これは僕が小学生の頃のお話です
僕は毎年夏にやるホラー番組、所謂心霊番組が大好きで、次の日に同じホラー好きの友達とテレビを見た感想を言うのが好きでした。
僕の地元には赤い女の幽霊が出ると噂の洋館があって、心霊番組を見ているうちに僕は自分の目で幽霊を見たいと思うようになりました。
それは僕の友人も同じで、夏の終わりの思い出作りとして今夜友達と一緒にあの洋館に行くことに決めました。
しかし、流石に2人だけでは心細いのでクラスメイトの何人かを誘うことに決めました。
僕らはクラスで目立つタイプじゃない、所謂陰キャというやつで、人数集めに苦労しました。意外と僕たちと同じように心霊番組好き、ホラー話が好きな人がいたので10人くらいは集まった思います。
洋館は広いし10人もいるのは心強いと思いましたが、参加者の1人が友達も連れて行きたいと″Tくん″を連れてきたのです。
Tくんはクラスの中で一番のビビりで女の子たちが怖い話をするだけで「集まってきちゃからやめなよ」とバカ真面目に注意をするような生徒でした。
自己紹介の時に将来はお笑い芸人になりたいと言っていたのにギャグは滑るし面白くない
オマケにホラー苦手という要素もプラスされて僕からしてみても、Tくんはお笑い芸人に向いてないなと思いました。
心霊スポットに行く当日に周りのみんながキャキャとはしゃぐ中で1人顔色の悪いTくん。あまりにも酷い表情だったので僕は少しだけ心配になった大丈夫?とTくんに声をかけました。
するとTくんは″おかしなこと″を言ったのです
「怖くはないよ。
心霊スポットの幽霊が可哀想だなって
おれの友達がね、ケンジャクが嫉妬深くて
幽霊でもじゅれーでも近づいてきたら
食べちゃうんだ。」
この時の僕はTくんの恐怖心が限界超えちゃって頭おかしくなったんだって思ってた。
参加者が全員集まって洋館に入る
洋館の中は雰囲気たっぷりで、いかにも心霊スポットって感じがして最初はワクワクしてたんだ。
だけど、歩いて数分で違和感に気づいた
明らかに足音が多い、微かだけど沢山の人の話声が聞こえてきて、みんな口には出してないけど″ヤバい″って思ってたよ。
顔色は真っ青で懐中電灯を持つ手は震えていた。本当は早くこんなとこ早く出て行きたいのに、誰も弱音吐かないなら逃げる口実が出来なかった。唯一平気な顔して歩いてるのはTくんだけで、俺はそれが不気味で怖かった。
僕を先頭に二階に続く階段に足をかけた時に二階の踊り場に赤い服を着た女の姿がハッキリ見えたんだ。みんなパニックになって地方八方に散らばった、僕も夢中で走って逃げた。そしたら前を走っていたTくんが僕くんコッチ!って呼ぶから開いてる部屋のクローゼットの中に2人で隠れた。
ガクガク震える僕をTくんは大丈夫だよ大丈夫って優しく声をかけてくれて、でも僕は安心なんて出来なかったんだ。
だって僕たちを追いかけてきた女の笑い声が部屋中に今も響いてるから、怖くて声が出なかった、たぶん漏らしてたと思う。
女の声はどんどんクローゼットに近づいていた。もう死ぬって思ったし、心霊スポットなんていかなきゃ良かったって死ぬほど後悔したよ、祈る気持ちで必死に声を抑えていたら
「ギャァアァアァアッッ」って女の悲鳴が聞こえてきた。次にグチャグチャっていう何かを咀嚼する水音が聞こえてきて、見えてないけどドタバタと悲鳴を上げて女が部屋をのたうち回る音が聞こえてた。
体は怖くて震えてるのに、頭は妙に冷静で
この時、僕の頭の中にはTくんの言葉がずっとぐるぐる回っていたんだ。
【おれの友達がね
ケンジャクが嫉妬深くて
幽霊でもじゅれーでも近づいてきたら
食べちゃうんだ】
それから何分経ったのかわからないけど、女の悲鳴はピタッと消えて…ひたひた…って素足で歩くような足音が聞こえてきて、その足音はクローゼットの手前で止まった。
ギィって錆びれた扉の開く音がして、目の前に見えたのはお坊さんのような服…
だけど、そのお坊さんには
顔がなかったんだ…
「ナ ン 陀、任 外ン 架」
あの後、気を失った僕は洋館の外にいた
他のメンバーも僕より先に洋館から出ていたみたいで、心霊スポットがトラウマになった僕はあの日から一切心霊番組を見なくなった。
それからTくんは突然転校しちゃったんだ
修学旅行中に突然消えた時はビックリしたし
心配もしたけど、学校側からはTくんは見つかりましたって話しかなくて、修学旅行中Tくんが僕たちの班に戻ってくることはなかった。修学旅行が終わって帰ってきた時に朝のHRでTくんが転校したことを知った。
東京だって、凄いよね、羨ましいって思ったけど…僕はTくんの転校はきっとTくんの友達が関係しているんじゃないかって今でも思っているよ…
おわり