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    でゅわー

    @dyuwa_0000

    原神の幻覚などを置くかもしれない(暫定)

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    でゅわー

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    みこさら飲酒概念幻覚(非カプ)です。最後にちょっとだけ影もいます。
    稲妻魔神任務、八重神子伝説任務後くらいの時間軸で、八重神子ボイスと「神楽の真意」のストーリーからの派生幻覚、拡大解釈が含まれます。

    #九条裟羅
    #八重神子
    yagyujinja
    #yaesara
    #原神
    genshin

    思い出のこぼれ話◆プロローグ


    「ほれ裟羅、早く口を開けぬか。妾の手が疲れるではないか」
    「ですから!自分で食べると申し上げているでしょう!」
     稲妻の烏有亭のカウンター席で、八重神子は隣にいる九条裟羅に、箸でつまんだ卵焼きを突きつけている。夜遅く、客はふたりしかいない。神子はかなり酒を飲んでいて、ご機嫌な様子で、裟羅に嫌がらせをしていた。
     鳴神大社の宮司である八重神子と、天領奉行の大将の九条裟羅。一見、奇妙な取り合わせだが、烏有亭の店員たちには、既に馴染みの光景であった。


    ◆神子の思い出


     事の発端は、九条裟羅の質問攻めだった。
     目狩り令が廃止され、とうとう影が一心浄土から戻って来た。神子にとって喜ばしい出来事だが、予想外の副産物があった。『将軍様』の突然の変化に驚いた裟羅が、参拝に来るたび影について質問攻めをしてくるのだ。
    『将軍様』や影の正体を明かすわけにもいかず、はぐらかし続けても、頑固な裟羅は諦めなかった。
     辟易した神子は、一計を案じた。『将軍様』のお話を餌に、裟羅に酒を奢らせるのだ。振り回されて全くの徒労に終われば、裟羅も少しは懲りるのではないか、と。
     実際、最初の席で神子は将軍様のお話など、殆どしなかった。裟羅の財布で散々飲み食いし、同じような仕事の愚痴を延々繰り返し、年長者の立場を使って好き勝手な説教し、潰してやるつもりで次々と酒を注ぎ……持てる力のすべてを使って最悪な絡み酒をしてやった。
     ところが、裟羅は神子の話に熱心に相槌をうち、神子の酒と料理を切らさず手配し、注がれた酒はトントン飲み干した。頑固頭と侮っていた裟羅の意外なソツのなさを見せられ、神子の方が酒のペースを崩してしまった。最後は酔いが回り、裟羅に大社まで送られた。
     稲妻で、仕事と宴席は切っても切れない関係にある。九条家の養子で天領奉行の大将ならば、むしろ年長者との酒席は慣れていると考えるのが自然だった。自分を追いかけ回す頑固者の姿に引きずられ、仕掛ける相手を見誤ったのだと、二日酔いの頭痛の中で神子は気づいた。
     小娘の頃のような失態を、まさかの相手に見せた事は、神子のプライドを大いに傷つけた。後日参拝に来た裟羅が、いつも通りに将軍様について尋ねてきたことも、復讐心を余計に煽った。
     裟羅が懲りないのならば、いっそ憂さ晴らしに使ってやろう。こうして神子は将軍様のお話を餌に、たびたび裟羅に酒を奢らせるようになったのだ。

     ◇ ◇ ◇
     
     意外な事に、いつの間にか神子は裟羅との酒を楽しむようになっていた。
     将軍様に関係のない話でも、とにかく裟羅は真剣に耳を傾ける。過剰な共感はせず、けれど誠実に神子の話を聞いた。口の堅さも折り紙つきで、軽妙な会話はできなくとも、日頃の鬱憤を語るにはうってつけの相手だった。
     回を重ねたある時、流石に少しは飲み代の分を払ってやろうと、神子は将軍様にまつわる昔話を語ってやった。はじめは影について詳しく聞いてきた裟羅だったが、なぜか次第に当時の神子の気持ちを詳しく尋ねるようになった。真剣に真剣に、裟羅は思い出に耳を傾けた。
     五百年の間、将軍様の秘密を抱え稲妻を守って来た神子には、人間はもとより影にも吐き出せなかった気持ちがある。稲妻の百鬼が失せた今、裟羅が妖怪であることも、神子の口を軽くさせた。かつての美しい思い出と置いていかれた寂しさ、ほんの少しの恨み、影本人には言えない恋しい気持ちを、少しずつ昔話に混ぜ――もちろん、眞や人形の将軍のことは伏せながら――語るようになった。意外にも裟羅は神子の将軍様への不満も真剣に聞き続け、時には神子に同情的にすら見えた。いつしか、神子の語る昔話の主人公は、雷神ではなく神子自身になった。

     ◇ ◇ ◇

     今夜の神子は、酒も話も、止まらなかった。
     このところ八重堂出版と宮司の仕事に追われていた鬱屈もあるが、一番の理由は別にあった。
     先日、天領奉行の調査が終わり、裟羅の養父・九条孝行の量刑と処分が確定した。誰にも秘密しているが、このことは、神子の長い間の心残りを軽くした。
     軽くなった心のまま、昔話に熱がこもってしまった。神子は裟羅が喜びそうな昔話を、いつもよりずっとたくさん喋り続けた。
     そうしてひとしきり語り、ようやく酒席に沈黙が降りた。喋り疲れた神子は、半分眠ったままの心地で、昔の夢を見ていた。

    ――緑濃い森の中を飛び回っている小さな天狗。羽が空気を打つ音と笑い声。なにもかも失って落ちていく翼。
    ――星のようにまたたく金の瞳。次に会ったときには、怒りと決意に塗りつぶされていた金の瞳。
     孝行がどれ程重く罰されようとも、奴のもとに小さな天狗を送り込んだことは覆らない。
     
     神子がふと我に返ると、裟羅が自分を見つめていた。少し目を細めて微笑んでいる。自分だけ酔っているような恥ずかしさと怒りが湧いた。
    「すまぬの。長々と話し込んでしまった。腹が空いたのではないか?」
     神子はテーブルの卵焼きを一切れつまみ、裟羅の眼前に持ち上げた。
    「ほれ、あーん」
     案の定、裟羅の顔はあっと言う間に渋面となった。
    「宮司様、お気遣いは結構です。料理なら頂いております」
    「いいや、裟羅殿にはいつも世話になっておるからな。労わせて欲しいのじゃ。よもや、妾を恩知らずにさせるつもりか?」
     卵焼きを突きつけると、裟羅の眉間の皺が深まり、神子はますます愉快になる。夢の余韻はまだあるけれど、だからこそ現世を楽しまなくては。
     でないと今夜は喋り過ぎて、しまい込んだ後悔まで思い出してしまいそうだった。


    ◆裟羅の夢


     今夜の宮司様は、いつもよりお酒を召されていたな。
     裟羅は、神子をおぶって影向山の大社に続く石畳を歩いていた。潰れた神子を送るのは初めてではないが、ここまでの深酒はあまり見たことが無かった。
     大社に到着すると、既に社殿の灯りは落ちていた。休んでいる巫女達を呼ぶのも申し訳ないと思い、裟羅はそのまま神子の私室に進んだ。
    「うん……裟羅……?」
    「お目覚めになりましたか宮司様」
     神子はまだ夢うつつといった様子だ。
    「いま、床の準備をいたしま……っ?」
     神子を降ろそうとした裟羅は、小さく悲鳴をあげた。突然、神子が裟羅の背の上で体を起こし、肩甲骨やその下の辺りを、まさぐりはじめたのだ。
    「っ、宮司様?」
    「裟羅、汝の羽はどうしたのじゃ……?」
    背中に寄りかかっていた神子が突然動き出したので、裟羅は慌てた。神子が後ろにひっくり返って落ちないよう、お辞儀をするように体を折り、バランスを取る。
    「宮司様! 危ないですからお止めください!」
    「汝は怪我をしただけのはずじゃ……。なぜ、羽がない。なぜ」
     裟羅の背中をかき分けるように、狐の爪が走る。
    「っ宮司様、いい加減に――!」
    「まさか九条のじじいの仕業か……? なんてことを。こんなことになるとは、妾は、なんてことを……」
     神子の悲しげな声に、裟羅の抗議せんとする勢いはしぼんでいった。ゆっくりしゃがみ神子床に下ろすと、神子は畳に座りこんだまま、背中から離れまいと肩を掴んできた。爪を立てる神子の手を軽く握って抑えながら、裟羅は正面に向き合った。神子は苦しげで、薄っすら涙すら浮かべている。酔っているようだが見たことのない様子だった。
    「すまぬ裟羅。そなたの羽、天狗の羽を……」
    「なぜ、宮司様が謝るのですか」
     裟羅は、まだ羽を探そうとする神子を軽く制して話しかけた。
    「宮司様、私の羽はちゃんとあります。ご覧下さい」
     裟羅は普段は術でしまっている翼を生やして広げた。神子が触れられるよう羽を前方に伸ばす。このように誰かに見せたことがなかったので少し気恥ずかしかったが、裟羅はとにかく神子を落ち着かせたかった。
     神子は目を見開いて、裟羅の羽を確かめた。
    「羽はあるのか」
    「はい」
    「誰にも、取られてないんじゃな」
    「はい。私の羽です」
    「そうか。良かった……」
    安心した様子で、そのまま神子は目を閉じた。

      ◇ ◇ ◇
     
     常とは違う酔い方が心配だったので、布団を敷いて神子を寝かせた後も、裟羅は立ち去らずに様子を見守っていた。幸い、神子の容態は悪化しなかった。念のためもう暫く様子見しつつ、自分も酒が抜けたら帰るつもりだ。
     裟羅は、先ほどの神子の様子を思い出していた。
     不思議だった。自分が誰かの記憶の中にいて、あんなに悲しそうにさせるなんて。今まで聞いたどの昔話よりも、遠いお話に感じた。
     神子の昔話を初めて聞いたとき、裟羅は衝撃を受けた。神話や歴史には記されない、将軍様の眷属たちのお話の鮮やかさ。それらを語るときの神子の眼差しや『殿下』を呼ぶ声には見たことのない愛おしさが溢れていた。これらは単なる昔話ではない。宮司様の宝物なのだと気付いて、裟羅は戸惑った。こんなにも暖かい秘密を、自分などが覗いてよいのだろうか、と。
     自分を暖める思い出を裟羅は殆ど持っていない。神子の思い出は暖かくどこか寂しげで、裟羅にとってかがり火のようだった。神子が思い出に浸るほんの少しの間、明かりの側で暖まらせて欲しい。そんな気持ちが抑えられず、いつしか神子の思い出語りに聞き入っていた。楽しかった事も悲しかったことも、愛おしそうに語る神子が羨ましかった。
     先程の神子の記憶は、今まで聞いた思い出たちとは違っていた。一体なにがあったのか、記憶は思い出に変わらず、生々しいままで神子を苦しめていたようだった。
     忘れられない出来事はどうやって思い出になるのか、思い出を殆ど持たない裟羅にはわからなかった。わからないけれど、きっと宮司様の手にかかれば、いつかあの記憶も愛おしく語られるのだろう、と思った。
     
    ――そうであれば。いつかこの夜の思い出も、宮司様と語れるかもしれない。
     
     酔いが醒め切るまでのあと少しの間、未来に思いを馳せ、知らず知らず裟羅は微笑んでいた。


    ◆エピローグ


     神子が目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。
    布団を敷いた覚えはない。酔い潰れて裟羅に世話になったのだろう。昨夜の記憶はおぼろげだが、不思議と晴れやかな気持ちだった。寝ている間に、小さな天狗の夢を見た気がする。
     障子に透ける光の強さから、今は昼過ぎとわかった。
    まだ覚めきらない体は全身が暖かく、手足は布団の中で溶けているかのようだ。横になったまま体を伸ばすと、山上の冷えた空気が肌を撫でる。夢の余韻とまどろみの中で、壁越しに聞こえる大社の喧騒も耳に心地が良い。
     巫女達が起こしに来ていないのなら、急ぎの仕事もないだろう。この時間をもう少し楽しもうと、神子が寝返りをうつと、枕元に正座した影がいた。
    「起きましたか、神子」
     布団の中で驚き固まった神子に、影は真剣な面持ちで続けた。
    「あなたに聞きたいことがあります」
     なんだろうか。神子は寝起きの頭をなんとか働かせた。影を怒らせるような事態に心当たりは無かったし、影に訪ねて来させる為に策を弄した覚えもない。困惑した神子に、影が尋ねた。
    「今朝、登城した九条裟羅の肩や背中に、いくつも引っかき傷がありました。そのことで相談に来たのですが――どうやら、昨夜はあなたと会っていたようですね」
     影の眼光が鋭くなる。
    「あれらは、あなたが付けたのですか」
     なんだコイツは。なんの話をしている。
     寝起きの頭で神子は考えた。昨夜の話をしているようだが、覚えていない。覚えていないが、影が馬鹿を言っているのはわかる。
     よく見ると、影の手には書付が握りしめられている。

    『台所お借りしました 九条裟羅』

     布団の側には、おにぎりと水が置いてあった。あのクソ真面目め。
    「どういうことなのか、説明してください。神子」
    「知らん。妾は何も覚えておらぬ」
     既視感のあるやり取りに、ウンザリする。どいつもこいつも、聞きたいことは本人に聞けばいいだろう。
     神に嘘偽りなく答えたので、神子は再び布団に潜り込んだ。 
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