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    nekomata002

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    nekomata002

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    ワースの恩返し 
    アンナパート

    私には3人のヒーローがいます。

    1人は私をずっと守ってくれたお兄ちゃん

    もう1人は私の病を作った原因の人を
    お兄ちゃんと一緒に倒してくれた
    ドットさん

    そして、もう1人はー



    「…チョコちゃん大丈夫?」

    「…にぃ…」

    突然飛び出して行ったチョコちゃんを道行く生徒や先生に尋ねながら追いかける。
    息を切らしたどり着いたのはチョコちゃんと初めて出会った森だった。
    キラキラ光る泉の近くにチョコちゃんはいた。チョコちゃんの頭は何故か水浸しで鳴き声にも元気がない、抱き上げるとチョコちゃんは私の腕の中でプルプルと震えていた。
    辛そうに目を瞑るチョコちゃんに話しかけるけど返事はない、今のチョコちゃんは見たくないものを見ないように、必死に目を瞑っているように見えて、なんだか私は悲しくなってしまった。

    「チョコちゃん、大丈夫だよ。
    アンナが側にいるからね…」

    「…」

    水のせいでモフモフ感のなくなった頭を優しく撫でるとチョコちゃんが甘えるように私の手のひらに頭を擦り付ける。
    やっぱりチョコちゃんは可愛い、早く部屋に帰ってチョコちゃんのぺったんこな毛を私が大好きなモフモフの毛並みに戻しあげなきゃ!
    チョコちゃんにアンナのお部屋に帰ろうねと優しく話しかける。
    チョコちゃんは私の言葉に小さく「……にぅ」 と答えるだけですぐに腕の中で小さな体を丸めて目をつぶってしまった。

    「…」

    森で出会ったモフモフしたチョコ色の毛色をした猫のチョコちゃん。
    学校でフィン先生と2番目に出来たお友達で私の3人…あ、猫ちゃんだから1匹かな?
    とにかくチョコちゃんも私のヒーローだ。




    「お、お兄ちゃんは間違ったこと…っしてないと思いますっ!」

    入学式の初日、レミナス家の長男クライブくんに話しかけられたことで私の学校生活は最悪な形ではじまってしまった。
    数年前にマーチェット通りで魔獣が暴れ回るという事件があった。
    魔獣の売人が檻の鍵を閉め忘れたことで移送の途中、魔獣が檻の中から脱走してしまったのが事件の発端らしく、常に賑わいを見せる街の中に暴走した魔獣が入り込んでしまった。沢山の人の中にその日お父さんと買い物に来たクライブくんもいたんだとか、
    魔獣退治に来た神覚者の中に私のお兄ちゃんもいた。騒動の最中、飛んで来た瓦礫が当たってクライブくんのお父さんは怪我をした。怪我といっても軽い打撲、クライブくんは近くにいたお兄ちゃんにお父さんを誰よりも先に病院に連れて行って欲しいと助けを求めて頭を下げた。
    そんなクライブくんにお兄ちゃんは

    「断る。お前の父親は動けるだけマシだ、この場所には動くことも出来ない、命の火が乏しい…貴様の父親よりも優先されるべき人間が沢山いる」

    お兄ちゃんはクライブくんにそう言ってその場を振り返ることもせずに立ち去った。
    命に関わるくらい酷い怪我人が沢山いたこと…亡くなってしまった人がいたことを私はお兄ちゃんから聞いていたから知っている。
    お兄ちゃんの言葉は間違っていない、正しい
    …でも貴族のクライブくんにとってはお兄ちゃんの対応は許せない腹立たしいことみたいで、自分の前に兄を連れて来て床に頭を擦り付けて謝罪させろ!なんてめちゃくちゃな要求をしてくるものだから、私はお兄ちゃんは間違ったことはしてないってクライブくんの要求を否定した。
    その瞬間、教室に緊張が走った。
    周りの皆が私を信じられないといった表情で見ている。
    クライブくんは私の言葉に軽く目を見開くと次の瞬間、ニヤリと笑った

    「これからよろしくな、楽しい楽しい学校生活にしようぜ…アンナ・クラウン」

    「…っ」

    背筋がゾワっとするくらい気持ち悪い笑みだった。
    私は答えを間違えた…いや、違う…
    お兄ちゃんは正しいことをしたんだ。
    間違っているのは、逆恨みしてるのはクライブくんで…だから、私がお兄ちゃんの味方である限りどんな答えもクライブくんにとっては許せないものだった。
    クラスメイトは私を見ないように目線を下に下げている…味方がいないと理解できるには充分な行動だ。
    それから私は教室にいてもひとりぼっちだった。移動教室、勇気を持ってクラスの女の子に話しかけたら、みんな気まづそうに冷や汗をかいて目線を左右に動かして小さな声でたった一言「ごめん」と謝り私の前を通り過ぎていく…授業中、特に魔法薬学の授業の時は授業で習う魔法を利用されてクライブくんが私にワザと魔法を当ててきた。
    黒板の文字を取る羽根ペンを何度も焦がされた、教科書は水浸しにされた。
    参考書を開くと小さな爆発が発生して指先に怪我をした、先生に何度も助けを求めたけど、クライブくんの手が回っているみたいで「ま、まぁ、誰でも失敗することはありますから」と言って目線すら合わせてくれなかった。
    鳴いてるマンドレイクを投げられた時は気絶して出血するくらい強く地面に頭をぶつけてしまい保健室に運ばれたりなんかもした。
    運ばれた先で出会ったのがお兄ちゃんと同級生のフィンくんだった。
    初めて安心できる、肩の力を抜いても大丈夫な人に出会えて私はフィンくんの前でボロボロと涙を流してフィンくんに抱きついて号泣しちゃったの…

    「アンナちゃん、クライブくんのやってることはいじめの域を超えてるよ。
    お兄さんに、ランスくんに助けを求めても
    僕はいいと思うよ」

    「…お兄ちゃんには、言いません」

    「!なんでっ」

    「魔獣の事件の時に、お兄ちゃん凄く後悔してたから…もっと早く到着していれば、もっと強くなりたいって…お兄ちゃんはもう神覚者なんです。アンナだけのお兄ちゃんじゃない。みんなを、私たちの住む街を守ってくれる凄い人だから…お兄ちゃんには沢山の人たちを守って欲しいんです‼︎
    アンナは…っアンナは大丈夫です!
    だってイーストンに入学するまでずーっとお兄ちゃんは私のこと一番に考えて、守ってくれたから…アンナのことでお兄ちゃんに迷惑かけたくないんです!
    っだから、フィンくん…ううん、フィン先生。この事は絶対にお兄ちゃんに話さないでください‼︎」

    「アンナちゃん……わかったよ、ランスくんには言わない。でも、本当に辛くなったら僕を頼って、ちょっとランスくんより頼りないかもしれないけど、キミの力になりたいんだ」

    「…っありがとうございます!」

    お兄ちゃんが私をずっと守ってくれたから、アンナはお兄ちゃんの時間を沢山奪ってしまったから、お兄ちゃんに心配をかけたくないって、だから今日も私はお兄ちゃんから届いたメールに「今日の授業も楽しかったよ、おやすみなさいお兄ちゃん」と嘘のメールを打って不安の中眠りについた。

    本当は怖かった、お兄ちゃんに助けてって言いたかった…

    …教室に行きたくなかった。




    「ごっめーん、魔法の練習してたら間違えてアンナちゃんの教科書に当たっちゃったの
ごめんねぇ?ワザとじゃないのよ?」

    「…っ、…ぁ、ぅあぁ」

    クライブくん以外の人から初めて攻撃をされた。
    しかも同じクラスの女の子。
    私はみんなの中で、″みんなで虐めてもいい人間″だと認識されたのだとわかった瞬間に今までのことが走馬灯のように頭を巡って、気づいたら逃げるように教室を飛び出していた。

    逃げた先で出会ったのがー

    「にゃーん」

    チョコちゃんだった。

    チョコちゃんは猫なのに魔法が使えて私なんかよりも強くて優しい猫ちゃんだった。

    「に!」

    「うわっ!あの猫、俺の魔法跳ね返しやがった」

    「にゃ!」

    「熱っっ‼︎た、助けてくれ!ランスの妹に打った火が俺のローブにっっ!早くっ消してっ」

    「にぁ」

    「ウワァア⁉︎床に穴がっ」

    「ニャァ」

    「先輩が吹っ飛んで天井に突き刺さった⁉︎」

    チョコちゃんは本当に強かった。
    おかげで最近は変にちょっかいかけられることも、怪我をすることもなくなった。
    自習の時なんかは問題に躓いた私を見兼ねてしょうがないなぁって呆れた顔をしながらも前足をテシテシして教科書の文書に隠されたヒントを教えてくれた。
    チョコちゃんは強いだけじゃなくて頭もいいの!
    チョコちゃんが来てからクラスメイトの人から少しずつだけど話しかけられることも増えた。
    意外と猫好きの人っているんだね。
    チョコちゃんを触りたいって人は結構いて、休み時間に同級生と撫でられて不機嫌なチョコちゃんを前にちょっとした雑談なんかできるようになった。
    まだ同級生に本当のお友達はいないけど
    はじめて学校が楽しいって思えるようになっていた。
    毎週送られてくるお兄ちゃんからの手紙にようやく学校のこととか、授業のこと、チョコちゃんのことが書けるようになって心配性なお兄ちゃんを少しでも安心させられるようになったのかな?


    「チョコちゃんどこ〜!」

    フィン先生からワース先輩という人の話を聞いてる途中、いつもは大人しいチョコちゃんが保健室から飛び出しちゃってビックリしたけど、私はすぐにチョコちゃんを追いかけた。
    森から帰って寮部屋の私の布団にチョコちゃんを寝せてあげる。
    目を瞑ってはいるけどチョコちゃんは寝ていないようだった。
    夕食の時間が近いため一旦チョコちゃんを布団に置いておき夕食を食べに行く。
    爆速で食事を終わらせて寮部屋に戻るとチョコちゃんは変わらない位置にぐったりとした様子で横たわっていた。
    チョコちゃんを膝に乗せてドライヤーで濡れた毛を乾かしてあげると、アンナが大好きなふわふわモフモフのチョコちゃんが戻ってきた。暖かいモフモフの毛に顔を埋める

    「ん〜っ、チョコちゃんお日様みたいないい匂い!アンナこの香り好き〜っ」

    「にゃぁ」

    「…」

    チョコちゃんと出会ってから今日まで、チョコちゃんからアンナの側を離れることは今まで一度もなかった。
    チョコちゃんはいつだって近くにいて私を守ってくれたから…
    だけど私は動物の言葉がわからないから、チョコちゃんがいま何を考えて、どんな気持ちなのか分からない。
    いつだってアンナが辛い時には頭を擦り付けたり、前足の肉球でアンナのほっぺたを軽くテシテシしながら励ましてくれたのに…私がチョコちゃんにできることはチョコちゃんよりも少ないくて、今とても弱っているチョコちゃんにアンナがしてあげられることは…チョコちゃんの側にいることだけだった。

    「…先生、大丈夫?」

    ベッドに座ってチョコちゃんの背を撫でていると同室のライラちゃんが食事から帰ってきて、チョコちゃんを心配そうに見つめている。
    ライラちゃんは学年一位の秀才だ、勉強が好きで休み時間も図書館で勉強している。
    他人に無関心、面倒ごとは嫌いなライラちゃんが先生と呼ぶのはチョコちゃんだ。
    チョコちゃんはテスト期間の最中に、珍しく問題を解けなくて頭を抱えて困っているライラちゃんの机に飛び乗るとライラちゃんの本棚から魔法を使い2、3冊問題集を取り出した。取り出した本をライラちゃんの目の前に広げて見せて前足で一部分の文書をにゃーにゃと鳴きながら踏み付ける。
    最初は怪訝な表情を浮かべていたライラちゃんはすぐにチョコちゃんのヒントに気づいたみたいで、眼鏡の奥の瞳を輝かせスラスラと問題を解いていく。ライラちゃんの手が止まるとチョコちゃんの鳴き声が聞こえて、またスラスラとライラちゃんの羽ペンの心地よい音が室内に響いていた。

    「先生と呼ばせてください!」

    「ニャァ」

    ライラちゃんのテストは文句なしの全教科満点だった。でもライラちゃんはチョコちゃんのおかげだと言って、その日からチョコちゃんを先生と呼ぶようになったし、私ともお話するようになった。
    私がライラちゃんとお話出来て嬉しいって言ったらライラちゃんは苦虫を噛み潰したようような表情をする。

    「…アンナは優し過ぎる」

    「えっ」

    「…私が入寮初日に最低なこと言ったの覚えてるでしょ?それなのに、手のひら返したようにすり寄るクラスメイトとか……私とかに嬉しいとか、可愛い笑顔向けて…アンナはお人好しすぎ」

    「…うーん…私はライラちゃんに怒ってないし恨んでもないよ?だってあの時にライラちゃんが無理にでも私の近くにいたら、ライラちゃんも傷ついてたと思うし…
    それに移動教室とか私の隣にいて一緒に歩いてくれたり、クライブくんに教科書燃やされた時も何も言わないで教科書見せてくれたのライラちゃんだけだったから」

    「……もう、またそうやって笑って
    はぁ……まぁ、私はアンナの優しさに付け入らせてもらうよ。
    先生のおかげでいじめっ子たちも悔しそうにアンナを見てくるだけになったし
    実家から帰ったらさ…その、朝食も夕飯も移動教室も、全部一緒に行ってあげる」

    「えっ!いいの?」

    「アンナが嫌じゃなければね」

    「い、嫌じゃないよ!私、ライラちゃんとはお友達になりたいってずっと思ってたから
    嬉しいなぁ…お休みの日とか、その一緒にお出かけはどうかな?い、いいかな?」

    「!えっ、休みの日……ぅん、いいよ…」

    「よかったぁ〜」

    「…姉の結婚式があるの、妹の私は式場の準備の手伝い…はぁ、本当めんどくさいなぁ…だから今日明日、学校に戻って来ないから
    ……その、先生の不調が続くようなら病院に連れて行きなよ?その、し、心配なら私もアンナについて行ってあげるからさ」

    「ライラちゃん…ありがと」

    「ん、それじゃあ行ってくるね
    気が向いたら、その…なんかお土産とか買ってくるから…じゃあね」

    「うん!気をつけて行ってらっしゃい!」

    箒に乗って窓から飛び立つライラちゃんを見送ると私は歯を磨きパジャマに着替えてお兄ちゃんにおやすみなさいのメールを打ってチョコちゃんを抱っこしたままベッドの上へと横になる。
    いつもチョコちゃんは一緒に寝ようとすると全力で首を左右に振って逃げようとする
    だけど今日のチョコちゃんはやっぱり様子が違った。
    チョコちゃんはアンナの腕の中で体を委ねると小さな寝息を立てて眠ってしまった。
    シンっと暗く静かな部屋で思い出すのは森の奥から聞こえてきたチョコちゃんの鳴き声だった

    「にゃ、にゃあぁ」

    猫の鳴き声なのに、その声は
    泣いてるように聞こえた

    「にゃぁ〜っ、にぅ、にゃあぁあ〜ッッ」

    辛く悲しい気持ちが音に乗って私の鼓膜に響いて、目頭が熱くなった。

    「チョコちゃん…」

    チョコちゃんはなにが悲しくて
    泣いていたの?

    アンナは…アンナがこの子に
    できることってないのかなぁ?




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