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    でゅわー

    @dyuwa_0000

    原神の幻覚などを置くかもしれない(暫定)

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    でゅわー

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    稲妻の召喚王グランプリ大会後に烏有亭でご飯する、神子と心海と二人に巻き込まれ気味な裟羅さんのお話です。

    #九条裟羅
    #八重神子
    yagyujinja
    #珊瑚宮心海
    coralPalaceHeartSea
    #yaesara
    #kokosara

    油揚げ、ウシノシタ、頑固頭「おお。裟羅に海祇島の巫女殿、奇遇じゃな」 

     日暮れ前の鳴神島、烏有亭に入った裟羅と心海はとカウンター席の神子に声をかけられた。
    「宮司様もいらしてたのですね。本日は準優勝おめでとうございます。素晴らしい戦いでした」
    「八重宮司、本日はありがとうございます」
    「うむ」
     今日離島では『召喚王グランプリ』という七聖召喚の大会が開催されており、その決勝戦で心海は神子を破り優勝したのだ。
    「しかし天領奉行の大将と海祇島の指導者が一緒とは。珍しい組み合わせじゃのう」
    「はい。大会の後に珊瑚宮殿と対局の約束をしたのですが、ついでに早めの夕食をと思いまして」
    「ふむ、そうか……」
     神子はなにやら考え込んだ。
    「……妾も巫女殿と七聖召喚の再戦を約束しておるし、せっかくならあちらの座敷席で一緒にどうじゃ」
     思いがけない提案に、二人は顔を見合わせる。
    「珊瑚宮はどうしたい。私はどちらでも構わない」
    「私も構いませんよ。八重宮司、ご一緒しましょう」
    「決まりじゃな 」
     店員に事情を伝え、三人は同じ一階の座敷席に移動した。

       ◇ ◇ ◇

    「まずは互いの健闘を讃え乾杯しようではないか。珊瑚宮殿は酒で良かったか?」
    「はい。せっかくなので少し頂きます」
    「珊瑚宮、無理はするなよ」
    「大丈夫ですよ九条さん。お気遣いありがとうございます」
     神子は斜向かいに座る心海のグラスに、自分の徳利の酒を注いだ。どうやら神子のお酒を振る舞われるのは心海だけのようで、神子の隣の裟羅は店員に料理と共に自分の酒を注文している。裟羅の酒が運ばれてから、三人は乾杯した。
    「しかし汝らが七聖召喚とは。いつの間に親交を深めたのじゃ」
    「いえ、順序が逆です。鳴神島と海祇島は友好関係を結びましたので、海祇島の友人と親睦を深めるために対局の約束をしたのです」
     裟羅の真面目な回答に、心海は苦笑し神子はニヤリと笑った。
    「ほう、友人! 裟羅殿はいつも女連れで来店すると噂じゃが、こうして友人を紹介してくれるのは初めてじゃのう」
     突然の揶揄に裟羅はむせた。
    「っ宮司様、誤解を招く言い方はお止めください。……馴染みの職人との会合や、業務の面接でこの店を使っているだけです」
    「ほお、そうであったか」
    「第一、そのような言い方は珊瑚宮殿にも失礼でしょう」
     裟羅はジロリと神子を睨んだ。
    「ああ、すまぬのう海祇島の巫女殿。この頑固頭はついからかいたくなってしまう」
    「いえ、私は気にしてませんよ」  
     心海は、自分が冗談にどう反応するのかを神子が探っているように感じた。
     一体何を疑っているのだろうか。大会を利用して海祇島と鳴神島の間にある怨みを祓いたい――今回心海の企みと言えるのはそれくらいだが、海祇島の復興を裏から協力してきた神子なら、その程度お見通しだろう。
     同席などせずとも、神子ならたいていの情報は手に入る。神子が自分達に近づく理由に、心海は見当がつかなかった。

       ◇ ◇ ◇

     三人は食事しながら大会を振り返り、各々が印象に残った展開や戦術について語っていった。
     大会不参加だった裟羅の話題は、もっぱら雷電将軍の試合についてだった。しかし語りに熱がこもりだすと、神子が「まあ、あやつは妾に勝てなかったがな」と水を差すので、その度裟羅は嫌そうに顔をしかめた。珍しい裟羅の様子につい笑ってしまい、心海は彼女に軽く睨まれてしまった。
    「ところで裟羅、決勝戦は当然妾を応援したのじゃろうな?」
    「海祇島とは友好関係になったのですから、どちらかを贔屓などしません」
     生真面目に返す裟羅に、ふと心海はいたずら心が湧いた。
    「あら? あの助言はてっきり友人からの応援かと思っていました」
    「珊瑚宮?」
    「ほう。助言とな」
    「ええ。九条さんのおかげで決勝戦を勝てたのです」 
    「珊瑚宮、それは公平を期すためお前にも情報を伝えたまでのことだ」
    「おお、まさか九条殿が妾の敗因とは。妾を打ち破る程の戦略、是非聞かせてもらいたいのう」
    「……宮司様の智略は盤外にも深く及ぶため、油断はできないと伝えました」
    「本当にそれだけか? 汝、妾になにか隠しておらぬか」
     神子はしばらく詰め寄ったが、裟羅は崩れなかった。
    「珊瑚宮は優れた軍師ですから、僅かなヒントから戦略を組み立てられたのでしょう。第一そのような秘策があれば、私はとっくに宮司様に勝てております。それより、追加の料理が来ましたので、お召し上がりください」
    「……ふうむ。少々引っかかるが、まあいいじゃろう」
     裟羅が店員から受け取った料理を神子の前に置くと、彼女の注意は熱々の油揚げに移った。
     先程、裟羅が密かに店員に目配せしたのを心海は見逃さなかった。神子に絡まれそうな気配を察し、話を適当なタイミングで切るために油揚げを注文していたのだ。裟羅が神子をかわし慣れているのに心海は少し驚いた。今日の二人とやり取りといい、思ったよりも気安い関係なのかもしれない。
    「九条さんは八重宮司とも七聖召喚をするのですね」
    「ああ。この札遊びには戦法の真髄が込められていると、宮司様が手ほどきしてくださったんだ。まだまだその境地には至れていないがな」
     裟羅の隣の神子を見ると、澄まし顔で腕を組みウンウン頷いている。とぼけた様子に心海は苦笑した。
    「……そうですね。この札遊びは戦術や戦局の流れを俯瞰して見通す訓練に通じると思います」
    「やはりそうなのか。ならば研鑽を続けよう」
     少しだけ申し訳なく思いつつ、心海は神子に乗ることにした。全部が全部嘘ではないし、少なくともこの嘘は裟羅と心海を繋げたのだから。

       ◇ ◇ ◇

     食事を済ませ、心海と裟羅は七聖召喚の対局を行った。
     裟羅のカードさばきは心海ほどには慣れていないが、戦局を読み心海に肉薄した。裟羅は敗北に僅かに悔しさをにじませ、心海との再戦を約束しデッキ調整を語り合った。札遊びを楽しんでいるのは明らかだった。
    「さて、次はこちらの番じゃな。裟羅は今度こそ妾を応援するであろう? 汝の敵をとってやるぞ」
    「宮司様、またそのようなことを……」
    「まさか九条さんは友人を応援してくれないのですか……?」
    「……軍師様も楽しそうで何よりだ」 
     勝負は白熱した。決勝戦とは別の戦術を用いてきた神子に対して、決勝戦と同じような受け方をしていた心海が追い込まれた様に見えたが、いつの間にデッキに組んでいた新カードであっという間に局面をひっくり返した。ダイス運が味方したこともあり、この再戦も心海が勝利した。
    「流石は海祇島の軍師殿。人を欺く術で、もはや汝の右に出るものはおらぬじゃろうな」
    「いえ、運が味方しただけですよ。まだまだ八重宮司には遠く及びません」
    「謙遜なさるな。海祇島のクラゲの毒は海を渡る鳥でさえ仕留めて水に引き込むと聞く。妾のような山林育ちにはひとたまりもないものじゃ」
     
     神子の軽口に、これまでの行動の裏にあるものが心海の中で繋がった。
      
    「……そのような噂を信じるとは、聡明な八重宮司らしくありませんね。まれに鳴神島のカラスが海祇島まで飛んできますが、あまりに素早く、クラゲに捕まるどころか力強い羽ばたきで波ごと散らしてしまう程です。とても見事なものですよ」
    「ほう、左様であったか。それは知らなんだ」
     うふふふふ……と笑い合う二人に、裟羅は少し不気味なものを感じたが、その後すぐ娯楽小説の話で盛り上がるのを見て、きっと共鳴するものがあるのだろうと、ひとり納得した。
     
     盛り上がるうちに心海の出発時間が迫ってきた。会計のため裟羅が席を離れた時、心海がやや抑えた声で神子に話しかけた。
    「予想外でしたか?」
    「……?」
    「鳴神島と海祇島の者が札遊びでぶつかり、健闘を讃え、札で怨みを祓う――八重宮司にとって、この筋書きに九条さんが含まれていたのは予想外でしたか?」
    「なんのことじゃ」
    「私が九条さんの情誼を利用しないか、心配されているのでは?」
    「これはこれは、不穏なことを申される。かような企み、妾には思いもつかぬことじゃ」
    「ご安心ください。彼女の誠実さは敵だった頃からよく知っています。あの人が私達を友人と呼ぶならば、私も友情に応えるとお約束します」
    「ほう? 策士のくせに随分と直截に申すではないか」
    「もう札遊びの手札が尽きてしまったので」
     軽くかわされ、神子は少し苛立ち眉をひそめる。
    「八重宮司の心配も分かりますが、戦場で幾度となく相まみえた者同士だからこそ通じるものもあります。九条さんは誠実でまっとうで、とても強い方です。私では傷つけることなどできませんよ」
     神子は心海の目に希望と意思が宿っているのを見た。海祇島、鳴神島、稲妻の未来を見据え歩もうとしている目。神子が愛してやまず、だからこそ厄介な人間の光だった。
    「……『心配』とやらが何の話かわかりかねるが、そこまで言うのなら、せいぜいあの頑固頭に辟易せぬようにな」
     裟羅が戻ってきて、心海を離島まで送ると神子に告げる。神子はまだここで飲むと伝え、二人を見送った。

       ◇ ◇ ◇

     烏有亭に一人残った神子は、しかめっ面で酒を飲んでいた。
     傷つけることなどできない、だと。これだから人間は。百年も生きないくせに、あんなまだ何も知らない奴に約束なんぞ取付けて、忌々しい。
     神子は俗世を愛している。愛執や離合、置いていかれる寂しさすら神子にとっては思い出だった。けれど別れや約束が呪いになる者もいるのだ。心海がいなくなった後、裟羅が約束に縛られ続けるのが目に浮かぶようだった。
     モヤモヤした気分のまま飲み続けるうち、いつの間にか日は落ちていた。ふいに店の入口の戸が開き、裟羅が入ってきた。こちらをちらりと見て、店員とやり取りしてから、裟羅は神子の前にひざまずいた。
    「少々飲み過ぎではありませんか」
    「……なんじゃ。何故戻ってきた」
    「元々宮司様もお送りするつもりでした。会計は済ませましたので帰りましょう。歩けますか」
    「……」
     神子は目の前の裟羅の頬に両手を伸ばし、力いっぱいつねった。
    「……ぐうひひゃま、おやめふださい」
    「歩けぬ。おぶれ」
    「わかりました」
     神子は頬から手を離すと、背を向けた裟羅の首に腕を巻きつけた。後ろ手に裟羅が神子を引き寄せ背負い、トントンと店の出口まで歩いて行く。
     神子は酔いにまかせて裟羅の後頭部に額をぐりぐりと押し付けた。
    「まったく、おぬしは本当に手がかかる……」
    「何のお話ですか……」
    「汝にはまだわからぬ」
    「そうですか。でしたらその時が来たら教えてください」
     ため息混じりの裟羅の返事が聞こえる。
     もしその時が来たら。その時が裟羅を寂しくさせたら。
     気が向いたら側にいてやってもいいかもしれない。
     まどろみながら、神子はそんなことを考えた。

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