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    nekomata002

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    nekomata002

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    コラさんの日常から始まる生存if
    モブ多いけどローコラになる予定
    なんかよく分からないけど思いついたから
    書いてる。自分だけが楽しいお話だよ!

    酒場のロシーさん「ロシーさん。
    その目隠した方がいいっスよ?」

    「え?」

    まだ街の人たちがベットで眠る時間。
    薄らと日差しが差し込む路地裏で同居人のトットに突然言われた言葉に俺は首を傾げた。
    配達された商品や酒の数を確認している最中にのことだ、トットという男は悪い奴ではない寧ろ優しい奴なのだが、ヤツの話は基本的に脈略が無いので返答に困る
    突然振られた話に俺は「め?」としか返せなかった。

    「目っスよ!目‼︎
    ロシーさんの赤い目」

    「赤い?えっ、俺の目って赤いの⁇」

    自分の顔をマジマジと見たことがないから気づかなかった。ドフィのとこに潜入していた時もあの道化師メイクはベビー5にやらせていたし、ローと病院回っていた時も手先の器用なローにメイクを頼んでいた。
    30半ばにして初めて知った真実に固まった俺を見るトットの表情は呆れ顔だ。

    「気づいてなかったんスか?
    あー、まぁ、近くで見なきゃロシーさんの目の色は分からないんで大丈夫だと思うっス
    なんか、昨日来た海賊の客ん中に元奴隷の人がいたみたいで教えてくれたンす!
    天竜人の中でも目が赤い人は限られてるらしくて、天竜人の血が濃い人間ほど赤色になるらしいっス!
    アンタ客との距離ちけぇし、隠した方がいいんじゃないかと俺は思うんスけど」

    「いやいやっ、赤い目が天竜人だけとは限らないだろ?」

    「まぁ、だけど赤い目ってなかなかないらしくて、過去に滅んだ幻の種族か鷹の目、天竜人って感じでかなり限定されるらしいっス!元奴隷を経験した人なら天竜人だって1発でわかるらしいッスよ?」

    「マジで?」

    俺が目ってそんな珍しいのか…
    商品の確認が終われば次は開店の準備だ。
    裏口から店内に戻る途中バケツに足が引っかかってすっ転んだ。バケツの中に水が入ってなくてよかったと安心する俺の横を「水は俺が捨てといたっス」と言ってトットが通り過ぎていく。
    トットの奴め、俺のドジに慣れてきたな?
    転がったバケツを拾い水を汲みその中にモップを入れる。

    「なぁ、隠すってどうやって隠せばいいんだ?
    サングラスかけるとか?」

    「サングラスだとロシーさんすっ転んで
    絶対に割るじゃないっスか」

    「確かに…俺のドジならサングラス割るの
    朝飯前だな」

    でもなぁ、じゃあどうすれば…
    考えながらカウンター席のテーブルを拭いた。
    長い腕を伸ばし上下左右に体を動かしているとチラチラと視界の端に金色の何かが見える。

    …俺の前髪だ。

    「あー…忙しくて切るの忘れてた。
    …前髪だいぶ伸びてきたな〜…

    ん?このまま伸ばせば目隠せるんじゃねぇか⁇」

    「あっ、ソレいい案ッスね!」

    朝の仕込みをするトットが食材を切りながら元気良く賛同をする。
    ブロンドの毛先を指先で弄りながら「前髪伸ばすの、何年ぶりかなぁ」と呟いた。

    少し辛い、だけど幸せな記憶もあったマリージョアでの日々、内気で人見知りの激しい俺は小さい頃、人と目線が合ったり目線を合わせるのが怖くて前髪を伸ばしていた。
    俺とは真逆の目立ちたがりの兄は俺のその髪を見ては何度も切れと、俺が切ってやろうか?と揶揄われ、泣かされた。

    「ロシーさん昔は前髪伸ばしてたんスか?」

    「うん。子供の頃になぁ.

    目か…気にしたことなかったけど
    俺の目が誰かの辛い記憶を呼び覚ますなら
    …隠そう。」

    「ロシーさん前髪伸ばしたら前よりドジ率高くなりそうッスね!」

    「ふふん、トットくん、俺を甘く見るなよ?
    ロシーさんは子供の頃からあの視界でドジっ子だったんだ。今更ドジが増えたところで痛くも痒くもないッッ‼︎」

    「それ全然自慢できることじゃないッスよロシーさん⁉︎」

    「ははっ、まぁ最初の頃は視界が見えなくてドフィのパンツずり下ろしたり、父上じゃなくて置き物におはようございますって毎朝挨拶してたけどよぉ、後半になってから視界にも慣れてドジやらなくなったんだって!
    だから前髪伸ばしてもそこまで酷いドジはやらかさねぇよ。それにー」

    2階から聞こえる複数の足音に俺は喋るのをやめた。

    足音に気づいたトットは嬉しそうに笑ってキッチンから出ると2階から降りてくる客に駆け寄る。明かりの消えた薄暗い階段を降りて来る男たちは皆屈強で、長い得物から刀と銃を持っている。過去の冒険や戦いを現したように腕や足に刀傷や銃痕の後が沢山着いていた。そして集団の先頭を歩く男が被るパイレーツハットにはジョリーロジャーのマーク

    ーそうコイツらは海賊だ。

    2階から降りてきた男たちはトットと俺を視界に入れると先ほどまでの厳つい表情が嘘のようにパァっと明るくなった


    「トット!ロシーさん‼︎ありがとなぁ!
    アンタらの【魔法】のおかげで助かったぜ‼︎」

    船長の言葉を筆頭に乗り組員から次々と感謝の言葉が送られる。
    元海兵なので海賊に感謝されるこの瞬間がいつまで経っても慣れない…。

    「はは!何言ってんスか?
    アンタらは俺たちの街を沢山修理してくれた!俺は優しい海賊が大好きなんスよ!
    中身も知らねーで海賊ってだけで捕まえちまう海兵の方が間違ってるんス‼︎」

    「はは!トットはいい奴だなぁ!
    俺たちは全員大工だからよぉ
    壊れたモン直したくなっちまっただけさぁ!けど、いいことするとやっぱりいいことが返ってくんだなぁ!」

    「ログポースは貯まったのか?」

    「あぁ、トットたちが海兵から匿ってくれてる間にきっかり貯まった‼︎
    これから出航する。」

    「よかったっス‼︎」

    「気をつけて帰れよ」

    「あぁ、本当に世話になった!」

    そう言って海賊たちは酒場を出て行った。


    かつては海軍に所属していたドンキホーテ・ロシナンテは今現在、この街でトットという男と共に酒場を経営しながらいい海賊…
    いや、義賊を海兵から【魔法】を使って守る城を作ったのだ…




    ートットとの出会いは10年前


    「親のエゴだと思ってくれていい
    …ロシナンテ、お前は何も悪いことはしていない…お前はただ1人の子供の命を救おうとしただけだ…‼︎っだから、…っ逃げてくれロシナンテ‼︎私は…っ、お前をインペルダウンに送ることなんて…っ出来ないッ‼︎」

    「…っセンゴクさっ…うっ、くっ…っ
    今まで…っお世話に、なりじだ…‼︎」

    あの日、ドフィに銃弾を打ち込まれた俺は
    ドフィを追ってきたお鶴さんの部隊に発見され回収された。血がこれ以上出ないようにと俺は体は急遽呼ばれたクザン…青雉の能力で瞬間冷凍されたらしく、その後は世界の天才と呼ばれるドクターメガパンクの技術で蘇生された。
    凍結から目覚めると時代は進み海賊王が処刑されていた。
    脱出のために用意された小舟に乗りながら眠っている間に起きたニュース記事を一枚一枚手に取って読む。
    記事はほとんどが驚くことばかりだった。
    クロコダイル失脚、アラバスタの終戦、嘘つきノーランドは嘘つきではなかった、エニエスロビー襲撃、バスターコール、最悪の世代…だの、俺が眠ってる間に世界は激しく変化を新しい時代へと確実に進んでいる。
    驚くニュースの中で俺が一番驚いたのはあの宝箱の中に置いてきた子供が海賊になっていることだった。

    子供の頃の姿しか知らなかったので悪人顔した男の名前がトラファルガー・ローと知った時は驚きのあまり海に落ちかけた。

    あの時はローの病気を治すために必死だった。ローに生きて、自由になって欲しいって…だけど冷静に考えたらローにオペオペの実を食べさせることは、あの子の人生を奪うに他ならない。
    オペオペの実、人体改造能力、不老不死
    医者なら誰もが喉から手が出るほど欲しい魅惑の実、いや…医者じゃなくても持っているだけで価値の高い実を俺は10代の子供に無理矢理食べさせたんだ…‼︎

    あの小さくまだ弱い体にとてつもなく重い宿命を俺は背負わせて、置いていった…

    「ッロー…っごめんなぁ…っ」

    新聞を持つ手が震えた。
    視界は歪んで記事が何一つ見えない。
    成長して太々しい笑みを浮かべる男の顔にはポタポタと俺の目から溢れ落ちた涙が落ちる

    「ごめんっロォ…っそうだよなぁ
    …お、俺のせいだ…俺がオペオペの実を食べさせたから、あの子は…海賊になるしかなかったんだ…っ!」

    医者である父を尊敬してる。
    コラさんと呼ぶようになり懐いてくれた幼いローが教えてくれたローの夢は俺のせいで
    【死の外科医】になってしまった。
    俺は甘かった。いつかローとこの広い海で再会出来たら、なんて馬鹿で自分勝手なこと考えてた。

    俺が生きていたらローは嬉しい?

    そんなわけねェ…
    ローは俺を恨んでる
    もう二度とコラさんなんて呼ばれない。
    海賊になるしかなかった人生を俺が与えてしまったから…

    「…ロー」

    自分勝手な自分が心底嫌になった
    俺は結局、ローを救えなかったんだ…


    その時、海上に強い風が拭いた
    持ってきたニュース記事は強風に全て吹き飛ばされる。取り戻す気力も帆を畳むという考えもなく、小舟は大きく揺れて…


    そのまま転覆した…。





    ◾️



    「おにーさん大丈夫っスか?」

    「…ん…?」

    明るい子供の声が聞こえて目を開けた。
    覚醒してすぐに視界はよくならなくて、目を擦りパチパチさせると視界いっぱいに知らない男の子の顔が映る。
    あまりの近さにうわぁっと驚き後ろにひっくり返ると男の子はゲラゲラ笑って大丈夫ッスかぁ?と小さな手を差し伸べ
    歳は、幼い頃のローと同い年か?
    遠慮がちに小さな手を握ると、子供にしてはゴツゴツした掌をしていた。職人の手ってやつだな、この子供は何か仕事をしてる
    起き上がり周りを見渡すとそこは浜辺だった
    どうやら強風によって命からがらこの浜辺に流されたようだ。

    …本当はあのまま海の中で死んでしまえばよかったのに…

    「おにーさん目、スゲェキレーっス‼︎」

    「わっ、な、なんだよ…いきなり触んなっ」

    暗い思考を吹き飛ばすように男の子は砂の着いた柔らかいブロンズの髪をかき分け俺の顔をジッと覗き込んだ。

    この子供初対面なのに、なんか…ちょっと馴れ馴れし過ぎねぇか⁉︎

    こちとらちょっと、というか
    スゲェ傷心中なんだけど⁉︎

    「おにーさんは海から来たんスか?」

    「え?海からっていうか、強風で小舟が転覆しちまったんだ。」

    「転覆⁉︎よく生きてこの街まで流れ着いたッスね!奇跡っスよ⁉︎」

    「奇跡って…ん?街⁇」

    「ここはサンクリットタウンの浜辺ッス!
    そんでもって俺はトット‼︎
    こう見えて酒場の店長やってるっス‼︎」

    「酒場の店長⁉︎その歳でか⁉︎」

    ありえねぇ、どう見てもトットは10代
    ローと同い年か、下か?くらいの年齢の子供が酒場の店長⁉︎

    「酒を飲むのは客だけなんで
    大丈夫っスよ!」

    「いや大丈夫じゃないだろ⁉︎
    アウトだよ!アウト‼︎‼︎」

    「おにーさん初対面なのに煩いっスね」

    「テメェは初対面なのに馴れ馴れし過ぎんだよ‼︎」

    ーとまぁ、トットとの出会いはこんな感じだ。

    海兵にも海賊にもローに会う資格も無い
    つまり行く場所の無い俺に新しい居場所を与えてくれたのがトットだった。
    トットの酒問題は俺がトットの店で働くことで解決、俺だけじゃなく街の人たちも子供が働く酒場を心配していたらしい
    ありがとうって何故か感謝された。
    トットの酒場はトットの親父さんが元々経営していたらしいが近年親父さんが他界
    街の憩いの場となっていた酒場を引き継いだのがトットだったらしい。
    酒場だけじゃない街の人に愛されていたトットの店は街の人に手伝って貰いながら経営してたとのこと…

    「あ!そう言えば今更なんスけど
    おにーさんの名前なんていうんスか?」

    「この酒場で働いて半年経った俺に今更それ聞くの?え?遅くない⁇」

    いや、言わない俺も悪かったけどさ?
    酒場の仕事って仕入れとか調理、掃除
    他にも覚えること沢山で余裕がなかったのは事実だ。この半年間全部「おにーさん」で会話がちゃんと成立してる俺らもスゲェけど…

    「名前か、名前はー」

    ドンキホーテ・ロシナンテ

    コラソン

    コラさん

    頭の中に浮かぶ名前がどれもしっくり来ない。
    自分の名前なのに、口に出してはいけないと思ってしまった…

    だってドンキホーテ・ロシナンテも

    コラソンも…

    コラさんもあの冬島で
    一度死んでしまったから…

    「おにーさん?」

    トットが俺の返事を待っている

    震える唇で必死に作り出した名前はー

    「…トット、自己紹介が遅れて悪かったな

    ロシーだ。俺はただの、ロシー」


    死んだ俺の新しい名前は
    【ロシー】となった




    ◾️


    「ロシーさん悪魔の実の能力者
    だったんスか⁉︎」

    「え?あ、うん」

    酒場の仕事も慣れてきた頃、酒瓶の入った木箱を運んでいたら蓋がちゃんと閉まってしなかったのか大量の酒瓶が箱から溢れ落ちた。
    10本も酒瓶が落ちた時の音は想像しなくても凄まじい音だと容易に想像出来た俺は慌ててサイレントを使ったんだ。
    その場面をトットに見られていた。
    まぁ、特に隠すようなことじゃないからナギナギの実の能力、技をトットに教えてやれば何故かトットはソレに凄く喜び飛び跳ねていた。

    「ロシーさんマジで最高っス‼︎
    ロシーさんがいれば俺の魔法は最強になるっス〜‼︎」

    「魔法?」

    「はいっス‼︎このサンクリットタウンは海賊たちが必ず立ち寄る街なんス‼︎
    この街は離れ小島でこの街で食糧を調達しないと次の島まで食糧が保たないらしいっス!」

    「へぇ、そうだったのか」

    確かにこの街はよく海賊がやって来る。
    そしてサンクリットタウンは新世界のど真ん中にある島だ、この街に来る海賊たちは新世界を生き抜いた男たちばかりで街人を襲ったり略奪をする者は少ない…まぁ、たまにそう言った海賊もいるが、そんな海賊たちはサンクリットから少し離れた島にある海軍本部から海兵がやって来てすぐにインペルダウン送りとなる。
    そう、このサンクリットの近くには海兵駐屯所が設立されており、海賊たちが大人しいのも海兵に捕まりたくないためだ。
    サンクリットにはその海軍本部の密偵部隊も潜んでおり、海賊が街に上陸すると情報が駐屯所に報告されるようになっている。
    まぁ、コレは元諜報員である俺だからわかったことで街の人たちはスパイの存在に気づいていない。
    だからトットの言う【魔法】も海兵にしてみれば大きな犯罪となるのだ…

    トットも俺と同じ悪魔の実の能力者だった。

    【カミカミの実】
    触れた物を姿形関係なく紙にすることが出来る。

    「この街は少し前まで海賊に支配されてたんス。だけどある日、この街に【赤髪の海賊団】が来てくれて街を救ってくれたんス!
    今まで俺、海賊が大嫌いだったけどシャンクスは俺の知ってる海賊と全然違って優しかったんス!シャンクスは俺の街を救ってくれたのに…すぐに海兵が来てシャンクスは食糧も持たないで行っちゃたんス…

    俺はシャンクスと出会って海賊にもいい奴らがいるって知ったんス…だからシャンクスみたいに優しい海賊がこの街に来たなら助けてあげたいって思って考えたのが海賊を守る魔法なんス‼︎」

    「だからその魔法ってなんなんだよ?」

    「この魔法種明かししたら魔法にならないんスけどぉ…まぁ、これからはロシーさんも手伝って貰う予定なんで特別に教えてあげるっス‼︎

    ちょっと耳貸して下さいッス」

    言われて背を屈めてやれば
    トットが俺の耳に魔法の仕掛けを囁いた

    「…と、言う感じに海兵から海賊を守ってたんス!だけど、この魔法には欠点があって…」

    「なるほどなぁ、それで俺のナギナギか…
    確かにお前の能力に俺の能力がプラスされれば海兵たちが海賊を見つけんのは【不可能】だろうな」

    トットから聞いた魔法
    それはー



    「海賊の皆さん早くこの中に 
    入って下さいっス‼︎」

    酒場の2階は宿になっており、トットは3つ並ぶ扉の一つ、真ん中の扉に海賊たちを押し込んだ。部屋の中は以外にも広く30人は入る。トットが魔法の部屋に入れるのはトットがいい海賊だと認定した海賊だけだ。
    今回トットの連れて来た海賊は滞在中に嵐で壊れたままになっていた隣町の建物を無償で修理してくれた気前のいい変わった海賊団だった。よく酒場にも来ていたし、俺も船長の男と世間話をしていたが、奴らは海賊なのに殺生をしたことが無い珍しい海賊だった。
    しかし、新世界を生きて来ただけあって彼にはしっかりと賞金がかけられていた。

    「トット…ほ、本当に海兵の手から逃れることなんて出来るのか?」

    この海賊団の船長が不安そうにトットの方を振り返る。もう既に何人かのクルーが海兵に捕まっているようで100人いたクルーは半分に減っていた。

    「大丈夫っス!俺を信じて下さいっス!」

    不安そうな船長の背を押すと真ん中の扉を閉める。海賊たちには部屋に入ったあとのルールを教えているから出て来ることは無い。
    少しの間だけ海兵たちの声が沢山聞こえて不安になるかもしれないが…

    「…【カーム】」

    真ん中の扉に手を翳して中の音を消す
    俺の能力を使えば中からの響く音は海兵に聞こえることはない。

    「【カミカミ!】」

    トットが音の消えた扉に触れると扉は真っ白な紙になった。トットは慣れた手つきで扉だった紙をパタパタと折るとソレをポケットに突っ込んだ。
    カミカミの能力が発動してる間は紙の中身の空間は広さ形が変わることなく存在している。
    ペラペラになった紙には海賊たちがいるのだ。真ん中だけ綺麗に無くなった壁にアンティークのテーブル、花瓶を置けば3つあった部屋は2つだけになる。
    花瓶を設置したタイミングで一階の方から騒がしい声、足音が聞こえて来た。

    海兵が来たんだ。

    しかし、海賊たちがいるのはトットのポケットの中、酒場を隈無く探しても、2つの部屋を10人掛かりで探しても海賊たちは見つからないし、紙から怯えた海賊たちの声が聞かれることもない…

    まさしく海賊たちは
    魔法のように消えたのだ…

    魔法をかけてる間は能力をずっと維持しなければならないので俺もトットも海兵が海賊探しをしてる間ずっと2人とも死んだような目でおにぎりを食っていた。
    梅干しとシーチキンマヨのおにぎりを3つずつ食べ終わってそろそろデザートでも食べようかなぁと思ったところで海賊捜索を諦めた海兵たちが2階から降りて来る。
    疑惑の表情を浮かべたまま海兵たちが酒場から去って行くのがもはや恒例となりつつあった。
    海賊の目撃情報、状況からして酒場に海賊たちがいるのは確実なのに海兵たちはいつも海賊を見つけることが出来ない。
    「お疲れ様でしたっス〜」と言ってトットがニコニコ笑顔で疲れた表情の海兵を見送る

    「ロシーさん今回も大成功だったスね!」 

    「そうだな!」

    イェーイと2人でハイタッチをした。
    今日で10組目の海賊を海兵から隠すことに成功したのだ。
    しかし、油断は出来ない。
    酒場近くに海兵たちの気配がある限りは俺たちは店の中で他愛も無い話をした。
    朝になって海兵たちの気配が消えるとトットはポケットの中の紙を広げて元の位置に戻して能力を解除する。
    クシャクシャの紙は新品のようにシワなく広がり、その真ん中に扉が出現した。
    俺も扉に手を翳して能力を解除、すると扉の中からは海賊たちのイビキが聞こえてきてトットと2人顔を合わせて笑った。
    どうやらまだ起こさなくても良さそうだ

    「ロシーさん今更ながらで申し訳ないんスけど
    本当に俺に協力して良かったんスか?
    だってロシーさん海兵なのに…」

    海賊たちを見送った後の賄い飯の時間
    再びトットの脈絡の無い質問が飛んでくる。
    トットが俺のドジに慣れたように俺もトットの脈絡の無い質問にはだいぶ慣れた。

    「元な…俺はもう海兵でも、海賊でもねぇ…ただのロシーだ。ただのロシーは何やってもいいんだよ、気にしねぇ…。
    それにトットの考えは間違ってねぇって思ってんだよ」

    「俺の?」

    「あぁ、実は海兵時代の頃からいい海賊ってのはいたんだ。トットの言うようにソイツらも海賊ってだけで殺されたり、捕まってたよ…」

    自由な海賊だから出来ることは沢山ある
    海兵は上が腐っていたら海賊だけじゃなく街の人たちまで傷つけられることもあった。
    力無く泣く泣く見逃して、助けることが出来なかった街も沢山あった…それでも俺には海兵で生きる道しかなかった。
    恩人のセンゴクさんのために海兵として全てを捧げるつもりだったんだ…

    「……」

    あの時だけだ…あの時に初めて【違う未来】を望んでしまった。

    不安がる子供を励ますための言葉だったとしても、俺は…あの子と一緒に旅をしたかった。
    あの言葉には真実と嘘が混じったいる
    俺が海兵だと知りながら、海兵じゃないという言葉を信じた【フリ】をしてくれた優しい子供でも気づかなかった俺の真実だ…

    「…それに、もしローが…ローの海賊団がこの街に来た時に…助けることが出来るなら…」

    「ロシーさん?」

    「…いや、また自分勝手なこと考えちまったなって…許して貰おうなんて、都合良すぎだって、自分が嫌になるよ……」

    「…」

    「早く前髪伸びるといいなぁ…」

    「…そうスね」






    朝、目覚めると視界は真っ暗だった。

    「ん〜?…ん?えっ?あ?へ⁇」

    パニックになった俺はベットから落下、その物音で起きたトットが「ロシーさん大丈夫スか⁉︎」とやって来るも、見えない状態で伸ばした手はトットのズボンを掴みそのままパンツごとズリ下げた…

    あれ?デジャブだな…

    「ロシーさん前髪いい感じに
    伸びたっスね!」

    「あぁ、この感じこの視界、懐かしいぜ!」

    どうやら前髪が目標の長さまで伸びたようで、俺の赤い目はブロンドのカーテンが綺麗に隠してくれている。
    最初は慣れない視界も子供の頃のことを思い出せば、すぐに慣れた。
    今では普通に歩けるし接客も掃除も出来る。
    常連客からもこの髪型は高評でロシーさん前より可愛いくなったねと言われ頭を撫でられる。
    2メートル超えの男に可愛いってなんか変じゃねぇ?

    「ロシーさん、なんか港の方が騒がしいみたいっスよ?海賊でも来たんスかね?」

    出会った頃より成長した二十歳になったトットがウキウキした表情で酒場に入って来る。
    俺はその時、市長の昼飯のステーキプレートを作り終えたばかりで足りない野菜を買い足して帰って来たトットを出迎える。


    「トット、騒がしいから海賊とは
    限らなーっ⁉︎」

    言葉が途中で止まった。

    街全体を、突然、何か得体の知れないモノが包み込んでいる。日常生活では感じることの無い違和感に鳥肌が立った。
    トットもその違和感に気づいたようで短い髪が猫が警戒するように逆立っている。



    ーカツン…と俺の隣を白い何かが通った



    端正な顔立ちに白いモコモコに黒の斑点模様の帽子、身の丈以上の長い刀に黒色のフード付きのロングコートを着た男は…

    ーいや、ハートの海賊団 船長
    トラファルガー・ローは気配も無く酒場に現れ迷い無く市長が座る席に進んでいく。

    「アンタがこの街の市長か?」

    変声期を終えた低く吐息混じりの男の声が
    薄暗い酒場に静かに響いた…


    「…ろぉー」

    「…」

    呟きに近い俺の声を背を向けていた男は正しく聞き取ったようで、ローは不機嫌そうに顔だけコチラに向けるもすぐに興味を無くしたように市長の方に顔を戻して何か話をしている。
    どうやら前髪を伸ばしたおかげでローは俺がコラさんだと気づいていないようだ。
    気づいて貰えなかったことに少しショックを受けつつも、これは幸いと酒場の外に出る。
    するとそこには揃いのツナギを着たクマとペンギン、シャチの帽子を被った男たちがいた。
    その団体にあの船長ジャンパールもいることには驚いた。
    3人のうちのシャチの帽子を被ったサングラスの男が俺を見るなり「うわっ、アンタデカイな⁉︎」と言って驚く。そのシャチの声でペンギンとクマとジャンパールの目が俺に向けられた。
    恐らくローの仲間だろう、それにしても意外だった。ローならもっとクールな感じの海賊団を作っていると思っていたのに、ローの仲間たちは元気で人懐っこい可愛い奴らだった。
    キャプテンまだかなぁ〜って言ってるクマなんてスゲェ可愛いし、ペンギンとシャチの帽子も可愛い。なんだかローの友達に会った感覚になってしまって、俺は急いで酒場に戻ると作り置きしてある炭火焼き肉の入った酒場でも大人気のおにぎりをローとクルー人数分持ってペンギン帽子に手渡した。

    「うわっ、スゲェうまそー!」

    「えっ、コレ貰っていいのか?」

    「あぁ、今日なんかスゲェ暇で賄い飯にするにしたって2人しかいねぇし食材余っちまうからさ、食ってくれるとありがてぇ」

    「…わかった、それなら遠慮なく頂くよ」

    「会ったばっかの海賊にアンタ随分優しいんだなぁ」

    「この街はよく海賊が来るからな
    今更どの海賊が来たってビビらねぇよ!」

    「四皇でもビビらねぇとかスゲーな!」

    「ははっ!なるほどなぁ、でも本当コレ
    マジで美味そうだなぁ、早く食べてぇ〜」

    「?早く食べればいいじゃねぇか」

    後ろのクマなんて涎の量がハンパないぞ?
    首を傾げて聞けばペンギン帽子が困ったように笑った。

    「知らない人からモノ貰ったら
    キャプテンがチェックしない限り俺たちは食べちゃダメなんだぁ」

    涎を垂らしもうすぐに限界が来て今にもおにぎりに齧り付きそうなクマが答える。

    「なるほどな、お前らのキャプテンはクルーを大切にしてるんだなぁ…でもちょっと過保護過ぎー」







    「ー俺のクルーに餌付けするとは
    いい度胸してんな?」

    「⁉︎」

    後ろから髪の毛を引っ張られ耳元に低い声が吹き込まれる。
    俺はそのままの勢いで後ろにすっ転んだ

    「うわっ、アンタ大丈夫か?」

    「だ、大丈夫…」

    「あ、キャプテンお帰り〜」

    「「お帰りなさ〜いキャプテン♡」」

    あ、俺のことは誰も起こしてくれないのね…

    ローが現れると全員がローに駆け寄って、ローに向けて沢山のハートを飛ばしている。
    それだけでローのクルーがローを信頼して大切にしてるのだとわかった。

    「ただいまベポ。…ペンギン、ソレは?」

    「酒場の人から貰いました
    俺らとキャプテンの分です」

    「…おにぎり?
    ……【スキャン】」

    「⁉︎」

    おにぎりが入った箱にローが手を翳して能力を発動する。恐らく俺が食べさせたオペオペの実の能力の一つなのだろう…

    オペオペの実…
    それは俺がローに背負わせた業…

    「…カーム」

    ローの姿を見ているのが辛くて、俺は口元で小さく技を唱えるとローたちの側から音を消して離れて行った。




    「…このおにぎりは食っても問題ねェ」

    「食べていいのっ⁉︎」

    「あぁ」

    「ヤッタァー!いただきまーす!
    うまぁあーい!」

    「俺も腹減ったぁ!ジャンパール! 
    お前も食えよ!」

    「あぁ、頂こう………ん⁇
    …しゃ、シャチ、ペンギン、ベポ、キャプテン……あの男は…さっきまでそこにいた男は一体どこに…?」

    ジャンパールが困惑した表情でキャプテンの後ろを指差した。
    一番最初にキャプテンが後ろを振り返り驚きの表情を浮かべる。

    キャプテンが引っ張り倒した男は音も無く消えていた…

    「えっ?あれ⁉︎おかしいな…
    さっきまでそこに伸びてたけど…」

    「俺も気づかなかった…
    誰か見てないのか?キャプテンは」

    「………いや、俺も気づかなかった」

    「すまない、俺も何も気づかなかった
    ベポ、何か聞こえたか?」

    「もぐもぐ…ん〜…今のところ声どころか足音を聞こえないよ!」

    「……」

    「…」

    「…」

    「…」

    「ねぇ、キャプテンもみんなも早く食べないの?おにぎりはあったかいうちに食べなきゃダメだよ‼︎」

    「…………」

    場違いに明るいベポの声が消えた男に対する違和感を加速させるだけだった…。



    酒場のロシーさん2に続く

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