君がいないと今日はクロエの数年に一度のメンテナンス日だ。
本来アシストロイドは自分で自身のメンテナンスを行うので、故障時以外エンジニアを利用してのメンテナンスは不要だ。
そう、数年に一度のメンテナンス日以外は。
数年に一度、電源を落としてエンジニアの手で体を隈なく確認するこのメンテナンス日は異常がないかを検査する手法としてとても重宝されている。
アシストロイドを友達のように大切に思っている人間にとっても、もちろんアシストロイド自身にとっても、とても大切な日だ。
そして、それは普段メンテナンスを行う側の人間。ラスティカにとっても同じであった。
「ラスティカさん、クロエのメンテナンス、クロエが買い物から帰ってきたら始めるんですよね?」
「・・・」
「ラスティカさん?」
「・・・」
「ラスティカさん!」
「っ、え?あ、な、なんだい?」
「・・・クロエのメンテナンスやっぱり僕も手伝いましょうか?」
「いや、大丈夫。クロエのことは僕が一番知り尽くしているから。」
ラスティカにはこの世で一番無くしたくない大好きなアシストロイドがいる。
彼の友人のクロエだ。
「でも、」
「大丈夫だから。今日はもう帰ってもらって大丈夫だよ」
お手伝いに来てくれていたヒースにそう告げ、ラスティカはニコリと笑って見せる。
緊張で口角がうまく上がらないが、それでもそんな自分を見せたくなくて必死に笑顔を作る。
そう、彼はクロエのメンテナンスを前にとても緊張していたのだ。
今回のメンテナンスはカルディアシステムをクロエに搭載してから初めて行うものだ。
どんなバグが起こってしまうか分からない。
もちろん、ラスティカは自分の腕に自信があるし、クロエの目が二度と開かないなんて最悪な事態は起こさないつもりでいる。
でも、0.0001%でもその可能性があったら・・・
ラスティカは怖くてたまらなかった。
クロエがいない世界なんて、世界から色がなくなったようなものだ。
彼自身が怖いと思っていても、メンテナンスの時間は刻一刻と迫ってくる。
そして遂に買い物に出ていたクロエが帰ってきてしまった。
クロエの買い物が終わったらメンテナンスを始めようね。と前から約束していたのだ。
もう始めないと。
クロエのただいまという声を聞きながら、ラスティカは自身の震える手に力を込めた。
「それじゃあ始めるね」
「うん! よろしくね、ラスティカ」
クロエは不安がるそぶりもなく至って普段と同じ様子であった。
「・・・クロエは」
「うん?」
「クロエはメンテナンスが怖くないの?」
いつものマナプレートを抜くだけの単純なものではない。
何時間も電源が落ち続ける大掛かりなものなのだ。
もしかしたら、自分はこの先目を覚まさないかもと不安にはならないのだろうか。
「大丈夫だよ」
「クロエ・・・」
「あんたにメンテナンスしてもらうんだもん。絶対に大丈夫! この街一番のエンジニアで俺の大好きなラスティカだから・・・。だから、全然怖くないよ」
クロエはふわりと微笑みながら、力の入ったラスティカの手を上からそっと握る。
「ラスティカがラスティカを信用できないなら、あんたの大好きな俺のことを信用して。」
ね?っと得意げな顔をするクロエを見ているとなんだか大丈夫な気がしてきた。
いつもそうだ。クロエには元気と勇気をもらってる。
「・・・ありがとうクロエ。君のおかげで少し、自信がもてたよ」
「メンテナンスが終わったら、今度はラスティカも一緒に買い物にいこうね!」
「え、買い物にいくの?人が多いところはちょっと・・・」
「大丈夫、人通りが少ない道を選ぶから!」
約束だよっと小指を差し出すクロエにラスティカは自身の小指を絡ませる。
買い物、人は怖いけどクロエとならきっと楽しい。
いまから訪れるであろう素敵な未来にラスティカの胸は高鳴った。