煙草を吸う🦊の話「はい……はい…分かりました。要件はそれだけですか。……では、失礼します。」
頭が、痛い。
ズキズキズキズキ。
お前は悪いヤツだって刃物を突きつけられているような。
悪いヤツでもなんでもいいよ。
そんな思考にたどり着くなんて悪事を告発しようとしていた俺が聞いたらどうしてたかな。
きっと掴みかかってぶん殴ってきただろう。
いや、呆れて何も言わずに蔑んできたかも。
乾いた笑いを零しながら俺はジャケットからシガレットケースとライターを取り出す。
煙草を1本口に咥え、火をつけ、深く息を吸い込み煙で肺を満たし吐き出す。
あぁ……気持ちがいい。
夜に煙草を吸うことがもう習慣になってしまった。
頭の痛みをぼやかしてくれるような感覚が俺を慰めてくれる。
身体に悪いのは分かってる。
けれど今の俺には、この煙が、この感覚が必要なんだ。
ゆらゆら揺れる紫煙をぼーっと眺めながら思い浮かべるのは大好きな幼なじみで……
伊織が見たらなんて言うかな。
何やってんだよ。
身体に悪いぞ。
なんて言って怒ってくれるのかな。
そもそも伊織にこんな姿見せられないけど……
「……伊織に、会いたい。」
そんな言葉が誰かに届く訳もなく煙とともに夜に熔けていった。