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    hisoku

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    hisoku

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    昔書いた元日に二人で出掛ける杉と尾の話をリライトしました。尾語り。

    #杉尾
    sugio
    #現パロ
    parodyingTheReality

    初御空 光が柔らかい朝の八時だ。
     運転中、カーステレオからストリングスが聴こえてきた。洋楽だ。ヴァイオリンを中心とした弦楽器の音の重なりが心地好く響いて円い明るい色をした感情を胸の中に呼んでくる。連れてきて高揚した気分になる。それを聴いて、泉の底の方から澄んだ清らかな水がこんこんと湧き出でてくるように気宇壮大な人格となれている今こそ、杉元に逢いたいと思う。素直に接することが出来るんじゃないかと思う。可愛げのある態度の一つも取れるんじゃないか。今、この瞬間に奴の前に立てれば、こんな俺でも少しはましに見えるかもしれない。いいな。この曲はまた聴きたい。しかしラジオで偶然に聴いたものだから曲名は聞き取れなかった。
     ハンドルを握っている手指が音に合わせて軽く踊る。律動を刻む。今日はこれから少し遠くの神社へ初詣に行く。こんな時間から悠長に出発して一体何時につくのか解らないが思い付いたのが昨夜だと云うのだから仕方がない。どうせ帰る故郷もない。直に杉元達と待ち合わせている駅前のロータリーに着く。シライシとアシリパも一緒だ。
     師走に入ってからずっと誘われていたが、大晦日は杉元とは過ごさなかった。年越しもだし、その前のクリスマスも誘われていたが、一緒に過ごしていない。理由は俺がクリスマスの前に発症してしまったインフルエンザが他の者に伝染らないよう、年内いっぱいはもう誰にも会わないと突っぱねたからだ。見舞いも断り、独りでひたすら寝て治した。特に杉元なんかは看病をさせろ、部屋に入れろ、と何度も連絡を寄越してきてしつこくて、それを、早く治させていつもしている性処理の相手をさせたいからだろうと途切れること無く届くメッセージを眺めては、こいつよほど溜まっているのか、と思って受け流していたが、そのうち本気で俺のことを心配しているのだと気付いて、ひとりの人間として杉元のことを意識してしまった。一対一で向き合うのはどこか囲われてしまうようで苦手だ。そう考え、避けたくなって身勝手に返事もせず、昨日まで独りで過ごしていた。
     インフル、治ったんなら、明日の朝に俺とお前とシライシとアシリパさんの四人で初詣に行きたいから車を出せよ、と杉元から連絡がきたのが昨夜のことで、体調が治った途端これだ、奴等の運転手だ。結局、俺の存在意義なんてこの程度で、居ると少し便利で、居なくても何とでもなるのだろう。熱の頭で考え過ぎだったと少し恥ずかしくもなる。完全に自惚れだった。
     駅のロータリーに着くと杉元が一人立っていた。目前で停まると軽く手を挙げて近付いてきて運転席のドアを開け、行き先までの道を知ってるのは俺だから代われ、と俺の腕を掴んで降車させると助手席に押し込み、またぐるりと車の回りを歩いて運転席に乗り込んでシートベルトを締めハンドルを握った。ハザードランプを点滅させたまま、じっと俺の顔を見つめてくる。少し見返してから窓の外を見た。

    なんか久し振りだな。

    久し振りだな。

     顔を見ずに挨拶を交わしてしまい何となく気まずくなってしまう。聴くとなくラジオのパーソナリティーの声を聴いて全員が揃うのを待つ。シライシはともかくアシリパは時間を守る女の子だから、珍しく遅いと思った。どっちから来るのだろうと左右と前後を交互に見る。そもそもどこの神社に行くのつもりなのだろう。

    他の奴等はまだか?

    まだというか、どんなに待ってもシライシもアシㇼパさんも来ねえよ。

    それはどういう意味だ。

    俺しか来ない。嘘をついた。お前がイヴの日からことごとく俺からのメッセージも電話も無視しやがるから、今日も他の奴等もいるって言わねえと出てこないと思ったから。

     嘘と聞いて運転席側を振り向く。静の目で見つめてきていた杉元の表情を見る。ああ、唇を尖らせている。あれは云いたい事があるのに云えない時にする口の形で前に一度だけ見たことがある。何時見たんだったっけか。それでこれは、この顔は、この後、泣く時にする顔だ。ほら、目から涙が滲み出てきた。当たりだ。そして俺もよく杉元のことを見ていたんだな。
     感傷的になった車内の空気とは裏腹にカーステレオだけが春の海なんかを流して愉しそうに目出度そうに喋っている。どう返そうかと巡らせて、さっき聴いた曲を思い出し頭の中で再生させる為にカーステレオを止めた。壮大な人物になれるよう思い描く。
     恐る恐る手を伸ばしていき潤んでいる杉元の目元を指の先で撫でてやる。こんなことをするのは初めてだ。これで合っているのだろうか。あやふやな関係も今日で終わりかな。新年だしな。丁度良いか。そう思いながら小さく溜め息に聴こえないよう注意を払って、一息ついて口を開いた。努めて出した自分の穏やかな声が車内に響く。

    杉元、寂しかったな。

    うん、寂しかった。

    たった一週間ちょっとだというのにな。俺も寂しかった。でも伝染したくなかった。高熱が出て辛かったから。それで俺と二人きりで初詣に行きたいのか。

    神社じゃなくて、俺がお前と行きたい場所は旅館なんだけどな。

    旅館?

    旅館。エロいことするホテルじゃなくて温泉のある立派なちゃんとした旅館。ずっと前からこっそりと一部屋押さえていて、帰る場所のない者同志、一緒に年越ししたいなと思っていて、大晦日と今日と連泊で予約を取っていて、クリスマスに俺からのプレゼントなんだけどってイヴの夜に伝えて驚かせようと思っていた。予定通りにはいかなかったけど、今からお前を拉致ってそこに向かおうと思ってる。

    甘んじて年明け早々拉致られてやろうかな。

    うん、ちゃんと俺がお前に解らせてやるから、大人しく俺に拉致られてよ。着いて浴衣に着替えたら部屋に軟禁してやるから。そこで訳が解らなくなるくらい抱いてやるから。泣いてもう嫌だ、もう帰りたいってお前が云ってもチェックアウトの時間ぎりぎりまで抱いて離さないやつ、するから。それがしたい。

    こんな俺にも解るようにしてくれるのなら、助かるな。でもやることは今までとそう変わらないのか。俺も、会いたかった。安全運転で頼む。車も俺のものだ、お前、初めてこの車運転するだろ、よくよく気を付けてくれよ。

     触れていた目元からするっと頬の輪郭まで指を滑らせて笑ってみせる。ちゃんと笑えているだろうか。頬が若干引きつっている気がする。

    うん、気を付ける。ちょっとだけロングドライヴになっちゃうから、病み上がりは助手席で寝て体力温存しとけよ。途中、コンビニにだけ寄るし。そこに置いてなかったら、開いているドラッグストアにも寄る。色々要るだろ。

    色々要るな。

     俺の頬に左手を伸ばしてきて一度優しく摘まんでから撫で返すと、正面を向き直して杉元がおもむろにパーキングブレーキを解除しウィンカーを出し静かに車を発進させた。
     朝日を浴びながら二人きりで出掛けるのは初めてだ。今まで朝は別れの時間帯だった。自分の車の助手席は座り慣れなくて、ほんの少し変わるだけで見える景色が違うんだな、とそこでも思う。運転をしている杉元の横顔を眺める。

    尾形、元気になって良かった。顔、見たかった。声も聴きたかった。もう勃ちそ。

     少し走って赤信号で停まると、こちらを見ずに杉元がそう云って、また左手を寄越してくるので信号が青に変わるまでの短い間、手を繋いだ。杉元が握っている手を可愛らしく揺らして、どうしよ尾形、俺、この一泊旅行で一箱使いきっちゃうかもしんない、と怖いことをさらりと告げてくる。まあでもそうなるか、と思って苦笑して自分の頭頂を撫でる。素直になっても大変なものは大変だなと新年早々、自分のケツの無事を祈った。
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    hisoku

    DOODLE作る料理がだいたい煮物系の尾形の話です。まだまだ序盤です。
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