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    シニア級1年目のジャスゴルがドロワで踊る話

    君の隣は譲りたくない/用語解説/
    デート…いわゆるパートナーの意味。
    重賞……G3〜G1までのレースの総称。一応G3を勝利したウマ娘もG1を勝利したウマ娘も同じく重賞ウマ娘の括りには入る。後者はG1ウマ娘と呼ばれることが多いが。
    クラシック/ティアラ……ウマ娘の競技人生で1度しか挑戦できない3つのレースの総称。





    リーニュ・ドロワット……略してドロワ。毎年の年度終わりに行われるダンスパーティーに僕は誘われた。誰もいない教室で、私のデートになってくださいませんか__なんて、そんなロマンチックな誘いではなくて。親友のゴールドシップと釣りをしている最中、そういや次のドロワ、参加するならアタシらでペア組まね?なんて軽いものだった。
    交友関係が広い彼女には僕の他に誘える人も居ただろうし、誘われる側としても大人気だっただろうに。
    だから僕としては、シップに選ばれたことにちょっぴり浮かれた気分で居たのだ。慣れないドレスを身に纏って会場の角でデートを待っていると、僕の横をドレスを着たウマ娘が悲しそうな顔で通り過ぎていった。彼女は友人に励まされているようで、会話がこちらにも聞こえてくる。盗み聞きは悪いとは思いつつも、ついつい耳を傾けてしまった。
    「お疲れ、……やっぱダメだったんだ?」
    「うんー……ゴールドシップ先輩、やっぱりもうデートが居るってぇ……あーあ、やっぱりジェンティル先輩と踊るのかなー」
    「トリプルティアラのジェンティル先輩と二冠のゴールドシップ先輩かぁ……映えるだろうね〜!」
    「もしくはダービーウマ娘のブリランテちゃんとか?やっぱりクラシックを一緒に駆け抜けた相棒同士ってのもよくない!?」
    「あはは、それもいいね……やっぱり、オープンウマ娘の私達じゃ……ジェンティル先輩とかブリランテちゃんとは違って……ゴールドシップ先輩とは釣り合わないよね」
    そのウマ娘が呟いた言葉は、僕の心に深く突き刺さった。僕が持つ重賞勝利の功績はもちろん胸を張って誇れるものだ。G1に出走できただけでも上積みの一部ということはわかっている。……けれど。
    シップは多くの……そしてほぼ全トレセン生徒が夢見るクラシックの冠を2つ、そして年末のグランプリである有マ記念も制したウマ娘。普段の奇行からその実績を結びつけづらいだけで、もう立派な名バなのだ。
    そんな彼女と僕は、とても釣り合うとは言えないだろう。片やG1を3勝、片や重賞制覇止まりだなんて。
    そう思うと急に自分が情けなくなってきて、ドレスの裾を握りしめる。今からでも辞退しようかと思っていると、視界の端に見慣れた美しい銀色が見えた。
    「あ、……」
    彼女の隣を誰かに譲らなければという気持ちと、譲りたくないという気持ちがぶつかって声が出ない。僕の視線に気づいたのか、シップはドレスを翻してこちらに駆け寄ってきた。
    「居た居た!そのドレスすげー似合ってんな、ジャス。和柄なのは勝負服と合わせたのか?」
    「実はこれ、お母さんが海外のパーティに参加した時に着た服を貸して貰ったんだ。似合ってるなら嬉しいな。……シップも、ドレスを完璧に着こなして自分のものにしてるね」
    「そりゃあゴルシちゃんだからな、今日はデュ・バリー夫人もビックリな社交の華になってやるぜ!」
    その言葉はあながち間違いじゃないと思う。少なくとも僕の目から見て、この場で一番輝いているのはシップだから。
    彼女なら公妾どころか、そのまま王妃にまで上り詰めてしまいそうだけれど。
    「ね、シップ。あのさ……」
    相手を僕以外にした方が、と提案しようとしたその時。
    『まもなく、ペアダンスの時間です__参加者の皆様はホールの中央へお集まりください__』
    「お、そろそろ始まるみてーだな。いくぞジャス!」
    「っ……うん」

    ……ダンスの出来は散々だった。先ほどのウマ娘達の会話がフラッシュバックして、僕がステップを何度も間違えかけたからだ。その度に自然と入ったシップのリードがなければ形にすらならなかっただろうし、なんなら転んでいたかもしれない。
    結局シップには体調が悪いのかと心配されて、外に連れ出された。
    ひとたび会場を抜けると、春に入ったとはいえ少しだけひんやりとした風が頬を撫でる。
    「で、どうしたんだよジャス。踊るのが嫌になったんならアタシはもう部屋に戻ってもいいけど」
    「そんな、僕のことは気にしないでよ。他の誰かと踊ってくればいいのに」
    「オマエの看病は誰がやるんだよ?マジで体調が悪いんなら早く更衣室に__」
    「や、ほんとに何でもないんだ。看病はしなくていいからさ……。その代わりひとつだけ聞かせてほしいんだ」
    ざあっと強い風が吹いて、僕たちのドレスと髪を揺らす。
    「ドロワの相手に、どうして僕を選んだの?」
    その質問をした僕の表情は、たぶん酷いものだったのだろう。シップは、はぁーっと大きく息を吐いて僕のおでこを指先で突いた。
    「うぁっ」
    「ったくよぉ〜……ジャスのことだから、どーせ自分より他の奴選んだ方が〜とかなんてつまんねーこと考えてんだろうけど」
    「ば、バレてる……」
    「顔に書いてあるんだよ。で、答えだけどな。
    ……フジが言ってたんだ、ドロワの相手はその1年を象徴する奴を選ぶことが多い、ってさ」
    「それで僕を?……でも、それならやっぱり、上の世代で戦ったフラッシュさんや年度代表ウマ娘のドンナとかの方が良いんじゃ……」
    「ターフの上で、って意味ならその通りだけどよ。フジは一言もターフの上に限った話だとは言ってないだろ?」
    「……そうだね」
    「メイクデビューして、重賞勝って……その後もレースで勝つたびに真っ先に祝ってくれたのはいつもジャスだった。オマエが重賞勝った時だって一緒にデカいパーティしたし、一緒に走ったダービーだって最高のレースだった。
    ……誰よりも長い時間を一緒に過ごした奴を、アタシの1年の象徴だって思って選んだんだよ」
    「シップ……」
    「軽いノリで誘ったアタシも悪かったし、仕切り直しといこうじゃねえか。
    ……どうか今宵、私のデートになってはくれませんか」
    「……っ!はい、喜んで……!」
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