(同棲軸)和哉が響とのデートの服装で悩む話久しぶりに休みが被り、明日は二人揃って出かけられるな、などと昨日一緒にベッドに入った時に会話を交わし和哉より早く目覚めた響は、朝食の準備をし淹れたてのコーヒーを注いだカップを傾けながら、今日のデートプランについて改めて思いを馳せていた。
和哉が気になっていると言っていた近所に最近できたオシャレなカフェでお茶をして、図書館や美術館に赴き今後の創作活動に必要な資料集めや創作の参考になりそうな作品を鑑賞したり…——そう物思いに耽る響の意識を突如として破ったのは和哉の「決まんね〜!!」という叫び声だった。
「起きたのか?朝食、できてるから起きたのなら早く準備しろ」
「あ、おはよう響…うん、もうちょい待ってくんねぇ…?今日着てく服が決まんなくてさ…」
響が寝室を覗き込むと出かける候補の服をベッドの上に並べ寝巻きのまま、うんうんと唸っている和哉の姿があった。
「そんなに悩むことなのか?いつも通り、ラフなTシャツとスラックスでいいだろ…まだ少し肌寒いから薄手のジャケットを持っていった方がいいかもしれないけど」
「だって久しぶりに響とデ…出かけるから…ちゃんとした服着た方がいいかなって…響は、ラフな服装でもカッコイイけどさ…」
「はあ…それなら俺が選んでやろうか?」
「えっ!響が選んでくれるの?」
響が寝室に足を踏み入れてからずっと項垂れていた和哉は、響からの思いもよらない提案に顔を上げ、打って変わって期待の眼差しを向けた。正直、適当に選んでさっさと身支度を整えさせようと考えていた響だったが、ふと高校時代よく和哉が気に入って身につけていた恐らくお気に入りであろう薄緑色のパーカーが目に溜まった。
「この服…俺と出かける時によく着ていたよな高校の時…」
「うん…けどこれ気に入っててけっこう着てるから、色落ちもしてるしそろそろ捨てちまおうかな…」
「…これがいい。今日はこの服を着て俺と…デートしてくれないか?」
ただでさえ響からの押しには弱い和哉が、あえて「デート」という単語を使えば十中八九…いやほぼ100%の確率で断らないだろうな、と響は瞬時に思考し、口にした。何より永茜在学時に初めて二人で出かけた時に和哉自身が選んで身につけていた服を、簡単に捨てるなんて言ってほしくなかった。
「デート…!は、はい…!じゃなくて!わかった!!じゃあ俺着替て準備するから…」
「和哉」
響は徐に和哉の両手を掴み万歳のポーズを取らせ、そのまま寝巻きを脱がせてパーカーを手にすると、すっぽりと頭から被せてしまった。少し乱れた和哉の髪を手櫛で整え、パーカーのフードを調整する左右の紐それぞれに手を添えると、ぱちぱちと瞬きをしながらされるがままになっている和哉をそっと引き寄せ、唇に触れるだけのキスをした。
「へっ!?」
何事かと寝室へと足を運ぶきっかけとなった叫び声とほぼ同じ声量で驚く和哉に「早く顔洗って支度しろ」と声をかけ、響は踵を返す。しかしふと何か思い立ったのかのように立ち止まると、くるりと振り返り、頬を染め呆然と突っ立ったままの和哉を見てふっ、と満足気に微笑んだ。