🎂💙🍫モテモテだな、なんて口にしてちょっと困ったように眉尻を下げ笑顔を向けてはいるものの、紙袋から溢れそうなチョコレートの山に向ける和哉の瞳にほんの少しだけ嫉妬の炎が灯っているような気もして。その可愛らしい「やきもち」を感じとり響は込み上げる愛おしさを抑えながら、和哉へと歩み寄った。
「で、和哉は?」
「へっ?」
「和哉からは、くれないのか」
本当はちゃんと、それこそ年明けあたりからソワソワと、響の誕生日のために和哉が純たちにこっそり相談していたことも知っていた。やっぱりチョコレートがいいよな、響、好きだし。でもバレンタインも近いし毎年山ほど誕生日のプレゼントと合わせて受け取ってるのも見てるし。…なんて自分のために一生懸命悩んでくれていたその時間が、気持ちが、何より嬉しかった。
「そりゃあ、ちゃんと用意してるけどさ…チョコレート…響が一番好きな…」
「へえ、わざわざ取り寄せてくれたのか?」
「うん…えっと、改めて誕生日おめでとう…あとハッピーバレンタイン…?」
「ああ」
照れているのか節目がちに言葉を紡ぐ和哉の手を引き抱きしめてしまいたい衝動に駆られたが、少し悪戯心が湧いた響は、和哉が遠慮がちに差し出した響のお気に入りの銘柄の、銀紙で包装された丸いチョコレートを一つ、手に取る。
「和哉、口開けろ」
「え、んっ…」
包装紙を解き、響の呼びかけに顔を上げた和哉の口元へと右手の親指と人差し指で手にとったブランデー入りのチョコレートをそっと押し込んだ。
「ん…っ響のために準備したのに…先に食べてほしかった…」
若干不服そうな目を向けながらも、再び押し当てた親指で唇をゆっくりとなぞり「くれないのか?」と小首を傾げる響を和哉は凝視する。ごくり、と思わず喉が鳴る。つまり、それって。
そっと閉じられた瞼に響が意図している意味を理解せざるをえない。
(和哉から、キスしてほしい)
和哉の戸惑いを悟ったのか、響は目を閉じたまま、僅かにかがみ込み「ほら」と顔を寄せ催促する。
「う…っ響ってほんとにっ」
ずりーよな、とむくれながら唇を重ねる和哉がたまらなく可愛いくて。愛しくて。
そのまま繋いだ手を引きソファーへともつれ込み、和哉が口に含んだ洋酒独特のほんのり苦味のあるチョコレートを、余すことなく堪能する。
「ンンッ…」
夢中になって口内を貪っていると、流石に息苦しかったのか和哉がくぐもった声を上げた。
「ンッ…ハッ…」
唇を離し、つぅ、っと二人の間に名残おしげに繋がる銀糸を目で追いながら響が「ありがとう。残りも少しずつ、食べるから」と微笑むと、和哉は何度も瞬きをしながら「うん」と耳まで真っ赤になって視線を逸らした。一向に自分の上から退く気配のない響に、まだこの続きをするのだろうか…と小さな期待を抱きながら。