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    shitahaguki

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    shitahaguki

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    におい

    現パロ典鬼光世が乗るグロリアの車内からは、甘い匂いがする。
    単純な甘さではない。
    小児シロップのような、薬っぽい、甘さ。
    慣れないうちは、きつい。
    すぐに酔う。
    しかし慣れてしまうと、妙に馴染む。
    あの匂いを嗅ぐと、光世を思い出す。
    光世の事を考えると、目の前にいなくとも、匂いの記憶が蘇る。
    記憶に、深く馴染んでいる。
    軽いようでいて、重い。
    忘れられない。

    車の芳香剤なのかと思ったが、違った。
    光世の部屋に、香水の瓶があった。
    そこから、同じような匂いがした。
    少しだけ肌につけてみた。
    甘い。
    ただ、なんとなく違う。 
    似ているが、違う。

    香水というものは、つける人間によって変わるという。
    人には体臭があり、その体臭と混ざることによって同じ香水でも全く違う香りになってしまう。
    光世と混ざったあの匂いは、唯一無二であるのだ。
    どうやっても手に入らないのだと考えると悲しくて、悔しくなった。


    バイトの帰り。
    歩いていると、傍らに車がついた。
    窓が開いて、呼び止められた。
    光世だ。


    「送っていくよ」


    光世は偶然と捉えているかもしれないが、国綱はこっそりと拳を握り締めた。
    此処は、光世が仕事帰りに通る道だ。
    上手く行けば、拾ってもらえる。
    見事成功し、国綱は助手席側に乗り込んだ。

    仕事帰りの車内だ。
    プレスリーがかかっていた。
    光世は、レトロなロックが好きだ。
    ドリンクホルダーには、ドクターペッパー。仕事鞄は後部座席に投げ込まれている。
    デートの車内とは違う。

    あの匂いは、しなかった。
    仕事をするのに香水をつけていく訳がないが、少し残念に思いつつ、国綱は光世を見た。
    夜の明かりに照らされた横顔。
    見事な横顔である。
    暗さと明るさの塩梅が丁度良く、光世の造形美を浮き彫りにしている。
    高い鼻筋、薄い唇、しゅっとした顎。
    何もかも、バランスが良い。
    人間を美しく整える配合を、1ミリも違える事なく作られたような顔だ。
    国綱が愛する男。
    美しい男。


    「お腹減ったね。どっか寄ってく」

    「いいな、中華がいい」

    「賛成」


    綺麗ではないが、だからこそ美味い店で、夕食をとった。
    国綱はエビチャーハン、光世は四川麻婆豆腐麺。
    他にも、エビチリと餃子を頼んだ。
    どれも美味かった。
    食い終わり、再び車に乗り込む。
    他愛ない話をしていたら、あっという間にアパートの駐車場に着いてしまった。
    国綱も光世も、明日は仕事だ。泊まっていけとは言えない。
    その代わりにシートベルトを外して、国綱は光世に抱きついた。
    首に腕を回して密着し、首筋の匂いを嗅いだ。
    煙草の匂いの向こうに、光世の匂いがした。渋いような、甘いような匂い。
    この匂いと混ざることによって、あの香水は変化するのだろう。

    匂いを嗅いでいる事に気付いた光世は笑った。


    「加齢臭するでしょ」

    「そんな年かよ」

    「する奴は年関係なくするっていうよ」

    「したところで、おれには関係ない」

    「嬉しいね」


    やりかえすように、光世も国綱の髪の匂いを嗅いだ。
    優しく抱き留めてくれる腕の中で、国綱は光世の匂いを嗅ぎながら、光世の呼吸を聞いた。
    光世を感じる。
    より深く、感じる。


    「お前は匂いまで甘いね」

    「あんたと同じシャンプー使ってるけどな」

    「違うよ。国綱そのものが甘いんだよ」


    美味しそうな匂い。
    そう言って唇で耳をなぞった。
    ゾクゾクした。
    抱き締めてくれる手が、するすると身体を撫でながら、下へ下へ下がっていく。
    しかし腰のあたりで止まってしまい、本当に撫でてほしいところまでいってくれない。
    ただそこを撫でられると、もうこのまま部屋に光世を連れ込むか。いやその前に車から出られなくなってしまう。
    抑えているのか、意地悪なのか。
    多分どちらともだ。
    ちろりと耳を舐められて、国綱はおもわず息を漏らした。


    「だめだ。また、よごすから」


    また。
    前にもあった。ドライブに出かけた帰りだ。我慢出来なくなって、車の中でした。真夜中のパーキングエリアだったが、誰かに見られるかもしれない。
    ゾクゾクして、堪らなかった。
    此処はアパートの駐車場だ。絶対に人が通るし、アパートに帰れなくなる。
    嫌々をしたが、本当はやめたくないし、光世とてそうだろう。
    とうとう手が下に、国綱の尻の丸みを撫でた。


    「いいよ、汚しても。大歓迎だ」



    本当はこのまま、車の中でしたかった。
    運転席に座る光世に跨って、騎乗位で喘ぎたかった。
    流石に場所がまずいので、頑張ってアパートに帰った。
    でもドアを閉めた途端に我慢が切れてしまい、玄関でした。
    壁に手をついて立ちバックでして、そのまま抱っこされて背面駅弁で部屋に連れ込まれ、ベッドの上で何回もした。
    堪らなかった。
    暑い夜だったので、汗をかいていく光世の興奮しきった匂いにあてられ、国綱は何度でもいった。
    そのせいでお互いろくに眠れなかったが、後悔は無かった。

    翌日、光世が仕事先に送ってくれた。
    車に乗り込んで、国綱はふと鼻を鳴らした。
    甘い匂いがした。
    薬っぽい、甘い匂い。
    あの匂いだ。
    国綱の、好きな匂い。

    しかし昨夜はしなかった。
    車を出て、それからずっと部屋にいたのに。
    何故、するのだろう。


    「俺達の匂いだよ」


    香水でも何でもない。
    光世は言う
    えっちしたくなると、何故か、この匂いがするという。
    何故かは判らない。
    車の中でえっちしたり、えっちする為に何処かへ移動すると、車中、この匂いがする。
    動物は発情期になると、フェロモンを発して異性を惹き付ける。
    もしかしたらこれは、そういうものなのかもしれない。


    「だからきっと、俺達の匂い」


    そんな話を唖然と聞いていたら、あっという間に、国綱の職場に着いてしまった。
    もう光世とお別れだが、それ以上に、心の整理がつかなかった。



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