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    紫音(しおん)

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    紫音(しおん)

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    店員ちゃんはるー。さんイメージ。

    るー。さんに捧げるおたおめ小説ふとカレンダーを見て気付いた。

    「もうハロウィンの時期ね」
    「クイーンもお菓子用意するんですか?」

    ぽつりと呟いたクイーンの独り言をロコが拾う。そのロコの問いかけに少し考える。
    ───用意はしたい。楽しいイベント事が好きな彼のためにも。
    問題はお菓子をどうするか、である。
    ハロウィンに手作りお菓子を配る人も見た事があるが、客観的に見てクイーンの料理の腕はあまり良いとは言えない。だから、やはり買うのが良いだろう。

    「そうね。あとで街に出てみようかしら」

    にっこり笑ってロコに答える。
    本当はちょっと作ってみたかったけれど。

    🎃 🎃 🎃

    街に出れば、ハロウィン一色。
    どこの店もハロウィンの飾り付けをし、限定の商品を売っている。それ故の弊害がクイーンに起こっていた。

    「…………これは、迷うわね……」

    そう。選択肢があり過ぎるのだ。定番のクッキーやチョコレート、かぼちゃを使ったマドレーヌやジャック・オ・ランタンを型どったマカロン、エトセトラ……。
    どのお菓子にしようかと悩みながら、歩いていると声を掛けられる。

    「あの!ハロウィンにうちのお菓子はどうですか?」

    ぱっと見れば、柔らかい茶髪の髪をひとつに纏めた、ぱっちりとした目の女の子が。服装と先程の言葉からお菓子屋の店員だろう。
    せっかく声をかけてくれたし、この子のお菓子屋で買うのもいいかと、店員の女の子に向き直る。

    「何かオススメはあるかしら?」

    ぱぁっと顔を輝かせた店員ちゃんは手に持っていた籠から装飾のされていない袋を取り出す。中にはこれまたかぼちゃに型どられただけの普通のクッキーが入っていた。

    「これです!!」
    「……これ?」

    クイーンの顔が僅かに曇る。

    「えぇっと……とってもシンプルなのね」

    クイーン、精一杯の世辞である。
    それもそのはず、シンプルといえば聞こえはいいが、飾りっけがまるで無いのだ。店員ちゃんには悪いがハロウィンを謳っているこの時期にわざわざ売るようなものなのか。
    と思っていると、店員ちゃんが笑みを深くした。

    「いいえ、これで完成じゃないんですよ!」

    店員ちゃんが籠の底から取り出しのはオレンジやブラウンと言った、ハロウィンカラーのチョコペン。

    「お客様が完成させるんです!」

    曰く、店員ちゃんが小さい頃にハロウィンで友達に配るお菓子を手作りしたいと言ったが、当時の店員ちゃんはお菓子作りが出来るほど大きくなかったそう。その妥協案として、お菓子のベースは両親が作り、最後のデコレーションを店員ちゃんが行ったという出来事が元になって、このような商品が出来たらしい。

    料理の腕に自信は無いが、それくらいなら出来る。

    「じゃあ、そのクッキーとチョコペンを頂くわ」
    「ありがとうございます!!」

    満面の笑みで頭を下げた店員ちゃんを微笑ましく思いながら、商品と代金のやり取りを済ませる。
    帰って作業をないとと、踵を返したところに店員ちゃんの声が届く。

    「頑張ってくださいね!!」

    何の事だろうと首を傾げる。

    「彼氏さんにも渡すんですよね!!応援してます!!」
    「ッ………!!!」

    いつ顔に出ていたのだろうか。

    🎃 🎃 🎃

    無事、一応、なんとか、どうにかこうにか。デコレーションを終え、店員ちゃんが「買ってくれた人にプレゼントしてるんです」と言ってくれたラッピングに包み、後はジョーカーに渡すだけとなった。
    いつものようにスカイジョーカーに乗り込んでさっさと渡せばいいのだが、どうにも緊張してしまい出かけられないでいる。
    ロコは部屋をうろうろするクイーンを不思議そうな目で眺めていると、ひとつ足音が近づいているのに気が付いた。

    「トリックオアトリート!!」
    「きゃぁ!!」

    足音の主であるジョーカーは10月31日だけ許される言葉を高らかに叫び、扉を勢い良く開ける。
    いつ来るかとドキドキしながら待っていたクイーンにとって、ノック無しの突撃訪問は心臓に悪かった。

    「ん?何やってんだ、クイーン?」
    「な、何もやってないわよ!アンタが突然来るからびっくりしただけよ!」
    「ふ〜ん。ま、何でもいいけどよ。トリックオアトリぃート」

    差し出された手に、遂にこの瞬間が来てしまったとドキドキと緊張で頬が火照り出す。咄嗟に後ろを向き、変に口角が上がっていない事を確かめ、ひとつ深呼吸。

    「……ちょっと、待ってなさい。持ってくるから」
    「おー!」

    デコレーションとラッピング、両方とも綺麗に出来たものを選び、ジョーカーに渡す。

    「はい、これ」
    「おぉ〜。クイーンはクッキーか」

    ジョーカーは早速、ラッピングを解いて中身を取り出し、口へ入れる。
    想定内とは言え、もう少し見た目にも興味を持ってもらいたいものだ。

    「ん!うめぇ!これ、上のチョコはクイーンがやったんだろ?」
    「え」
    「だってほら。テーブルにすこーしだけど、チョコレートのカケラが落ちてる。オレが来た時からあったから、オレが食べてこぼしたわけじゃない。と、すると一番可能性が高いのはクイーンだろ?」

    さすがの観察力。
    あっという間にクッキーを食べたジョーカーはクイーンに笑いかけた。

    「美味かった、ありがとうなクイーン」

    唐突な微笑みは良くない。クイーンの心臓が持たない。ぶっちゃけジョーカーが来た時からあんまり機能していないような気もするが、このジョーカーはトドメを刺しに来ている。
    再び頬を赤く染め、答えられないでいるクイーンにジョーカーは続ける。

    「クイーンも言えよ」
    「え?…………ぁ……!」

    ジョーカーに言われて気付く。クイーンまだあの言葉を言っていなかった。

    「……ジョーカー、トリックオアトリート」
    「で、何するんだ?」
    「は?」
    「だって、オレお菓子持ってないもん」

    ハロウィンにお菓子を持たずに訪ねてくるということは。つまり。
    真っ赤になった顔でまともに声も出ずぱくぱくと口を動かすクイーンにジョーカーはいたずらっ子の顔で楽しそうに笑っていた。
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