約してもらうしかない。
    そんなことを考えていた頃だ。


    その日も朝から体調は優れず、登校して授業に出たのはいいものの、途中から授業が聞けなくなるほど体調が悪くなった。何にも集中できないので、早退の許可をもらい、「親が迎えにくる」と嘘をつき、学校を出た。
    自分の体調は自分が一番よくわかっていて、家に帰るくらいは大丈夫だろうと思っての行動だったが、もう少しで家に着く、というところで完全に足が止まった。
    これまでに感じたことのない、身体の奥から蝕まれるような気持ちの悪さに、手足がついてこなくなった。道の端でしゃがみ込み、目を瞑る。
    おかしな感覚だった。気持ちが悪いが、気持ちの悪さがどこからきているのかわからない。段々と息が苦しくなるような気がして、ゆっくり息を吸い込んだ。
    この体調の悪さには波がある。いつもそうだ。少し良くなったタイミングで動けばいい。そう考えているうちに、人が歩いて来る気配がした。頭の端で一瞬ごちゃごちゃとした思考が湧いたが、気持ち悪さが上回ってと考えは何もまとまらず、自分の呼吸に集中することにした時だった。
    「あのー」
    突然声をかけられたことに、びくりと身体が揺れるほど驚いてしまった。息苦しさに加えて心臓が跳ねたので余計に体調が悪化した気がした。
    「大丈夫?」
    男の声だった。道の端でしゃがみ込んでいたおれが心配で声をかけてきてくれたのだろう。けれど答える余裕がなく、大丈夫だから、と、手で追い払おうとすると、相手の男がさらに近づいた気配がした。
    「あれっ、ロー?」
    その声に、おれは視線を少しだけ上げた。
    「やっぱローだ。どうした?大丈夫か?」
    目の前にいたのはコラさんだった。
    大きな体躯を折り曲げて、金髪の重い前髪の間から赤い瞳を覗かせている。
    「……コラさん……?」
    コラさんはおれの幼馴染だ。といってもコラさんの方がかなり年上だけれど。本当はドンキホーテ・ロシナンテという名前だけど、コラさんというあだ名が定着してしまっている。あんまり小さい時の出来事で、どうして『コラさん』と呼ぶようになったのかはどちらも覚えていないけれど、お互いそれで呼ぶことと呼ばれることに慣れてしまっていて、もう疑問にも思わない。
    コラさんはしゃがんだまま、おれの顔を見ようとしていた。
    「ロー?どうしたこんなとこで?どっか痛いのか?」
    おれも、相手がコラさんだとわかって少しほっとしていた。少なくともコラさんは、おれが弱みを見せられる相手だ。
    「……気持ち悪い」
    正直に症状を告げると、コラさんは「とりあえず荷物下ろそうか」と、おれのリュックを背中から取ってゆっくり背中をさすってくれた。
    「救急車呼ぶか?」
    おれの症状を確認しながら、コラさんが聞いてくれる。けど、流石にそこまで悪くはない。
    「……少し休めば……良くなる」
    波があるし、良くなってから帰るよ、と、コラさんに伝えた。心配をかけたくなかったのでなるべく平静を保った声で。だけどコラさんも体調の悪い子供を一人で道端に置いていけなかったんだろう。仕事が警察なだけあって、世話焼きだ。
    「な、家近いし連れてってもいいか?」
    コラさんはおれの家を知っている。何度も遊びに来たことがある。だからおれの家がもうほとんど家の目の前だとも知っている。少し悩んだけれど、「もう少しだからひとりで大丈夫だ」と、答えようとした瞬間に、おれの足は地面から浮いていた。
    「う、わっ」
    急に視界が動いて、思わず目を瞑った。
    気付くとコラさんの腕の中、いわゆるお姫様抱っこみたいな状態で抱きかかえられていた。おれは同い年の人間の中で、決して小柄ではないし、なんなら、クラスでも一番背が高い。だけどコラさんはおれよりもっとデカい。警察官という職業柄、普段から鍛えているというのもあるのか、おれの体重なんてなんともないという風に、なんの抵抗もなく抱き上げられた。
    気持ちが悪かったが、頭は少し冷静で、
    (どこかに掴まった方がいいかな)
    なんて考えていた時だった。
    「動くなよ?」
    と、コラさんが声をかけてきた。
    おれはその言葉を聞いた瞬間、金縛りみたいに身体が動かなくなった。
    なんだこれ、と、思ったが、唇すら動かない。
    なんとか目だけ開けられたので、じっとコラさんの顔を見つめる。おれの視線に気付いたのか、コラさんと目があった。
    コラさんは少し首を傾げたけれど、「もうちょっと我慢な」と、だけ言った。
    その言葉にまた、身体がおかしくなる。足の先がじわじわ痺れて、暴れ出したい気分だった。






    ローの家は一戸建ての豪勢な家だ。
    医者家族が住んでいるとだけあって近所でも有名な大きな家だったが、おれはその家のことをよく知っていた。幼いローにせがまれ何度も遊びに来た家である。
    ローのカバンから鍵を取り出し、外門を開ける。ローを落っことさないように、ドジをしないように、と、慎重に慎重を重ねていたら、「大丈夫か?」と、逆に心配されてしまった。
    もちろん大丈夫だと豪語して、玄関の鍵を開け、そのまま階段を上がった。勝手知ったる他人の家とはよく言うが、今のおれがまさにそうだった。迷うことなくローの部屋に向かい、ドアを開けた。久々に入った彼の部屋は、昔と何ら変わりない。ベッドに横にさせようと思ったが、ドジって落とすのが怖かったので、まずはローを抱えたままベッドの端に座った。
    「ロー、大丈夫か?水とかいるか?」 
    顔を覗き込むと、さっきまで真っ青だった顔色に少し血の色が戻ってきていた。ちょっと安心したが、相変わらず苦虫を噛み潰したような表情で眉を寄せていた。
    「ちょっとごめんな」
    言いながら額に手を当ててみるが、熱はない。むしろ体温は低かった。
    「どっか痛い?」
    なんでこんなに具合が悪いのか、原因を探ろうと聞くと、ローはゆっくり首を横に振った。熱はない、痛くもない、が、この状況で、救急車は呼ばなくていい、と。
    おれはローが彼の両親と同じ医者を目指していることは知っていたし、頭のいいヤツだということも知っていた。だからこそ、今の状況でローがなにも『できない』理由を考えた。
    「……ロー、ダイナミクスってもう出てるか?」
    さっきちょっと気になった反応を思い出して聞いてみる。おれが「動くな」と言った時、急に身体が強張っていた。おれはDomだから普段から無意識に『命令』しないようにしているけれど、ローがダイナミクスの不調を抱えているなら、事故的にコマンドが通ってしまったかもしれない。
    おれの質問に、ローは苦い顔のまま一度頷いた。
    「……Domって診断されてる……薬は飲んでるけど……もう半年以上飲んでるし副作用じゃないはずだ……」
    おれの聞き間違いだろうか。Dom?Subではなく?
    「おまえ……Subじゃねえの?」
    口に出ていた。
    「Sub……?Domだけど……?」
    おれの言葉に、ローは首を捻った。まあそりゃそうか、検査してDomだと診断されてるんならそりゃDomだ。だけど、今のローはDomというよりは──
    頭をよぎった可能性に、おれはローを呼んだ・・・
    「ロー、Lookこっち見て







    その言葉が耳に入った瞬間、脳を揺さぶられたような感覚に陥った。

    呼ばれた・・・・

    確かに呼ばれた。その言葉に、従いたい。と思った。
    呼ばれた方を見る。いや、見てしまう。目が離せない。
    同じDom同士でも、ランクが高ければ相手のDomを押さえつけたりすることができると言うけれど、今、おれが感じたのは、同じDomとしての畏れなんかじゃなくて──従いたいという欲求だった。
    おれの顔を見て、コラさんは少し目を細めた。それから、呼吸を一つ。
    「── Switch変われ
    刹那、おれの身体のてっぺんから足の先まで電気が走った。『雷に打たれたような』感覚だった。それから、胸の奥から湧き上がる不思議な感情に、困惑した。いますぐコラさんに、命令されたい。そう思った。
    ただ思っただけじゃない。腹が減りすぎた時みたいな、とにかく身体が欲求を欲している時みたいな状態で。
    自分に何が起こっているかわからなくて、気づけばコラさんの服を強く掴んでいた。
    おれがコラさんから目を離せないままでいると、コラさんはふっと目を細めて、大きな手をおれの頭を撫でた。
    「突然びっくりしたよな。ごめん。よくできました」
    ドジなコラさんとは思えないくらい優しい手で頭を撫でられながら褒められて、おれの身体はおかしくなった。足の先から、快感がせり上がり、わけのわからない多幸感に襲われる。なんだこれ、と、おれが理解する前に、コラさんはおれの顔を覗き込んだ。
    「どうだ? 気持ち悪くないか?」
    気持ち悪くないどころか、気持ちがいい。けれど、自分の身体の変化に頭がついて行かない。おれが目を瞬かせていると、コラさんがまた『言った』
    「ロー、言って?」
    その言葉に、身体がビリビリした。目の奥がぱちぱち弾ける。おれはコラさんの言葉に従うことしかできない。全部コラさんの言うとおりにして、褒めてもらいたいと思った。魔法でもかけられたんじゃないかと思うほど、自然と言葉が口をついてでる。
    「きもちわるく、ない」
    小声でなんとか伝えると、コラさんの表情が和らいだ。
    「よし、Good boy。ちゃんと言えていい子だな。偉いぞ」
    「っ……ぁ、」
    コラさんの大きな手が、おれの髪を梳かすように何度も撫でる。気持ちがいい。さっきまでの気持ち悪さが嘘みたいだ。ただ心地いいだけの気持ち悪さだけじゃない。性的な快感みたいなものまで湧いてくる。
    「セーフワードもなしにごめんな。嫌だったらちゃんとストップっていうんだぞ、いいな?」
    コラさんはおれを撫でながら、幼い子供に言い聞かせるような声を出した。コラさんの声は心地よくて、おれはぼんやりとしたまま聞いていた。
    「うん……」
    いやだったら、すとっぷっていう。
    頭の中で何度か繰り返す。
    気持ちがいいのにクラクラする、不思議な感覚に身を任せていると、コラさんは、
    「もうちょっとだけ大丈夫か?」
    と、声をかけてきた。
    何が大丈夫なのかおれにはわからなかったが、コラさんのいうことなら大丈夫だろう、と、軽く頷く。するとコラさんはおれの身体をひょいと持ち上げてベッドの上に座らせた。なんだろう、と思いながら今にも倒れたい気持ちを抑えて座っていると、コラさんがまた、おれを呼んだ・・・
    「よし、じゃあロー、Comeおいで
    その声が耳に入った瞬間、おれの身体はまたおかしくなった。おいで、なんて。普段ならなんともないそれだけの言葉に、おれの身体は喜んでいる。その言葉に従いたい、と、本能が叫んでいる。一メートルもない距離だったけれど、おれはコラさんに近づいていた。コラさんは軽く腕を広げておれを待っていた。
    その腕の中までなら行ってもいいのだと判断して、のろのろと近づく。コラさんの太ももの上まで行っていいのか少し迷って顔を見上げると、コラさんはにっこり笑ってまたおれを抱き上げた。
    「いい子だ。良くできました」
    抱き上げられた途端、耳元で囁かれた言葉に、おれの脳みそは溶けていくようだった。多幸感と快感に襲われて、身体がおかしくなりそうだ。プレイがセックスに繋がるというのを頭では理解していたけれど、本当の意味で理解できていなかった。どうしようもなく気持ちが良くなって、何もしていないのに熱が股間に集まる。スラックスが押し上げられて窮屈なのが鬱陶しい。だけど頭はぼんやりとしていて、不快より快を感じている。コラさんがおれを褒める。その度に、気持ちいいということしかわからなくなる。もっと気持ち良くなりたくて、下腹部に手を伸ばす。スラックスを脱ごうとベルトに手をかけたところで、コラさんが「ストップ」と声をかけてきた。
    その命令で、おれの身体はガチガチに固まって、コラさんの次の言葉を待っていた。
    「ごめんなロ〜、辛いよな。でも我慢な?」
    コラさんの声が鼓膜を揺らすたび、おれは変になっていく。目の前が潤んでぼやける。コラさんはおれの手を握って、「いい子」と、囁いた。
    褒められた瞬間、おれは本当に訳がわからなくなった。気持ちいい。頭の中がフワフワして、幸せで、コラさんにもっと命令して欲しい。全部曝け出してしまいたい。
    「コラ、さん……へんだ……気持ち良すぎて……」
    「スペースに入れたんだ。大丈夫怖くない」
    「すぺー、す?」
    「うん。ローがおれを信頼してくれてる証拠だ」
    コラさんが何か言ってくれているのはわかったけれど、話が耳を抜けていく。声が心地いい。
    「後で説明してやる。どうせ最近寝れてなかったんだろ?いいぞこのまま寝ちまって」
    寝ていい、という声に、おれの意識は遠のいていった。



    はっと目を開けると、自分の部屋のベッドで寝ていた。部屋の中も、外の窓も暗くなっていて、時計を見ると短い針は十の文字を過ぎていた。帰宅したのは昼過ぎだったはず、あの時はコラさんがいて……と、思い出しながらも、驚くほど身体がスッキリしていることに気がついた。気持ち悪さも倦怠感もなく、不思議と頭が冴えていた。これがプレイによる欲求の解消方法か、と、何故だか他人事のように思った。
    目覚めたことを報告しようと自室から出て、階段を下りリビングに向かうと、両親が驚いたようにおれを出迎えた。
    二人から話を聞くと、コラさんはおれが眠ってしまった後も家にいてくれたらしい。妹が帰ってきた時に両親に連絡してくれるよう頼んで、それから両親が帰ってくるまで待って、事の顛末を説明してから帰って行ったそうだ。おれは体調不良を隠していたことを怒られたが、コラさんが色々説明してくれたそうで、もう一度ダイナミクスの検査を受けることになった。
    詳細な検査をした結果、おれはSwitchだということがわかった。Switchは、DomとSub、両方の性質を持つ人間で、ダイナミクスを持つ少数の中でもさらにごく少数しかいない。
    おれの場合、先に発現したのがDomの性質だったからDomと間違えられ、処方の薬もDomの性質を抑えるものを与えられていた。そんな中でSubの性質も発現し、バランスが取れなくなって体調を崩したのだろう。というのが医師の見立てであった。
    Switch用の薬を服用しはじめてからはダイナミクスが原因する体調不良はなくなった。
    おれがSwitchだと気づけたのはコラさんのおかげだが、あの日からずっと彼とのプレイが忘れられない。








    「ローさん、顔色悪いっすよ」
    勤務先の病院で、仲の良い年上の後輩に言われた言葉にドキリとした。普段から顔色が良くないと言われることが多いが、今回の顔色の悪さには心当たりがあった。
    ダイナミクスに関係した不調である。
    薬で誤魔化してはいたがそろそろ限界だった。
    「知ってる」
    自分の体調は自分がよく分かっている。と答えると、彼は冷ややかな眼差しでこちらを見てきた。
    「忙しいんだよ……」
    言い訳がましかったが、事実ではある。
    医者という職業柄、ダイナミクス持ちの患者には「パートナーはいた方がいい」なんて指導するが、おれにはパートナーがいない。おれだってパートナーはいた方がいいとわかっているのだが、なかなかパートナーを作れないのはあの記憶のせいだ。
    あの強烈な初体験が、どうしても忘れられない。
    例えプレイをしたとしても、あれほどに気持ち良かったことがなく、毎回虚しくなってしまう。だから進んでプレイをしないというのも、体調不良になる理由だと自分でも分かっていた。
    それでもプレイを全くしないよりはしたほうが体調は良くなるし、満足感はあるが、どうしてもあの日のことと比べてしまうと充足感が低い。特に自分がSub側でプレイした時なんかそうだ。
    もやりと胸中に浮かんだマイナスな感情を誤魔化すために後輩を見ると、まだじっとりとした目でこちらを見つめていた。
    「……今日解消してくる」
    心配してくれているのはわかるので、諦めて言質を渡すと、後輩はやれやれ、とため息をついた。



    Switchの人間は、Domの欲求もSubの欲求も持っている。だから両方の欲求を解消しないといけない。つまりパートナー探しは難航する。
    ──と、思われがちなのだが、不思議なことにおれは違った。
    おれは片方の欲求が満たされればもう片方の欲求も満たされる性質らしく、どちらかでプレイできればそれでよかった。
    ただ、Domでプレイしようが、Subでプレイしようが、心から満たされるということがない。
    やっぱりパートナーのように信頼できるプレイ相手を作らなければいけないのだろう。
    とはいっても、おれだってプレイ相手を信用していないわけじゃない。
    なんといっても彼らはプロだ。
    おれが誰かとプレイをするとき、選ぶのは大抵、ダイナミクス特区にある『店』の店員だった。
    ダイナミクス特区と呼ばれるその場所は大抵、大きな都市の繁華街近くにある。
    ダイナミクスを持った人間が集まる場所と言えばわかりやすいだろうか。
    特区では法にさえ乗っ取っていれば屋外でプレイをしていようが気にするものはいない。ノーマルの人間からしたらいかがわしい街だという認識だが、ダイナミクス持ちにとっては都合のいい場所である為、いつでも人が集まっている。
    おれはその特区の中にあるプレイ専門の店に、時折足を運んでいた。
    プレイ専門店というのは、一般でいう風俗店と似ている。
    客が店員を選んで、プレイをする。ただ、プレイはどうしても性的接触につながることが多いので、風俗店のような形態の店が多い。
    もちろん、『単純なプレイだけ』の店もある。
    そういった店は健全店と呼ばれていて、どちらかといえば、病院のカウンセラーに近い。とはいえ、医療機関のカウンセラーは大抵予約で数ヶ月先まで埋まっているので、割高であろうと行く人間は多い。
    おれが行くのも健全店だ。別に風俗の形態をとっている店でもいいのだが、慣れているという理由でずっと同じ店に世話になっている。


    夜の特区は、外でプレイしている人間も多い。
    不調の時は身体がDomにもSubにも揺らいでいるので、ふいに聞こえたコマンドに反応してしまわないよう、コマンドが耳に入らないように通り抜ける。
    欲に忠実な彼らを少し羨ましく感じつつ早足で歩いていると、少し先の道の端で人がうずくまっているのが見えた。
    その隣には男が身をかがめ、うずくまる男を介抱しているようだった。一瞬、プレイ中かとも思ったが、それにしては様子がおかしかったので、思わず声をかけにいった。
    「おい、どうした?」
    医者だからとか、高潔な理由で声をかけたわけではなく、自然と染み付いたさがだった。が、それが間違いだった。
    「kneel」
    強い命令が耳に入ってきた。
    瞬間、足の裏から毛羽立つような感覚と共に膝が折れかけた。
    一瞬、何が起きたかわからなかったが、すぐにコマンドを使われたのだと気がついた。
    普段だったらコマンドを受けたところで何の影響もないはずだが、体調が悪くなっていたせいで、まともにコマンドが通った。
    Switchだとわかってからは、自分でDomと Subの状態を切り替えられるようになっていたし、おれよりランクの高いDomに「Switch」の命令を受ければ切り替わることは分かっていたが(コラさんが多分そうだ)こんな風に不意打ちで命令をされたのが初めてで、ひどく気分が悪かった。
    「こいつ、おれのコマンドに耐えたぞ?」
    「お前よりランクが高えんじゃねえの?」
    「高ランクSubちゃん?めちゃくちゃされたくてここに来たの?」
    うずくまっていた男はいつの間にか立っていて、下卑た笑いと共に揶揄られた。
    男たちの言葉に怒りを覚えたのと同時に、こういう輩が増えているという噂は聞いていたな、ということを思い出していた。
    Domの優生思想者なんかはSubに対して平気で酷いことをする。
    人の優しさに漬け込んで、Subに無理やりコマンドを出し、自分の欲だけ満たしてSubのケアをしないという輩が存在するとは聞いていた。それがまさか自分の身に降りかかって来るとは思っていなかった。
    「……おれはDomだ」
    とにかく目の前の男達に舐められたくなかった。睨みを効かせたまま答えたが、単なる強がりだと思われたのだろう。鼻で笑われてしまった。Domにさえ切り替えられれば、グレアでわからせることができるはずだと切り替えようとするが、集中ができずうまくいかない。
    「なに言ってんの?ほら、KLeel膝まづけ
    二度目の命令は、まともに通った。抗いたい気持ちとは裏腹に、地面に座り込んでしまう。意図しない動きをするロボットのように心と身体がバラける感覚がする。
    「何がDomだよ、 命令に反応してんじゃん?[[rb:こんな場所> 特区]]にいたんなら相手探してんだろ?」
    男達たちの言い分は当たっている。確かに相手を探していた。けれど探していたのは間違ってもこんな下卑たDomではない。勘違いも甚だしい。
    身体はいうことを聞かないが、湧いてきた怒りが起点となって、なんとか顔だけは上げることができた。目の前の男を睨みつける。絶対おれの方が背が高くガタイはいいはずだ。不調さえなければ、と思って男たちの笑い声を聞いていると、ふと暗い影が落ちた。
    ぬ、と現れた大きな影に思わず目を開く。
    「お兄さんたちちょっといいかな?」
    コラさんだった。おれは驚いて名前を呼びかけたが、それより前にコラさんが口を開いた。
    「今なにしてたの?プレイ中?」
    「あ?なんだよお前」
    明らかに敵意を向けた男達が、おれを隠すように目の前に立った。
    「ああごめん、こういうもんだけど」
    男が邪魔で姿は見えなかったが、ドラマみたいなセリフが聞こえてきた。多分、警察手帳でも取り出したのだろう。
    明らかに男達が動揺し始めたのが分かった。
    「ちょっと話聞かせてもらってもいいか?」
    「あ、いや、今この人が具合が悪そうで」
    「警察の人ならあと任せます」
    先程までの威勢はどこにいったのか、腰抜けめ、と、思ったところで、男たちは逃げ出した。
    「あっおい」
    「じゃあ!」
    蜘蛛の子を散らすとはこのことか。男達はあっという間に視界から消えていった。おれがぽかんとしたままでいると、大きな影がしゃがみ込んだ。
    「大丈夫ですか……って、あれ?ロー?」
    コラさんがおれに気付いた瞬間、張り詰めていたものが切れた気がした。長時間の手術後のような疲労感が全身を襲い、項垂れてしまう。
    「お前なんでこんなところに……」
    コラさんの声が遠い。なにか言っている気がする。立たなければ。だけど先の男のコマンドが解けない。嫌な汗が流れる。
    「ロー、聞こえるか?」
    何度か話しかけられていたのは分かったが、うまく返事ができない。手足が痺れる。声を出そうとしても喉が締まる。
    「ロー、LOOK!」
    コラさんの声が突然大きく聞こえた。コマンドだ。身体が否応なく従ってしまい、おれはコラさんの顔を見た。
    「よし、いい子だ」
    その声を聞いて、全身から力が抜けていく感じがした。
    「ほら、おれの声だけ聞いて……手を握れるか?」
    優しいコマンドが、耳に届く。手を差し出したままのコラさんに、おれはゆっくり腕を上げた。その時、自分の手が震えているのに気がついた。それでもコラさんの命令を聞きたくて、力が入らないまま差し出された手をゆっくり握った。
    「ん、よくできました。」
    コラさんは、片方の手でおれの頭をゆっくり撫でた。
    「おいで」
    優しいコマンドだ。コラさんのコマンドはいつだって優しい。命令なのに、お願いするみたいな言い方で、おれはそれに抗えない。ほんの少しの距離を詰めて、コラさんの胸の中に収まると、緊張がだんだん解けていくようだった。ちゃんと息ができる気がして、ゆっくりと深呼吸をする。煙草と香水が混ざった香りがする。昔から変わらない匂いにホッとした。
    おれが息を整えている間もコラさんは頭を撫で続けてくれていた。
    ここが特区でよかった。そうじゃなきゃこんな路上で抱き締められている状況が恥ずかしくて逃げ出していただろう。
    どれくらいそうしていただろうか、おれがすっかり落ち着いたのがわかると、コラさんがぽつりと呟いた。
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