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    第三者が繋ぐローコラ生存if

    とある理由で似顔絵の仕事をすることになったウソップ。2メートル超えの大男が似顔絵を一つ描いてくれと、依頼しにやって来た。

    感想頂けると嬉しいです!

    「似顔絵一つ、いいかい?」


    低い、だけど柔らかい声色に振り返るとそこには長身の男が立っていた。
    しかもデカイ、たぶんゾロやサンジよりも背が高い。男の身長に驚きながらも俺、麦わら海賊団 狙撃手ウソップは樽の上に置いていたスケッチブックと鉛筆に手を伸ばした。





    「ダメね、この島の人たち警戒心が強すぎてロクに話も聞けないわ」

    サニー号の甲板の上、麦わら海賊団航海士のナミが深いため息を零しテーブルの上に頬杖をついた。
    そして我らの海賊団の船長はと言うと空腹に耐え切れず甲板の芝生の上で腹の音を鳴らしながら仰向けに倒れている。
    少し前に立ち寄った島はある海賊に支配されており、もう恒例というか島の人たちを放っておけないのとルフィが飯屋のおっさんには恩があるとかよく分からない理由で島から海賊たちを追い出して島の人たちと壮大な祝いの宴をしたわけだが…その時の宴で残った食糧を全て使い果たしてしまったのだ。
    次の島で食糧を調達すれば大丈夫と油断して、今現在の状況に至るわけで…

    トリミット島と呼ばれるこの島は少し前に滞在していた和の国に似ている。
    海賊に支配こそされてはいないが、島の外からの情報は全て遮断、自給自足の生活で島民たちの距離は近く島全体が家族のような感じだ。
    そのため他所から来た人間に対する警戒心は強く、話かけても無視をされる。
    お宝を課金出来る場所も無く、食糧を買おうとしても島民にしか売らないとさえ言われる始末だった…と調査隊としてトリミット島に行ったナミ、サンジ、ゾロが珍しく困った表情で報告をしていた。
    次の島に行くことも考えたが、ログポースは3日しないと貯まらないのと我らの船長の腹が限界を迎えて暴れ出すのも時間の問題とのことで俺さまこと、ウソップさまに白羽の矢が立ったのである。

    何故、似顔絵なのかって?
    確か…これを提案したのはブルックだ。

    ワの国の潜伏時にガマの油が飛ぶように売れてしまい暇を持て余した俺は近くにいたちびっ子たちに似顔絵を描いてやったんだ。
    そしたら、その似顔絵もガマ油が売れた時と同じくらい人気を呼んじまって、気付けば小さな子供たちの行列出来ていた。

    もちろん金なんか取ってねぇよ?
    だって似顔絵なんてただの絵さ
    絵を描いたくらいで金を取るなんて
    このウソップさまがするわけねぇだろ?

    ただ…ソレがトラ男にバレちまって
    あんま目立つことするなって釘を刺された。
    それ以来似顔絵は描いてねぇんだけど…
    ちびっ子たちの似顔絵描いてるのブルックに見られてたみてぇで、ブルックは
    「ヨホホ‼︎ウソップさんアナタ本当に絵がお上手なんですね〜‼︎コレお金貰えちゃうレベルですよ!ヨホホホ‼︎」ってよく分からないけどスゲェ褒められた。
    なんでもブルック曰く、音楽も絵も人の心を動かし人の心を幸せに出来るならプロでなくてもそれに見合ったものを貰ってもいいのだと…

    俺は正直、ブルックの言ってることが
    理解出来なかった。

    似顔絵で人を幸せにする?
    似顔絵なんてただの絵だ。
    似てると喜び持ち帰ったあの子供たちも
    家に帰ればあんな紙捨てちまうに決まってる

    絵で人を幸せになんて出来るわけがない…




    「ウソップさんが島の方の似顔絵を描きお金を頂く、と言うのはどうでしょうか?
    ウソップさん、と〜っても絵がお上手なんですよ〜ヨホホホ‼︎」

    食糧と腹減り船長をどうするか悩む船員にブルックが当たり前のように言った。
    そのブルックの突拍子もない提案がこの似顔絵という奇妙な仕事のはじまりである。

    幸い調査隊に俺はいなかったから島民にとってウソップは初見だ。
    はじめは警戒していた島民も謎の長鼻似顔絵師に群がる子供たちを見て警戒を薄めた。
    それどころか俺の描いた似顔絵を見るや否や私も俺も描いてくれ!と家族を引き連れやって来る。
    一日の食糧分くらい稼げればいいと思ってはじめた似顔絵は3日分の食糧が余裕で買えるほど金を稼ぐことが出来た。
    島民のほとんどを描いた気がする。
    それでも不思議と疲れを感じることが
    なかったのは変装せずにいつもの服装でのびのびと絵を描くことが出来たからだろう。
    トリミット島は島外からの情報が入って来ないから、手配書どころかコイツらは俺が海賊であることも知らない。

    「流石に腹減ったなぁ〜」

    似顔絵を求める客も夕方近くになると減った。
    ようやくご飯が食えると、道具を置いてサンジが余り物で作ってくれたサンドイッチを食べている時に例の大男に話しかけられたのだ。



    ◾️


    食べかけのサンドイッチを置いて「おっさんを描けばいいのか?」と訪ねると大男は自分ではなく子供を描いて欲しいと言った。

    「子供?おっさん結婚してんのか?」

    目の前の大男を見上げて言った。
    男は黒い帽子に擦り切れて穴の空いたオーバーオール、首には土汚れのついたタオルを巻いている…うーん、見た感じ農家の人間か?
    恐らく服のサイズが合っていないのだろう、木箱に座った男の足はズボンが膝近くまで上がっていた。
    そして上がった裾から見える足には刀傷にエグい銃痕、おまけに口には棒付きキャンディーときた。

    …申し訳ないが家庭を持つ人間には到底見えない

    俺の言葉におっさんの鋭い目がまん丸に開かれ、何故かキラキラと輝きだした。

    なんかこのおっさんルフィに似てんな…

    「え⁉︎俺結婚してるように見える⁇」

    「いや、全然」

    「即答⁉︎」

    「いやぁ、おっさんどう見ても結婚とかムリだろ。その身長だけで威圧感スゲェし、目付き悪いし」

    「初対面でめちゃくちゃ言うなアンタ⁉︎」

    「その歳で棒付きキャンディーってのも」

    「禁煙してんだよっ‼︎」  

    ーこのおっさん面白いなぁ〜

    激しいツッコミを終えたおっさんは呼吸を整えると口からキャンディーを取り出し真剣な眼差しで俺を見据えた。
    その表情にさっきまでのおちゃらけたような、ふざけられる空気は無く俺も背筋を伸ばしておっさんに向き直る。
    珍しい赤色の瞳が寂しそうにゆらゆらと揺れていた。

    「…この島に長くいると色々なこと忘れちまう…だけど、アイツだけは忘れたくなくて
    だから長鼻の兄ちゃんよ。
    …冬島の宝箱の中に置いてきちまった大事な子供の似顔絵を描いて欲しいんだ…」

    おっさんはさっきまでの真剣な表情も、ふざけた時にしていた表情とも違う、優しく柔らかな微笑みを浮かべていた。
    俺の描く似顔絵は本人を前に見ながら描くものだ、その場にいない人間を描くことは出来ない…そう言いたかった、言うはずだったのに…
    おっさんがあまりにも優しくその宝箱に置いてきた子供のことを想い優しい笑みを浮かべるものだから…

    「…その子供の特徴…詳しく教えてくれ」

    気付けば俺は置いたばかりのスケッチブックと鉛筆を手に取って描く体制に入っていた。
    俺の言葉におっさんが嬉しそうに笑って「ありがとな!」と言った。
    きっとその笑顔をいつもしていたら女の子にもモテていたし、結婚も出来たことだろう。

    けれども、おっさんの心もきっとその子供を置いてきた宝箱の中にあるのだろうと、俺は無意識にそう思ってしまった…。


    「まずは、そうだな。
    その子供の特徴は?なんか髪型が変わってるとか、目の色とか、帽子を被ってるとか」

    「う〜ん…帽子かな?アイツは白色に黒い斑点模様のついたモコモコした帽子を被ってる」

    「ふむふむ、白色の黒い斑点…」

    「髪は黒に近い藍色だな。
    あと目付きは俺以上に悪いな
    鼻筋が通ってる」

    「ふむふむ、髪は黒に近い藍色……目付きが悪い………ん〜?…うん、うんん⁇」

    「目の色は琥珀色、俺と旅してる時は体がかなり弱ってたから…本人から目の色素が薄くなってるだけで、黄色に近い琥珀色だって聞いてる」

    「…………」

    「ん?長鼻の兄ちゃんどうした?」

    「へ⁉︎あっ、いやま、ほら‼︎あれだ、い、イメージをだなぁ、明確なイメージを膨らませていたところなんだよ!話かけるんじゃねぇ‼︎」

    「えぇ⁉︎そうだったのか!わ、悪い邪魔した!」

    「…」

    男にはイメージを膨らませてると言ったが、スケッチブックには既に子供の姿が完成されている。
    男の話を聞きながら子供を描いたが…
    この子供の顔が姿がどう見ても同盟相手の悪人顔がよく似合うハートの海賊団の船長様にしか見えない。
    髪は〜目の形はこんな感じかなぁ?と描いてるフリをしてスケッチブックの端っこに似顔絵で描いた子供の顔を見ながら、その子が成長した姿を描いてみる。
    子供が成長すると無駄な肉が削がれる、大きな目も小さくなり鼻筋を小さい頃よりもスッと伸ばして、もみあげ、顎髭を付ければ…

    あ〜ら不思議‼︎
    ハートの海賊団の船長様の出来上がりだ‼︎

    ーっておっさんトラ男と知り合いなのかッッ⁉︎

    しかし、あの心臓を海軍に送りつけたヤバイ奴、イカれ七武海野郎とおっさんとの接点が全く見えない。
    スケッチブックの向こう、木箱に座るおっさんはソワソワした様子で似顔絵を今か今かと待っている。
    その様子になんだかこのまま待たせるのも悪いと思い、成長したトラ男の絵を急いで消して完成した子供の似顔絵を手渡した。
    トラ男とおっさんの謎は残したままだ…

    「どうだ?似てるか?」

    似顔絵を渡しながら言えば、おっさんはゆっくりと手を伸ばして優しい手付きで紙を受け取った。
    傷だらけの指先が紙の表面を優しく撫でた
    皺の刻まれた目元が細められへの字に曲がった唇が、猫背気味の背中が小さく震えている

    「…あぁ、あぁ…っ、あの子だ、アイツだ…っ」

    おっさんは似顔絵を見ながら顔をぐしゃぐしゃしに鼻水を垂らして泣いていた。
    いや、泣くなんてもんじゃない大号泣だ。
    流石の俺も驚く、だって似顔絵を描いて泣かれることなんて初めてだった

    「⁉︎おっさん⁉︎いや、そ、そんな泣くほどのことかよ?よく見てみろ!ただの絵」

    「長鼻の兄ちゃ‼︎ありがとうッッ‼︎
    もうっ、会えねぇって…っ思って゛だ!
    会う資格なんて、ねぇって…ッッ」

    「…っ!」

    「ありがとう…っありがとうなぁ…!」

    おっさんは似顔絵を宝物のように大事にシワが付かないように泣きながら抱きしめた。
    禁煙のために舐めていた棒付きキャンディーは地面に落ちて草やら土やら付着して食べれない状態になっている。

    「…泣くほど…嬉しいのかよ」

    唖然としたように言えば男は泣き笑いの表情で俺に向かって大きく頷いた。
    そしてまたすぐに子供の似顔絵に顔を戻す…いい大人が人目も憚らず目から溢れ出る涙をそのままに笑って…泣いている。

    「あぁ、そうだアイツはこんな顔してたんだよなぁ…っ元気にしてるかなぁ、ちゃんと病気治せたか?…信頼出来る友達は…いや、お前は不器用だけど優しい子だから、きっとお前を慕う子は沢山いるんだろうなぁ…っ」 

    「…」

    「医者にはなれたか?お前、父親のこと尊敬してるって言ってだもんなぁ…
    お前の成長した姿見たかったなぁ…っ
    お前クソガキの癖に顔いいから、きっとスゲェ…っイケメンになって女の子に沢山モテてたんだろうなぁ…っ…へへっ」

    おっさんはずっと似顔絵の中の子供に
    何も喋らない返事も出来ない絵に喋りかけている。
    側から見たらおっさんはヤバイ奴か頭のイカれた奴に見えるだろう…

    けれど俺はおっさんのそんな姿を見て面白いとか、ヤバイ奴、どれも浮かぶことはなかった。

    俺は不思議でならなかった。
    だって所詮は似顔絵…
    紙にいるのは描かれた人間だぞ?
    恐らく、いや絶対にあの子供はトラ男だ
    これは断言出来る。

    トラ男が存在しているのにおっさんがどうしてそんな絵に縋るのか分からない…
    会いたいなら会いに行けばいいじゃねぇか…
    だってトラ男はこの広い海で生きてる。
    あの黄色の潜水艦の看板の上でシロクマを枕にして優雅に昼寝でもしてるんだよ!
    そんな、悲しい声で絵に話かけるくらいなら本人に直接言えばいいじゃねぇか…っ!

    「…っ」

    鉛筆を持ってる手が、視界に映るスケッチブックが歪みはじめる。
    おっさんに声が聞こえないように歯を食い縛っても、唇の震えは止まらなかった。

    だって…だってよぉ、おっさんの言葉が、切なくて…声を聞いてるだけでこんなにも悲しくなることってあるかぁ?

    おっさんとトラ男、2人がどんな関係なのかは知らない。アイツはパンクハザードからドレスローザまで自分の話どころか、過去を語ることはなかったから。
    それでもこのおっさんがトラ男のことを、幼いトラ男を心から愛してるって俺でもわかったんだ…

    ー鉛筆を取ったのは無意識だった

    トラ男との関係を聞くことだって出来たのに、それよりも先にこの男を描かなければきっと…俺は一生後悔するって思ったんだ。

    俺は似顔絵を何時間も見つめては触れるおっさんの優しい表情を寸分狂わず、誰が見てもこのおっさんだと分かるように一心不乱にスケッチした。
    日が暮れて、おっさんの長い金色のまつ毛に溜まった涙が夕暮れ色に反射して美しい光の粒が出来ていた。その涙の粒も絵に現すことが出来ればいいのに…泣いてるのに口元は優しく微笑んでいる、ちぐはぐなその表情を誰かに見せる予定も無いのに…

    何かに突き動かされるように、俺はおっさんがこの日見せた表情を描き逃すことなく、手を真っ黒に汚して描いては消してを繰り返して納得するまで描き続けた。

    「お〜い!ウソップ〜‼︎」

    おっさんの似顔絵を描きはじめて何時間経ったのか、俺は仲間の声に飛ばしていた意識を戻した。
    辺りは真っ暗でおっさんが付けてくれたのか、乾いたサンドイッチの置かれた箱の上には火の付いた蝋燭が置かれている。
    そうだ、おっさんも俺みたいに誰かに名前を呼ばれて帰って行ったんだ。
    帰るおっさんに俺は生返事をして軽く手を振っていた気がする。
    手元のスケッチブックに目を落とすと、そこにはさっき見た光景を綺麗に切り取ったようなおっさんがしっかり描かれていた。

    「…へへ」

    「ん?なんだよウソップ、その絵」

    「俺さまの自信作だ!」

    「…なんだよ男かよ」

    俺を迎えに来たサンジが道具を片付けながら心底つまらないと言った声で言った。
    サンジの言葉はそこで終わるはずだった、けれど似顔絵をじっくり見るとサンジは「コイツいい表情してるな」と優しく笑ってそう言った。
    きっと誰かを思う優しい表情というのは他人の心にも響くものなのだろう。
    おっさんが置いていった硬貨をポケットから取り出して夜空に掲げて見る。
    その硬貨は今日貰った硬貨の中で一番
    まるで月のように輝いてるように見えた。

    硬貨を見ながらブルックの言葉を思い出す

    【ヨホホ‼︎ウソップさんアナタ本当に絵がお上手なんですね〜‼︎コレお金貰えちゃうレベルですよ!ヨホホホ‼︎】

    【ウソップさんが島の方の似顔絵を描きお金を頂く、と言うのはどうでしょうか?
    ウソップさん、と〜っても絵がお上手なんですよ〜ヨホホホ‼︎】


    【ウソップさん音楽も絵も人の心を動かし人の心を幸せに出来るなら
    プロでなくてもそれに見合ったものを貰ってもいいのですよ?ヨホホホ‼︎】

    似顔絵なんてただの絵だと思っていた。
    似てると喜び持ち帰っても家に帰ればあんな紙捨てちまうに決まってるって…
    きっとあのおっさんはあの似顔絵を死ぬまで大切に飾るのだ、毎日眺めてトラ男を思い出して、またボロボロと涙を流すのだろう…
    絵で人を幸せになんて出来るわけがないと思っていたけど、今日俺はきっと一人のおっさんを幸せにしたのかもしれない…

    サンジと一緒に稼いだ金で3日分の食糧を買ってサニー号に帰る。
    ルフィが空腹で死にかけ寸前だったので売り上げとか土産話よりも先に飯の時間にすることにした。
    俺もおっさんを描いてて昼飯のサンドイッチをほとんど食べていないから腹ペコだ。
    食事のような戦争のような夕飯が終わって皆思い思い食後の自由時間を楽しんでいると飯をたらふく食べて元気になったルフィがウソップ工房にやって来る。
    恐らくほとんどの仲間に遊びを断られて俺のとこに来たって流れだな。
    ナミのクリマタクトの定期点検をしていると工具箱近くに置いていたあのおっさんの似顔絵に目敏く気づいたルフィは「コレなんだ?」と言ってゴムの腕を伸ばした。
    筒に穴が空いていないか点検しながらルフィにサンジに言った時と同じ言葉を返せば、似顔絵をジッと見ていたルフィも「スゲェいい笑顔だな!俺、この絵好きだなぁ」とサンジと似たようなことを言ってニシシっと笑うもんだから俺も釣られて笑ってしまった。  

    どうやらおっさんは女にはモテなくても
    海賊にはモテる男らしい。

    寝る時間が近づいてルフィが眠たそうに目を擦りはじめるものだから早く寝なさいと言って工房から船長を追い出した。
    似顔絵師として働いた俺は夜の見張り番を免除、そのままルフィと同じように寝ることも出来たが俺にはまだ最後の仕事が残っている。工具箱に道具を閉まって、俺の背後にグーグーと鼻提灯を作って寝てるゼウスにナミのクリマタクトを手渡した。
    ゼウスを見送り終えると次におっさんの似顔絵を手に取る。色の塗られていないラフなスケッチイラストだ、おっさんの姿を忘れないようにその日のうちに色を塗らなければいけない。
    徹夜の覚悟を決めた俺はまずは、と赤い絵の具に手を伸ばした。



    ◾️


    「ウソップ!これ、昨日のおっさんの絵か⁉︎スゲェ〜いいじゃん!食堂に飾ろうぜ‼︎‼︎」

    「んあ?あ〜…なんだよルフィ〜、朝っぱらから煩せぇなぁ…」

    「なぁなぁ‼︎フランキーに額縁作って貰ってよぉ、飾ろうって‼︎」

    「飾るって…おっさんの絵をかぁ?」

    色の塗られたおっさんの似顔絵を我らが船長様は大層お気に召したようで、汚さないように2人でフランキーに頼んで頑丈な額縁を作って入れて貰った。
    おっさんの優しい笑顔はトラ男を思う表情は麦わらのクルーたち全員が好きになった。
    カウンター席に座り食堂に飾られた一枚の似顔絵を見ながらナミは懐かしそうに笑って言った

    「この絵…なんかよく分かんないけど好きなのよね…ふふふ、この人なんだかベルメールさんに似てる」

    おっさんの似顔絵は俺たちの日常の一部となった。ルフィを筆頭に麦わらのクルーたちはこの絵を好きだと、描いてくれてありがとうと言った。
    食堂に一枚飾られた絵を時々見てはあの日の大男を思い出す。
    おっさんがいた島に俺たちはもういない
    島から離れてもう一週間は経過した
    充分な食糧、ログポースも溜まって留まる理由がなくなったからだ。
    俺は似顔絵描いた次の日もあの島に上陸した。
    色塗りをしているときにおっさんの名前を知らないことに気づいたからだ。
    名前を知りたかった。もしかしたら名前を教えればトラ男がアンタのこと思い出してくれると思ったから、残りの2日間おっさんを探したけど会えなかった。

    「…」

    似顔絵を眺めていると考えてしまう…。

    お互い生きてるのに何故会えない
    そのトラ男を思う表情を本人に見せてあげればいい。
    似顔絵の中の子供はもう大人になった
    なんなら四皇だって倒した男だ
    思い出に縋ってあの島で死ぬまで生きるくらいなら、宝箱に閉じ込めたいほど大事な男と一緒にいればいいんだ。

    会いたくても、もう会えない人がいる中で
    知らないだけで…
    気づいていなくて出会ってないだけなら…
    あのおっさんとトラ男はまだ幸せ者に違いないのだから…


    「おや?ヨホホホ‼︎
    ウソップさんお早いですね〜」

    ガチャっと扉を開けて入ってきたのは麦わら海賊団音楽家のブルックだった。

    「ブルック?あぁ、朝の紅茶か」

    「ヨホホホ‼︎その通りです‼︎
    わたし朝は紅茶って決めてるんです!
    なんというんですかねぇ、昔ながらの
    癖は抜けないものなんですよねぇ〜
    ヨホホホ‼︎」

    カツカツとヒールの音を鳴らしガイコツ男
    ブルックが食堂に入ってくる。
    ブルックは朝必ず紅茶を飲むんだ。
    あのサンジすら淹れ方を聞いてしまうくらいブルックの淹れる紅茶は本当に美味しい。
    「俺にも淹れてくれよ!」と言えばブルックはヨホホホ!もちろんいいですよ〜と笑って戸棚からカップを2つ出して紅茶を淹れてくれた。
    紅茶を飲みながら2人席に座りさっきまで眺めていた似顔絵に再び目を向ける。

    「わたしこの似顔絵だいっ好きなんですよね〜ヨホホホ‼︎なんだからとても優しい気持ちになれます!」 

    「優しい気持ちねぇ」

    「えぇ、ですがー」

    「?」

    ブルックは紅茶を一口飲んでカップを皿の上に置いた。

    「この絵の方は何かを諦めているようなお顔をしてるのが、なんだか寂しくて…」

    「‼︎」

    ブルックの言葉におっさんが似顔絵を見ながら話していた台詞が甦る…

    「…」

    「わたしの音楽でもっと笑ってくれたらいいんですけどねぇヨホホホ‼︎」

    「っお、お前の音楽なら出来るって‼︎」

    「もちろん‼︎わたしは麦わら海賊団の音楽家ブルック‼︎わたしの奏でる音楽は聞いた人たちをみーんな笑顔にするんですよ!ヨホホホ‼︎」

    「ははっ!そうだな!きっと俺なんかの絵よりブルックの音楽聞かせたらおっさんもスゲェ笑ってくれると思うぜ?」

    「えぇ、きっと笑顔になってくれるでしょうね…
    しかし、この似顔絵のような優しい笑顔を彼はわたしに見せてはくれませんよ。」

    「っえ?」

    「この笑顔はウソップさんの絵にしか引き出せないものです」

    ブルックはさっきまでの陽気さが嘘のようにまた紅茶を静かに一口飲んで話を続けた

    「この方は本当にいい笑顔をしていらっしゃいます。それはきっとウソップさんがこの方をしっかりと見て、この方の心に真剣に向き合って描いたから産まれたお顔なんでしょうね…」

    「お、俺は…別に…金のために描いただけだ」

    「本当にそうでしょうか?」

    「っ」

    ブルックの言葉に俺は持っていたカップを置いた。

    「…ブルック…前にお前言ったよな…

    音楽も絵も人の心を動かして
    人の心を幸せに出来るなら
    プロでなくてもそれに見合ったものを貰ってもいいって…正直、俺は絵で人を幸せに出来るなんて思ってない…何言ってんだよ!ただの絵だろ?って思ってた…」

    「…今は変わったんですね」

    「…っこのおっさん、俺が描いたガキの似顔絵見て…泣いてたんだ…泣いてんのに、スゲェ嬉しそうに笑って…っ俺の絵を宝物みてぇに抱きしめて… …っ」

    「それはきっとウソップさんの絵が彼の見たかったもの、そのものだったんですよ。
    アナタのことですから、彼から子供のお話や特徴を細かく聞いたのでしょう?」

    「へ?あぁ…だって描くからには喜んで欲しいから…かなり細かく聞いた気がする」

    そうだ、トラ男だってわかってからも
    俺はおっさんに子供のことを細かく聞いていた気がする。
    笑ったらどんな風だとか、よくする仕草とかおっさんにはいつもどんな表情をしてるのとか…

    「子供は確か…トラ男さんでしたっけ?」

    「あぁ、確実にな」

    「子供の似顔絵には何時間かかりました?」

    「えっ…たぶん島の子供たちより一番時間かかったと思うぜ?なんせ目の前にいねぇんだ
    だから…3時間くらい?」

    「アナタほどの画力なら大人になったトラ男さんを元にその子供の似顔絵を描くことが出来たのに、何故しなかったのですか?」

    「なんでって…」

    ーおっさんに喜んで欲しいから

    「ウソップさん、アナタはやはり優しい方だ。お金のためなら絵にそんな時間はかけません。ましてや、もう立ち寄る予定の無い島、似顔絵に少し手を抜いて相手に怒られたって普通の方なら気にしません」

    「っ!」

    「アナタが真剣に描いてくれたこそ
    この方はこんなにも優しい笑顔を
    …そして、見せるつもりもなかった
    心の奥の寂しい気持ちが出てしまったんだと思いますよ?ヨホホホ‼︎」

    …おっさんの寂しい気持ち

    俺はブルックの言葉を聞いてすっかり冷めてしまった紅茶を皿の上置いた。
    そして立ち上がり似顔絵の前に立つ

    「なぁ、ブルック…この絵を見た誰かに
    おっさんの、その…寂しい気持ちってのはちゃんと伝わるのかな?」

    「ヨホホホ‼︎アナタが一生懸命描いた絵ですよ?
    伝わるに決まってます!」

    「そっか…そうだといいな」

    「ヨホホホ‼︎ウソップさん紅茶淹れ直しましょうか?」

    「!ありがとな!俺ブルックの淹れる紅茶大好きなんだ!」

    「ヨホホホ‼︎なんとも嬉しいお言葉‼︎
    それではウソップさんにはとびきり美味しいのを淹れなくてはなりませんね〜ヨホホホ‼︎」

    ブルックは2つのカップを持ってキッチンに持っていく。もうすぐ他の船員たちも起きてくるだろう、ルフィはまたおっさんにおはよう!といつも挨拶をするのだ。




    ◾️


    おっさんの似顔絵を描いて月日が経ち
    情報交換のためサニー号にトラ男が来た。
    トリミット島を出て一か月は経った
    おっさんの似顔絵は今も食堂に飾られている。
    トラ男が来ると聞いて俺はすぐにおっさんの話をしようと思っていたのに、ルフィがトラ男来るなら宴だ‼︎と言うものだから俺は宴の食材調達、いや、魚釣り係りに任命されてしまったのだ。

    甲板では作戦会議と言えない会議が行われて、トラ男とナミがルフィに何か怒鳴っている。それが何時間も続きルフィを相手にして疲れたのかトラ男がコーヒーを一杯飲みに食堂に向かった。
    あの食堂にはおっさんの絵が飾らせてる、ソレを見てトラ男が何か気づいてくれたらいい…

    釣り竿を持つ手に汗がジワリと滲み出し
    隣に座るチョッパーの竿が大きくしなった時だー


    バンッッ‼︎

    「麦わら屋ッッ‼︎」

    トラ男は1分経たずと食堂から飛び出て来た。
    その手にはあのおっさんの似顔絵がある。
    トラ男は今にも泣きそうな表情で驚き固まる麦わらの船員たちを見渡している。
    しかし、麦わら屋と言ってからトラ男の表情は曇ったままで、何を聞いていいのか迷っている、迷子の子供のようだった。
    そのトラ男の表情に俺は居ても立っても居られなくて、釣り竿を投げ捨ててトラ男に駆け寄った。

    「トラ男。その似顔絵を描いたのは俺だ」

    「っ鼻屋⁉︎これを、コラさっ…この人はどこにいたんだ⁉︎」

    「…」

    トラ男が泣きそうな表情で縋るような目で俺を見るもんだから、俺はおっさんの思いが一方通行じゃないことを知れて嬉しくて笑ってしまった


    ーおっさん、良かったなぁ
    アンタの宝物はアンタをちゃんと覚えてる




    【…冬島の宝箱の中に置いてきちまった大事な子供の似顔絵を描いて欲しいんだ…】

    「そのおっさんから似顔絵を依頼された」

    「…似顔絵?」

    「おっさんはこう言ってたよ

    …冬島の宝箱の中に置いてきちまった大事な子供の似顔絵を描いて欲しいんだって」

    「っ⁉︎コラさん…ッッ」

    ドサっと目の前でトラ男が膝をついて
    俯き涙を流していた。
    その姿を見て俺も鼻の奥がツンっとなって涙が溢れそうになったけど、俺にはまだトラ男に伝えなきゃならねぇ言葉が沢山あるんだ。

    俺にしか伝えられないおっさんの言葉…

    流れ出る涙と鼻水を拭って俺は言葉を続ける

    【長鼻の兄ちゃ‼︎ありがとうッッ‼︎
    もうっ、会えねぇって…っ思って゛だ!
    会う資格なんて、ねぇって…ッッ】

    「もう会えねぇって…っ会う資格がねぇって…
    おっさんは、言ってた」

    「‼︎」

    【あぁ、そうだアイツはこんな顔してたんだよなぁ…っ元気にしてるかなぁ、ちゃんと病気治せたか?…信頼出来る友達は…いや、お前は不器用だけど優しい子だから、きっとお前を慕う子は沢山いるんだろうなぁ…っ】

    「元気にしてるかなって、ちんと…っ病気っ治せたか?って…友達出来たかってよぉ、お前のこと…っスゲェ心配じでた…‼︎」 

    「…ぐぅ…っあっ、あ‼︎
    コラさん…っコラさ…っ」

    サニー号の芝生の上にトラ男のおっさんを思う涙がボロボロと溢れ落ちる。


    【医者にはなれたか?お前、父親のこと尊敬してるって言ってだもんなぁ…
    お前の成長した姿見たかったなぁ…っ
    お前クソガキの癖に顔いいから、きっとスゲェ…っイケメンになって女の子に沢山モテてたんだろうなぁ…っ…へへっ】

    「…医者に…グスッ…なれ、だがっでぇ…成長しだ姿見だがっだ、でぇ…っ女の子にもででるっでぇ、笑っでだんだ‼︎」

    「う゛う゛〜ッッ」

    「ッお前があのおっさんとどんな関係なのか俺は知らない‼︎…っだけどよぉ、お前は…トラ男が生きてんのに…っあのおっさんわ‼︎
    俺が描いたただの似顔絵の中の子供とあの島で人生終わらそうとしてんだッッ‼︎」

    「⁉︎」

    「お互い生きてんだぞ⁉︎
    死んじまってもう…っ会たくても会えない奴らが星の数いるのに…っなんで…っなんっでお前らは
    一緒にいねぇんだよ‼︎⁉︎」

    「…っコラさんは、あの人は…ほ、ほんとうに…生きてるのか?」

    「おっさんはここから離れたトリミット島にいる!」

    「⁉︎トリミット島…じゃあ、本当に…っ」

    「トラ男、さっきのおっさんの質問全部
    お前自身がおっさんの目の前で答えてやるんだッッ‼︎」

    「っ⁉︎あ、あぁ…答えてやるよ、全部‼︎」

    トラ男は溢れ出ていた涙を拭うと能力を発動してサニー号の隣に隣接していたポーラータンク号に乗り込んだ。

    そして振り返ってこう言った

    「麦わら屋ぁ!俺は宝を獲りに行く‼︎
    宝を獲り次第、宴は俺たちハートの海賊団が改めて仕切り直し準備をさせて貰う‼︎」

    「おう!わかった‼︎」

    「鼻屋ぁ!」

    まさか俺も呼ばれるとは思わず
    反応が遅れて怒号混じりにもう一度
    今度はウソップ‼︎と呼ばれた

    「うぇえ⁉︎あっ、ハイ‼︎な、なんでしょうかトラ男さん‼︎」

    「食堂に飾られてた
    この似顔絵貰っていいか?」

    「えっ」

    トラ男の手にはあのおっさんの似顔絵があった。
    俺の自身作だ、あの日を切り取った美しい男の優しい微笑み。

    「ダメだ!」

    「!」

    断られると思っていなかったのかトラ男が驚いた表情を浮かべていた。
    何も気づいていないその顔にニヤリと笑って言ってやる

    「だってお前にはそんな紙切れは必要ないだろ?
    これからはおっさんがいるんだから」

    「⁉︎…ははっ、確かに…鼻屋の言う通りだな」

    悪かった、そう言ってトラ男は似顔絵を俺が使っていた竿と入れ替えた。魚を逃して落ち込むチョッパーが突然現れた似顔絵に驚き海に落ちる。



    ◾️



    それから一週間後にポーラータンク号から通信が入る。

    宴の準備が出来たと…

    水飛沫を上げて浮上したポーラータンク号
    サニー号とポーラータンク号が青い膜に包まれる。
    そうしてサニー号の看板に現れたトラ男の隣には揃いのツナギに身を包んだ涙と鼻水を垂れ流したシャチ、ペンギン、ベポ…

    そしてー






    「グスっ…む、麦わら屋…じ、新入りを紹介しに来゛た…」  

    「ッジデでズッッ‼︎」

    同じく揃いのツナギを着た2メートル超えの大男があの日、似顔絵を受け取った時と同じようにシャチたちよりも涙も鼻水も垂れ流したぐしゃぐしゃな表情で嬉しそうに、幸せそうに笑ってトラ男の隣に立っていたんだ…

    俺はそんな泣き虫たちを見ながら
    手に持っていたスケッチブックを広げて言った



    「お前らの似顔絵描かせてくれよ‼︎」




    おわり
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