受肉の話 遠征に行く時の訓練で腹の中に蟲を入れるのに口内から摂取だったのを悠仁はふと思い出した。
あれは味が無かったし宿儺の指と違って割と楽勝だったな、釘崎は不味い不味いと叫んでたけど...と少し前のことを思い出す。
脹相から受け取った九相図の亡骸を取り口に放り込むと口のなかに広がるのは屍蝋とはまた違ったドブのような味で、喉を通る前に体がそれを拒絶して押し戻そうとした。
「う...ぐ、」
「悠仁、水を飲むか?」
その声にフルフルと首を振って、両手で口を抑え込む。
コイツから貰った大事な命だ、そんな無理やり取り込むような真似はしたくない、そう思うが中々中に入っていかない。
「――ぅぅ、」
涙目になりぎゅっと目を瞑る悠仁に仕方がないな、と優しい顔でひとつ息をついてから脹相は手に持ったペットボトルの水を自ら口に含み、悠仁の顔に両手を添えた。
悠仁の塞ぐ両の手を外し、上を向かせ、鼻を摘むと空気を求めて少し空いた口元に自分の口を押し付け、ゆっくりと口に含んだ水分を流し込んでやる。
こくり、と喉を嚥下させ、瞑っていた目をあければ、慈しみを含んだ顔で悠仁を覗き込む脹相が残り4人分、大丈夫かと聞いてきた。
ドクン、と鳴る身体を震わせ、中に住まった兄を腹越しに撫であげる。
「ん、大丈夫だ…ろ…」
と目線を上げればこんどは慈しみではなく、欲を持った目でみられてきた。
「悠仁」
「んだょ」
「全部呑み込んだら、」
「お兄ちゃんにも撫でさせて欲しい」
「!?」
そんな事を言われたら断れねぇしコイツ意外と...アレだな!?って思いながら
「...ちょっとだけだぞ?」
と答えると悠仁は2人目の兄の亡骸の入った瓶を手に取った。
――――――――――――――
夏油さんが呪霊の事をドブみたいな味がするって言ってたやつ、初めての嚥下は辛いけど兄相手にそんな顔出来ないよなぁって思ったので...。