劣情昼下がりの午後3時、いつもと違って一人きりでコーヒーを飲んでいた。
…はるたさんは今大学時代の友人と遊びに出かけている。出かける前の楽しそうな彼を思い出すと、あんな可愛い笑顔を俺以外に向けているのかと思うと少し、嫉妬してしまう。そんな劣情を抱く自分にも腹が立つ。…言ってしまえばあまりいい気分では無い。さっきから腹が立っているせいなのか貧乏ゆすりが止まらない、早く時間が経てばいいのに、あの人に早く会いたい、そんなことを思っていると、ピロンとLINEの通知がなった、はるたさんからだ。
『今、友達とスタバ来てるよ〜!新作美味しそうだから送っとく!今度一緒に行こ!』
『美味しそうですね、今度行きましょう。楽しんでいてなによりです。何時くらいに帰りますか?』
『うーん、8時くらいには帰るよ〜』
『わかりました、引き続き楽しんでください。』
『ありがとう!』
「ふふ、かわいいスタンプ使うよなぁ、この人。…あと5時間か」
長いな、なんて思いながらスマホの写真フォルダを何となく漁る。…はるたさんばっかりだな
「……あーーー、こんなん見てたらよけい会いたくなる。」
毎日一緒にいて、家にいる時間はずっとそばに居てくれるはるたさん。彼のそばが安心して、暖かくて、つい彼に甘えてしまう。
…でも、甘えすぎた結果、彼を失いそうになった。独占欲と汚い感情を彼に押付けた、何でも受け入れてくれるんじゃないか、不覚にも、あの時そう甘えてしまった。
『僕は…君の人形じゃないよ』
……嫌悪に満ちた彼の顔と、そんなことを思わせて言わせてしまった自分が、いやになった。出ていったはるたさんをみて、世界が崩れていくような感覚がした、あの時の記憶が脳裏に染み付いて、離れない。あんな喧嘩をしたのが初めてで、なにもかもわからなくなって、涙を流しながら横たわるしかなかった。
でも、彼は帰ってきてくれた。横たわる自分を慰めてくれた。俺の精神面への対策や、今後こうならないための2人のルールまで考えて
「……助けられてばっかだな」
2人で決めたルールがある。だから、前みたいに、絶対に、絶対にはるたさんの友人に危害を加えない。嫉妬や独占欲ばかりにかられてはだめだ。でも、でも
「寂しいもんは寂しいですはるたさん…」
自分を1発殴ってやりたい気分だ。けど、はるたさんの匂いがついたクッションに顔を埋めると、そんな気がなくなってしまう。こんな時でも甘えたが出るのがダメなんだろうな。
…もう4時か。あと4時間…
「はぁぁぁぁ、、、はるたさん、、、」
思わずため息が出る。会いたいなぁ、好きだなぁ、なんて考えていると、携帯の着信音がなった。
はるたさんから…?また報告かな、嫉妬しちゃいそうだな、でもはるたさんの声聞けるからいいか、そうやってスマホを手に取った
「もしもし?はるたさん」
『あっ!ざんじくん?申し訳ないんだけど、玄関のドア開けてくれる?』
「え??えっ、あっ、はい、」
なんでだろう、そう思いながら玄関へ急ぎ、扉を開ける。
「ただいま!ありがとうざんじくん!」
「え?えっ、?!あっ、お、おかえりなさい?」
ドアを開けた先には大量の荷物を持ったはるたさんがいた。帰ってくる時間まで4時間もあったのにどうして、と言う前にはるたさんがリビングへ移動してしまった。テーブルに大量の荷物を置き、ソファで一息ついているはるたさんに
「…あ、あの、随分早いですね。なにかあったんですか?」
「ん?…あー、えーっとね、恥ずかしいんだけど」
少しはにかみながら照れくさそうに彼は言う。
「お友達にね、ざんじくんのお話してたら、会いたくなっちゃって…」
「えっ」
「それで帰ってきちゃった。カラオケドタキャンしちゃったからあとで謝罪メールしないと、、、うわっ!ど、どうしたの」
俺は勢いよく彼に抱きついた。理由が、その、かわいすぎて、この感情をどうにもできずショートした頭が咄嗟にそういう行動にでてしまった。それに、あまりにも、
「…っうれしい、です、俺も、、、会いたかった、ので」
抱きついていてよかったかもしれない。たぶん今とても腑抜けた顔をしている。彼は、ふふ、と笑って俺の頭を撫でる。この優しい手つきが俺は好きだ。
「ざんじくんは寂しがり屋だなぁ、まぁ僕も途中で帰ってきちゃったしそうなのかな」
彼は笑いながら続ける。
「…おかえりのちゅーはしてくれないの?いつもはしてくれるんだけどなぁ」
笑いながらそういう彼に、つられて俺も笑ってしまう。
「…おかえりなさい」チュッ
「ふふ、ただいま」
こんな時に、友達といる時も俺といる時も、俺の事を考えてくれてるのが嬉しいなんて考えるのは、これも、劣情なのだろうか。でも、いまはそれでもいいやと、そう感じた。