鬼が壊した人形――本日はお忙しい中、お時間を作っていただき、ありがとうございます。
――私もそんなに暇ではない。手短にな。…本当は、そなたと話すことだって嫌なのだ。…だが、そなたらの技術に助けられた恩もある。今回ばかりは仕方なく、だぞ。
――あなた方が我々人間を嫌っていることは承知しています。ですので、その上で今日お会いできたことが誠に光栄です。…では、今からインタビューを行います。私の質問に答えてください。
――うむ。
――我々が提供したとされる人形は、世界に四体しか居ない、ドール型・ミリタリータイプとお聞きしました。改めて、説明をお願いします。
――みりたりー…横文字か。紛らわしい。軍用と呼べ。戦闘において技術を磨いた、言わば殺戮兵器だ。人間を滅ぼす為のな。今こやつが戦闘態勢に入らなければ、そなたもすぐに破壊出来たのにな。
――恐縮です。情報通りですね、ありがとうございます。…すぐ戦闘態勢へと命令を下すことは可能でしょうか?
――…わかってて言ってるだろう。やつは引退済みだ。動くことは出来るが、もう戦うことは出来ん。…もう何年も使ったんだ。寿命だな。
――…あなたの性格なら、もう使えない人形なんて、すぐに廃棄しそうですが。強い個体が一番偉いのでしょう?本体を我々に返して、廃棄の手間を省く案もあるんですよ。
――いや、まだいい。
――またそれですか。
――役目を終えたら帰すという約束はしてない。少なくとも私が居なくなるまでは、ここに置いておく。それより無駄口を叩いてないで質問をしろ。
――そうでしたね。…こちらの軍用個体、だいぶ容姿に様々な特徴が見られます。この人形を作る…発注するに当たって、誰かモデルになった人は居るんですか?
――…それを聞いて何になる?特に意味はない。
――もしかして、好きな人ですか?
――話聞いてたか?
――もう少し、詳しくお聞かせください。発注の際、あなたが見た目に細かく注文されている記録があります。それで、好きな人なんですか?
――何度も聞くな!ただの人間だ、人を好きになる?馬鹿言え、私は鬼だぞ。人間など好きになるものか。人間は弱い、脆い、すぐに死ぬ。長寿の鬼に釣り合わん。
――そうですか、ただの人間、ですか…。とりあえず、あなたの好きな人であるかどうかは置いておきましょう。私は、モデルになった人間があなたに大きな印象を与えたと考えています。実際、どんな印象を持ちましたか?
――…。そうだな。そいつは、人間にしては強かった。強いものは好きだ。…あっけなく死んだがな。結局あいつも弱かった。あいつが鬼として生まれてたならば、相当強者だっただろう。
――なるほど、今は亡き想い人が人形のモデル…ですか。
――想い人ではない。何度言ったらわかる。だが、あの強さは戦力として、私達も欲しかったのは事実だ。だから、こうして人形として蘇らせた。人型なのは忌々しいが、死なない、食事も必要ないからな。酒も減らないからそこら辺は気に入っている。
――ありがとうございます。
(死なない利点とお酒が減らない利点が同類とは…)
蘇らせた、とおっしゃっていましたが、その方が亡くなられてることに変わりはありません。魂を引き入れる技術はありませんから。そうなってしまうと、その人形は、ただ想い人にそっくりに作られただけで、あの時の想い人とは別物になりますが…
――?私は別に構わないぞ。そこに居るだけで良いのだ。人形ならば、長寿の私達と、死ぬことなく、共に長らく戦えるしな。
――相当愛していらっしゃるのですね。きっとその方も、安らかに眠れたでしょう。
――だからそういうのではない。私は「あい」とか知らん。…それに、あいつはきっと、私のことなどなんとも思ってない。安らかに寝れたものでも無いだろうな。私が、この手で殺したのだから。…のう、「桃太郎」?
――…そちらの人形のお名前も、モデルになった方のお名前ですか?
――そうだが?我らの敵討ちとなる者の見た目で、あいつの名を呼ばずなんと呼べと。
――失礼しました。…では、あなたが現在、その桃太郎さんへ向ける感情は、前と比べて変化しましたか?
――さっきから私のことばかり…こやつのことを聞きに来たんだろう?
――人形をご愛用されてる消費者様の意見も取り入れたいんです。現在の人形の桃太郎さんへ向ける感情は、嫌悪を向ける人間への敵意ですか?殺したことへの罪悪感ですか?それとも、亡くなっても尚未だ手元に置いておきたい執着心ですか?
――…死んでも尚、未だ手元に置いておきたい。だがそれは「戦力」としての見込みだ。それ以上も以下もない。
――そうですか。ありがとうございました。では、次に、人形の桃太郎さんへお話を…
――こやつは話さんぞ。質問しても無駄だ。私の問いにしか応答しないのだからな。
――…左様ですか。…流石ですね。あなた方鬼族にしか応答しないシステムが組み込まれているとは。
――多分な。知能が少々高い鬼が小細工をしたのかもしれん。…だが余計だったな。他の鬼にも私と比べて反応が悪くなってしまった。元から多く話すやつでもなかったがな。
――(……、これって…もしかして……)
…良かったですね。
――何がだ。良いことでは無いだろう。
――…鬼姫さん、よければ、そちらの人形に「感情」を付けてみませんか。今巷で流行ってるんです。ぬいぐるみに人間と同じ温かみを付けたり、人形に感情を付けたり。とにかく、限りなく人間に近づけさせるのが今人気で―
――戯けが。今日初めて私の名前を呼んだな。鬼と呼んだのに何故わからない。そなたらという人間と話すことが嫌なことに何故気づかない。私は鬼だぞ。人間を滅ぼす機体を作ったのだぞ、
――作ったのは我々ですが
――私は、人間が嫌いなんだ…!これ以上この人形を、人間に近づけさせてしまったらどうする…
――…さぁ、少なくとも、現時点でその人形に感情を付けた場合、最初にあなたに好意を示すと思います。
――は…?何故、そうなる…
――感情機能を付けるといずれ、思考を持ち、意思を持ち、心を獲得するというのが我々の考えです。その人形は、恐らく、既に―
――…ッ!うるさい、黙れ!鬼には人の心などない、人の心など必要ない、心のないものが鬼だ、心を持ったら鬼ではない!心を持った人形は…!「壊れている」も同然だ!!
――…そうですか。では、これ…
――帰れ。早急に立ち去れ。これだから人間と話したくなかったのだ。
――えぇ、えぇ。わかっています。これにてインタビューを終わらせていただきます。先程は失礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでした。最後に、なにか一言。
――殺すぞ。いざとなれば桃太郎も動かして…
――ありがとうございます。それでは、私からも一言。
――要らん!!
――…もし壊れてしまっても、捨てないであげてくださいね。
――…壊れたら直せばいいだろう。さっさと去れ。
――その言葉が聞けて良かったです。本日は誠に、ありがとうございました。
「…少しやりすぎだぞ。…マ」
「担当研究員以外の名乗り禁止ー。まだ研究対象にはなってないけど、尚更口外禁止なんだから。まだ島の敷地内だよ。」
「…M研究員。」
「どうぞ?K研究員。私のどこがやりすぎだった?」
「…色々だ。利用者を怒らせて、本当に人間を滅亡させたらどうする。」
「そうだなぁ…そのときは、あなたが守ってよ。」
「全く…君という人は…」
「ふふふ」
………。
………………………………。
自身の手で殺し、その殺した人にそっくりな人形を作り、新たな駒とする……
その上、長らく戦えることとしてかなり栄誉に俗していた。
戦力が欲しいなら、尚且つ人間が嫌いなら、装飾を付けるなりして自分の納得のいく姿にも出来るでしょうに。
人間の姿のまま作られている時点で、ですよ。
『私は「あい」とか知らん』
…知ってるじゃないですか。人間嫌いなのも、戦い、強さに対する執着も混じってかなり歪んだものになっていますが。
そして、桃太郎………。
お話は出来ませんでしたが、特定の人物にだけ応答する機能、並んで、なにかしら改造を施された形跡はなかった。心を持たせたら、もっと面白いものになるのに。
……恋が芽生えた人形かぁ。面白いから研究対象候補に入れちゃお。