羽織元絵師の鬼殺隊士が藤襲山の藤を描いたという男物の羽織がある。それを着ていると藤の薫りが漂ってくるという。だからか羽織を衣桁に掛けておくと夜に鬼が寄らないというので、産屋敷家の親戚の家に預けられていた。
その夜、盛りに描かれた花がひと房落ちた。というのも、羽織を掛けてある衣桁の下に、ぼたりとみずみずしい房がひとつ落ちているのだという。
一夜一房。最初はむせかえるほど描かれていた藤の花が一つ一つ消えて行く。尋ねにくい産屋敷家に知らせが届いたのは遅かった。藤襲山の藤は無事かと聞いた一言で、耀夜はその家の藤の羽織の異変を神懸りの勘で悟った。羽織はただちに産屋敷家に運び込まれた。その夜からも一房ずつ藤の花は夜明けの衣桁の下に落ち続けた。
2028