背中 現在、杉元は俺と同じ男性独身寮に住んでいて、部屋は隣同士だ。部屋は隣。俺の隣。軽く立ち眩みがしてくる。杉元は馬鹿だ。馬鹿になった。確かに、俺の部屋も杉元の部屋も角部屋ではなく、俺なら共用玄関から入ってロビーを右手に折れて廊下を行った先の二部屋目が俺の部屋で、杉元はその隣の三部屋目で、共同浴場へ行く際に部屋に鍵を掛けて出て行かなかった俺にも落ち度はある。だが、風呂も便所も共用だから、基本、便所へ行く度に鍵なんて誰もかけては行かないし、そのあたりに暗黙の了解や持ちつ持たれつやなあなあのところがあるのが社員寮生活の実態だろう。それで、たまたま今回は風呂に行く時に鍵を掛けずに出てきてしまった訳だが、だがよ、普通、間違えるか。匂いだとか布団の柄だとかその入った時の感覚だとか室内の家具や物の配置とか、なんか、なんかあるだろ。普通、気付くだろう。ここが俺の部屋だと。信じられなくなって立ち尽くして目を閉じ、頭を振る。風呂から戻ったら杉元が俺の部屋にいて、俺の布団の中で爆睡していた。
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