サロンオクジー彼の後ろで立ちっぱなしでいたからか、バデーニさんが資料を手に取るついでに少しだけ振り返った。
「すまない、いま手が離せない」
「あぁ、いえ。そのままで」
そう言ってカタカタと動きを止めない彼の右側に立ち、ちゅ、と彼の白くて柔い頬にキスを落とした。
「ただいま、バデーニさん」
「おかえり」
カタカタとキーボードを打つ手はそのままに、チラリと自分を見て微笑んでくれた。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
今日の夕飯は昨日の残り物を使った簡単メニューの予定。だからいつもより時間に余裕がある。
――よし、と最後のペットボトルを回収して立ち上がった。
「バデーニさん、キリのいいところで声掛けてください」
「なぜ」
「髪、切りましょう。久しぶりに」
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
不安げに揺れる瞳を、見逃さなかった。
やっぱり髪切って良かった。貴方の感情を見逃さずに済む。
「いいえ。俺だって信用してる人にしか触られたくないです。」
当たり前のことを伝えれば、一転、今度は楽しそうに瞳が笑った。
「ふうん。……たとえば?」
――あぁ、可愛い。愛おしい。聡明な知性を持つ貴方なら、聞かなくても分かるでしょう?
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆