三井サン誕生日なのにホールケーキ食べねぇの?何と言うか、この歳になってホールケーキで祝われるなんて思っても無かった。
三井の目の前にはいわゆるホールケーキとそれを切り分ける少女がいる。
「ふっふ~ん、主役は大きめだぞ、みっちゃぁ~ん」
満面の笑みでテーブルの上に置かれたホールケーキにナイフを入れ、ケーキサーバーを使いつつ取り分けたケーキを乗せた皿を目の前に置かれ、随分と慣れてんなァと思いつつ「おー…ありがとよ…」と三井は声を返した。
どうしたもんかと隣に座る少女の兄を横目で見れば取り分けたケーキを凝視して片眉を上げている。
アンタ、明日誕生日でしょ?明日予定ないならウチ寄っていってくださいよと少女の兄である宮城に言われたのが昨日の事だ。
「つーか何時もおめーの方がデケーだろ」
その宮城は唇を前に尖らせ妹のアンナに食ってかかっていた。
「そうなのか?いや、別に俺は小さくて構わねぇけど」
そんな3人のやり取りを見て宮城の母親がクスクス笑う。そして三井くん、コーヒーでいい?ミルクは?と聞いてきた。
「あ、1つお願いします」
「あんたブラックじゃなかったっけ?」
「最近労わってんだよ、胃をよ…。おめーもブラック控えた方がいーぜ…」
「ヤダヨ」
誕生日を祝いたいと言われて宮城家に来たらホールケーキを振る舞われた。前にホールケーキなんてここ数年食ったことねぇって宮城に話したらものすごく驚かれたのがおそらくきっかけかと思う。宮城家にとって誕生日にホールケーキを食べないのはどうやら異常事態らしいのだ。
「はい、みっちゃん、主役には~これー!!プレートだぞ~!」
アンナはそう言うと三井のケーキの上にプレートを乗せてきた。HAPPY BARTHDAYみっちゃんと書かれたホワイトチョコで作られたプレートは中々の重量があり見てるだけで少しうっとなる。
これ、甘そうだしちと量あるな…と三井は自分の胃のあたりを摩るとその置かれたプレートを手に取りパキリと半分に割ると、半分を自分のケーキの上に、残り半分のプレートをアンナのケーキに乗せた。
「ん、これ半分こな」
顔を上げればぱっきりとした目しているアンナが更に目をまん丸にして三井を見てきている。
「あ、全部欲しかったか?」と聞くと「ううん、嬉しい」と言ってふんわりと笑う。
「半分こ、ずっと羨ましかったから、ほんと嬉しい~…」
「羨ましい?」
その言葉の意味がよく分からなくて再度助けを求めて隣に視線をやると当の宮城はテーブルの上に置かれた写真の前のケーキを見ていた。
瞬間、宮城はそのケーキに手を伸ばし、上に乗っていたイチゴをつまみ上げるとそのまま口へ放り込んで1口で食べてしまった。
「あー!!!またリョーちゃん勝手に食べたぁ!!!」
「んだよ、イチゴ好きなのか?俺の食うか?」
「へ???…や、そういう訳じゃねーんですけど…」
少し困った顔をした宮城が隣に座る三井をじっと見る。
「――…ント、誕生日おめでとうございます、三井サン」
「おー」
「リョーちゃん、お祝い言うの遅~!」
「うっせ!」
見れば宮城はケーキをあらかた食べ尽くしていて残り1口分あるかないかぐらいになっている。
コイツ甘いもん好きなんだなー…と思いながら三井は何の気なしに自分の半分になった誕生日プレートを更に半分に割り、宮城のその1口だけ残っていたケーキの上に乗せた。
今度は上手く割れなくて歪な形のソレを宮城は凝視し、片眉をあげニヤリと三井に笑いかける。
「アンタってさぁ…」
「んだよ、いらねーのか?」
「や、貰いますけど」
プレートごとケーキを口に放り込んだ宮城が再来月、俺誕生日なんでまたケーキ食べに来てくださいよ、とボソリと言う。
おー、呼んでくれよ~!と答え今度は宮城が4分の1になったプレートをくれそうだなぁと思いながら三井も残りのケーキを一気に口の中に放り込んだ。
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HAPPY BARTHDAYみっちゃーーん!
高3リョーちんと大1三井サン。漫画用のプロットで書いてたやつです…漫画だと間に合わなかった…