誕生日の話寮の自室にある机の上にドン、と無造作に置かれている物がある。それを見た悠仁は
あ、そういえば、と思い出した。
今日は自分の誕生日だという事を。
小さい頃からじいちゃんが誕生日に買ってくれたのは5個入りのミニドーナツで毎年、テーブルの上に無造作に置かれてあった。
悠仁が小さい頃、どうしてもロウソクが立ってるバースデーケーキを食べたくて割とべそかきながらじいちゃんに強請るも
「ケーキみたいな軟弱なもんなんて買えるか」と言われ、代わりにこれを毎年買ってくれたのだ。
ミニドーナツも割と好きだし美味いしケーキじゃなくても···まぁ···と納得はする。する振りをする。
じいちゃんは忙しかったしドーナツは独り占め出来るしこれでもいいや、と思いながら贅沢に2個同時に頬張れば残りは3個。
1個はじいちゃんに残して…と皿にひとつ移しながらベタベタになった指を少し舐めて窓の外を見上げる。
本当は、
ケーキじゃなくても良かったんだ。
誰かと一緒に食べれたら、きっと···
ドンッと机の上に置かれてたのは皿に盛られた出来たてのドーナツだった。
匂いという物は記憶を呼び覚ますんだなぁ…と思いながら皿を持ち上げて何か罠とか呪いとかねぇよな…と見てみる。
同時に部屋のドアをノックする音にビックリして皿ごとドーナツを落としそうになった。
「悠仁、入っていいか?」
ノックと声の主は悠仁の兄を名乗る脹相だった。
部屋に入るなり
「悠仁、それはお兄ちゃんが作った」
の言葉に、相変わらず主語がねぇなぁ…と思いながら
「食っていいの?」と返すと脹相が柔らかな笑みと共に
「いいぞ、悠仁の為に作った」と返してきた。
「…あんがと」
少し焦げたドーナツを手に取りそのまま食べる。甘くて、少し苦くて、…少し温かい。
「お誕生日おめでとう、悠仁」
「本当はケーキを作りたかったんだが伏黒と釘崎が『初心者がケーキ作ろうとすんな、アンタはとりあえずこれでも作っとけ!』···とドーナツになってしまった。ホットケーキも試して見たが見事に焦げてしまって···あっ!来年はケーキを必ずーー···」
相変わらずよく喋るなぁ…、と喋る口元にどうぞ?とドーナツを差し出してみる。
「これ…は…悠仁のため、に…」
「知ってる」
「だからアンタも一緒に食ってよ」
そう言うと、困った顔をした脹相はほんの少し口を開け差し出されたドーナツに食らいついた。雛鳥みてぇだな、と思っていると開けっ放しのドアから伏黒と釘崎がドタドタと部屋に入ってきた。
「おっ、2人とも居た」
「ちょっと虎杖、私達にも頂戴よ!」
無遠慮な同級生達ともぐもぐとドーナツを頬張る脹相を交互に見ながら「いーよ」と2人にもドーナツを差し出す。
夢、かなぁ…と少し油のついた指を舐める振りをしながら指先を噛めば少し痛みが走り、これが夢では無いことを実感する。
ふと視線を感じて隣を見れば脹相がまた柔らかな目で悠仁を見ていて、少しこそばゆい気持ちになった。
さめる前に、と悠仁はまだほのかに温かさが残る、最後のドーナツに手を伸ばし、一気に頬張った。
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冷めると覚めるはどちらでとっても。