気づき気づかれ狸寝入り「そういえば、門倉さんがこの間部下の黒服さんと行ってた店、行きましたよ!」
「……ああ、銀座の?」
「っす!貘さんとマルコと行きました!美味しかったです。ありがとうございます。やっぱ門倉さんのチョイスは外れないっすねー」
「梶様」
「ん?はい、なんすか」
「それはこの前の車内で私が言ったことを覚えていての行いで?」
「……言ってる意味があんまし、わかんないですけど。広島からのツレと飯食いに行ったとこが当たりだったから僕に教えてくれたんじゃなかったんすか?」
「……」
「門倉さん?俺失礼なこと言いました?確かに、あん時は長丁場ぶっ通しの賭郎勝負で最後フラフラでしたけど……送ってくれた門倉さんが寝ないようにずっと話してくれてたじゃないすか」
「はい」
「……勿体ぶらずに教えてくださいよ」
「では申し上げますが。あの店に、今度私と行きましょうと梶様をお誘いしたことは覚えていないと?」
「」
「門倉さんと飯久しぶりじゃないですか、しかも誘ってくれるの嬉しい、などと仰られていたことも忘れてしまわれたと」
「そん、なこと、話してました……?」
「はい」
「うわうわうわ、すみません。ホントに、マジか、うわー、僕ホントそれは、失礼な野郎で……申し訳ないです……」
「いえ、頭を下げられることではございませんよ。たかが口約束ですので」
「いや!行くって言っといて他の人と先に行っちゃうのシツレーですよね!ほんと、すみません。埋め合わせはします!なんなら、今からでも」
「梶様はこの後フリーなのですか?」
「はい、特に予定もないので!門倉さんは?」
「私も特には。それでは行きましょうか」
「あ、予約は?あの店めっちゃ人気店すよね?この間も急遽キャンセル出て行けたんすよ」
「ああ、それは、……そうですね。では梶様をコンビニのトイレに降ろしている間に電話を掛けましょう」
「……なんでわかったんですか!?」
「もじもじとした挙動不審な動きと早口は我慢の表れかと」
「……っす」
「それでは行ってらっしゃいませ」
「トイレにそんな大仰に送り出さないでください!」
「はは」
「もう!」
「ふいー、戻りました。お待たせしました」
「梶様、それでは参りましょうか」
「あ、空いてました?」
「はい、快諾してくださいましたよ」
「やったーじゃあ今日は腹一杯食べますね」
「どうぞ、私が持ちますので」
「や、それは駄目ですよ。僕の失態なので、払いますから!」
「梶様、では次回梶様にお支払いをお任せしますので」
「次ですか」
「はい、今回の店は私が紹介しましたので、次回は梶様が連れて行ってください」
「また飯行ってくれるんですか?」
「私との飯は一度きりで良いと?」
「じゃなくて!誘ってくれるのが、う、嬉しいんですよ!」
「それはようございました。では梶様、次はよろしくお願い致しますね」
「こちらこそ!…………誘われちゃいます」
◆◆◆
「門倉さん!僕が寝ないように話しかけ続けてください!お願いします!!」
「眠ると何か不都合があるのでしょうか」
「無いんですけど、送ってもらうのに僕だけ眠れないじゃないですか!あと四時間はかかりますよ!」
「それだと梶様が私に話しかける方がよろしいのではないですか」
「そうなんすけど、いまホント頭回ってないんで、話題が……思い浮かばなくて」
「こんな風に喋ってくださればよろしいかと」
「門倉さんが最近食べた飯の話してください!美味しかったとことか!」
「最近、ですか。ああ、新しくオープンした銀座の料亭は主人と懇意にしておりまして、プレオープン時に部下を連れて行きましたがなかなかの味でしたよ。ああ、そうです、昔馴染みで」
「そーなんですね、銀座かぁ!門倉さんも交友関係広そうですもんね。あ、ちなみに俺はコンビニの梅しそクリスピーにハマってますよ。はは、マルコとホットスナック全買いしてたりして……あー、貘さんとマルコと今度行けるかなあ。あの二人も、なんだか、忙しそうで……ちょっと、寂しいですけど。飯食いに行きたいな……」
「行かれる際にはご一報を。話を通しておきますよ」
「まじすか。…………あり、がとう、ございま……すーー」
「……梶様?」
「……」
「梶?」
「……」
「私とも、デートしてくださいますか」
「……」
「なんて」
「……」
「よろしければ、誘われてくださいね」