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    origotofu

    @origotofu

    ティカクロ固定 西が好き

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    origotofu

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    どうしても新刊を2冊出したい
    私が楽しいだけのヤマもないオチもない意味もない現パロを書いてる フォルモーント学園卒業後時空
    推敲はなんにもしてない

    #ティカクロ
    tikakuro

     手のひらを打ち付けた衝撃と、ガタン! と響いた派手な物音で飛び起きた。
     衝撃も物音も、どちらも発したのは自分だった。
    「うわ……寝てた……」
     デスクの上を呆然と見つめながら俺は呟いた。手元には皺になった企画書と、デザイン案を描きかけのまま放り出したタブレット。
     周りには既に誰もいなくなっていた。スリープモードのタブレットの電源ボタンを押すと、「22:36」の文字が明るく浮かび上がる。
     苦笑してしまった。健全な私生活を送りたいならオフィスにいていいような時間じゃない。こんな日々もそろそろいい加減にしないと、いくら若くても体がもたないだろう。
     身の周りを適当に片付けて俺は立ち上がった。デスクに齧り付きで酷使した腰がずしんと重たかった。
     高校を卒業してから、俺は大手のデザイン会社に就職した。衣装制作がメインの企業だが、スタイリングやへアメイクが専門のスタッフも多く在籍していて、幅広く芸能人やファッションモデルのプロデュースを手掛けている。
     俺がデザイナーとしてここで働き始めて、もう二年以上になる。一年目は仕事を覚えるのに必死で風のように時が過ぎ、二年目からは俺がメインで担当を任せられる案件も増え始めた。
     アイドルのメジャーデビューや人気タイトルの舞台化が重なる時期は当然ながら納期に追われる。ここ最近の多忙もそのためだった。
     こだわりを捨てられない気質、そして、夢中になると時間を忘れてしまう気質。興に乗ったら途中で手を止めることができなくなるのだ。その瞬間を逃せば、次の日にもっと良いアイデアが浮かぶ保証は無いから。そして、自分のそういうところが、こんな余裕の無い日々に拍車をかけていることもわかっていた。
     この忙しさも一時的なものだし、仕事は楽しい。好きなことを仕事にできているのは幸せなことだと思う。けれど、犠牲にしているものだってそれなりだ。
     スマホを見るとメッセージ通知が来ていた。届いたのは一時間ほど前。
     表示されている名前に頬が緩む。俺はメッセージアプリを開いた。短い文が立て続けに三つ送られてきていた。
    『おつかれさた』
    『おつかれさま』
    『クロエはどっちがいいと思う?』
    「……ぷっ。かわいい」 
     添付されている写真に思わず噴き出してしまった。それはオンラインショップのスクリーンショットで、載っているのは小さなイラスト付きのタンブラーだった。
     一枚目は、丸いもこもこの羊と犬ともアザラシともつかない謎の愛らしい動物がお尻をくっつけてぺたりと伏せている絵柄。二枚目は、ぬいぐるみのような黒猫と極彩色の小鳥が向かい合ってお辞儀をしている絵柄だ。ゆるいワンポイントのイラストは、シンプルなステンレスボトルに意外なお洒落さを添えている。
    (よく見つけたなあ、こんなの)
     普段は洗練されたデザインの私服や小物を身に着けている彼だが、たまにこういう意外な趣向を好む時がある。すらっとした美青年が愛らしいタンブラーを使っているところを想像すると自然と口元が緩んだ。
    『どっちもかわいいけど、あえて言うなら二枚目?』
     返信すると、すぐに既読マークが付いた。
    『僕もそう思ってた!』
     その返信とサムズアップしている犬のスタンプを見たら、胸が詰まった。
     犠牲にしているもの。プライベート。恋人との時間。
    「……会いたい…………」
     やばい。限界だ。
     ラスティカは、幼馴染であり恋人だ。幼い頃からずっと一緒にいるので、特別な関係になった実感は今でもあまりない。けれど、昔からいちばん大好きで、いちばん傍にいるからこそ、いずれ今の関係になるのは自然なことだったと思う。
     お互いに社会に出てからは、当然ながら学生時代のように会いたい時に会って遊びたい時に遊んで、とはいかなくなった。それこそ俺は時期によってはこんな感じだし、ラスティカも仕事で打ち合わせに出かけっぱなしだったり、家に缶詰状態だったりする時がある。子どもの頃から作曲家としてのキャリアを積んでいるラスティカは、今では若くしてすっかりその名を音楽業界に轟かせ、作曲依頼が年中絶えず舞い込んでいる。だから、たとえ俺の繁忙期が明けてもラスティカの仕事が大詰めを迎え……という具合にすれ違うことは少なくなかった。
     休日もなかなか合わず、もうかれこれ二カ月くらい会えていない。ほぼ毎日メッセージを送り合ってはいても、やっぱり生身の彼に焦がれてしまう。
     顔が見たい。話したい。触りたい。
     こんなんじゃいつ愛想を尽かされたっておかしくない。優しすぎるくらい優しいラスティカはそんなことしないかもしれないけど……。
     ようやくオフィスを出て、俺は駅へ向かって歩き出した。のどかな春を迎えても、頬に当たる夜風はまだ少し冷たかった。
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