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    hisoku

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    hisoku

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    過去作
    社員寮の部屋が隣り合う杉と尾が
    これからsgoになる話です
    現パロ
    尾語り

    #現パロ
    parodyingTheReality
    #杉尾
    sugio

    背中 現在、杉元は俺と同じ男性独身寮に住んでいて、部屋は隣同士だ。部屋は隣。俺の隣。軽く立ち眩みがしてくる。杉元は馬鹿だ。馬鹿になった。確かに、俺の部屋も杉元の部屋も角部屋ではなく、俺なら共用玄関から入ってロビーを右手に折れて廊下を行った先の二部屋目が俺の部屋で、杉元はその隣の三部屋目で、共同浴場へ行く際に部屋に鍵を掛けて出て行かなかった俺にも落ち度はある。だが、風呂も便所も共用だから、基本、便所へ行く度に鍵なんて誰もかけては行かないし、そのあたりに暗黙の了解や持ちつ持たれつやなあなあのところがあるのが社員寮生活の実態だろう。それで、たまたま今回は風呂に行く時に鍵を掛けずに出てきてしまった訳だが、だがよ、普通、間違えるか。匂いだとか布団の柄だとかその入った時の感覚だとか室内の家具や物の配置とか、なんか、なんかあるだろ。普通、気付くだろう。ここが俺の部屋だと。信じられなくなって立ち尽くして目を閉じ、頭を振る。風呂から戻ったら杉元が俺の部屋にいて、俺の布団の中で爆睡していた。



     寮の個室の小さな猫の額ほどの三和土的な一角には杉元のものだと思われるスリッパが脱いで揃えて置いてあり、暫くそれを呆然と見つめて留まっていたが、自分も寮内を歩く用に履いているスリッパを脱いで部屋に入ることにした。自分の部屋に入るのにどうして遠慮をする必要がある。共同浴場から持ち帰った脱いだ衣服を部屋の角に置いているの洗濯物籠の中に押し込むと寝ている枕元にしゃがみこみ、杉元の寝顔を覗き込んだ。気持ち良さそうに寝ていやがる。布団の膨らみからして身体は胎児のように丸めているのだろう、横寝で、軽く握った両手を重ねたそれを頬の下に置き、枕の端に頭を預け寝ていた。耳を澄ますと静かにすぅすぅと寝息が聴こえてくる。



     杉元とは腐れ縁だ。それも根の深い前世から腐れ縁だ。あの時代のことをこいつも覚えていると云っていて、それが嘘でなければ、いや、嘘ではないだろうと確信している。杉元が新入社員としてこの独身寮に入居したその日、俺とばったりと顔を合わせたあの瞬間に見せたあの表情が全てを物語っていたから、こいつにもあの日々の記憶があるのだとすぐに確信した。俺もたいがいあんなふうな酷い表情をしていたに違いない。あの瞬間、なんでこんなところにお前がいるんだよ、と二人とも思った筈だ。少なくとも俺はそう思った。それで、あれらを覚えているというのならば、それならば普通は距離を置くだろうに、何故か杉元は社内で俺の顔を見掛ける度に声を掛けてくるようになった。飯も社員食堂で俺が独りで食っていると、席が空いていれば盆を抱えて向かい席に座ってくる。その席で杉元はあの時代には他の奴らにしか見せなかったような顔を俺にも向けながら、味の感想を喋って飯を食う。その顔を信じられないような思いで黙って食いながら見ていた。



     これを、どうやって部屋から追い出そうか考えて、先ずは起こすかと呼吸をしている鼻腔を塞ぐよう小鼻をぎゅっと摘まんでみる。するとまあ見事にそれまで閉じていた口をぱかりと開けたので、人間、巧いこと出来ているもんだなと思って感心をする。じっと起きない杉元を見る。仕事で疲れきっているのだろうか。起きる気配がない。どうしてこいつは今も身体中が傷だらけなのだろうか。不思議だ。何らかの事故にでも遭ったのだろうか。それを言えば俺も似たようなものか。思わずもう片方の手で自分の頬にある縫合痕に触れてみる。



     なんとなくつきまとってくる杉元と関係をどう築けば良いのか解らない。鼻を摘まんでいた手を放し、髪に触れてみる。硬いのかと思っていたが意外と柔らかい。ただやはり癖っ毛だ。少しつり上がり気味の眉毛も指先でなぞってみる、が起きない。しゃがんでいることに脚が疲れて、その場に胡座をかいて座り込む。見ているうちにもう起こさなくてもいいかという気持ちになってきたが、眉毛に続いて、そっと睫毛の先に触れた瞬間、ゆっくりと杉元が目を開いた。起きた。

    え、なんで、尾形がいんの。

     焦点を合わせるように開いたばかりの目を細めて俺を見た杉元がふわふわとした声を出した。

    なんでだと思う?

    えっ、俺の寝込みを襲いにきたとか?

    お前、ここをどこだと思っている?

    どういう意味?

    ここは102号室だ。

    102号室って。

    102号室。は俺の部屋だよな。そしてそこは俺の布団だよな。不法侵入で寧ろ夜這いしにきているのは、てめぇの方だ、杉元。

    え。

     目を泳がしながらそう云うと、何故だかずるずると布団の中に潜り込んでいき、想定外の行動に頭を抱えた。

    はぁ? なんでてめぇはそこが俺の布団だって教えてやったのに潜りやがるんだよ。おいこら杉元、今、俺としっかりと喋ったんだから寝惚けてないだろうが。早くここから出ていけって。

    嫌だ、俺ここで寝たい。

    何が嫌だだ、自分の部屋に帰って寝ろ。

    嫌だ、この布団で寝たい。

    何を馬鹿なこと云ってないで、とっとと自分の部屋に帰りやがれ。

    嫌だ、もうせっかくいい感じに布団が暖まって、気持ちよく寝ていたから、ここから出たくねえの。あっ、解った、尾形が俺の部屋に行って俺の布団で寝ればいいじゃん。鍵開いてるからお前は俺の部屋使えよ。

     滔々と杉元が訳の解らないことを云う。埒があかないので被っている掛け布団を剥ぎ取れないものか端を掴んで勢い任せに引っ張ってみる。が、中でしがみついているのか、一片の端すら捲れない。力を込めて引っ張りながら中にいる杉元に声を掛けた。

    阿保か、布団が破れるだろ、帰れ。

    やだ、帰りたくない。

    何なんだよ、お前。

    独りで寝るの嫌なんだよ。

    じゃあなんだお前、態とここに潜り込んだっていうのか。

    そうだよ、潜り込んだ。鍵を掛けないでお前が風呂へ行くの見て。それで惚けた振りをすれば、ここに俺を寝かしておいてくれて、もしかしたらお前も布団に入ってきてくれるかと思った。

     布団を握り締め、引っ張っていた手を離す。絶対に捲られるものかと内側から端をきつく掴み引く手が見えた。馬鹿だ。

    出てけよ、杉元。

    出ていかねぇ。

    出てけ。

    出てかない、尾形、お願い。

    何だよ、お願いって、なんで俺に関わろうとするんだ。

    またお前と縁があったから。

    要らねぇだろ、こんな俺との縁なんか。

    要る。

    俺は要らねぇ。

    俺は要る、お前と何かになりたい。

    俺とお前とじゃ無理だ、杉元。

    まだ解らないだろ。

    解るだろうが、この強情が。

    お前こそ。

    杉元。

    尾形、お願い、ここに居させて。

    無理だ。帰れよ、帰れ。ああ、もう、帰れよ。疲れる。疲れるんだよ。部屋に帰れ、杉元、帰ってくれ、頼むから帰れ。もう、勝手にしろ。寝とけ。帰れ。

    うん、勝手に寝る。

     諦めてそのまま尻を後ろへ後ろへとずらしていき背後の壁に凭れ掛かる。両膝を立ててそこに両腕を乗せ、額を預ける。杉元の部屋に行くなどという気にはなれなかった。



    尾形ごめん、悪かった、布団を返す。

     やおら深夜に杉元に揺り動かされて目を開く。あれから壁に凭れて座ったまま寝てしまっていた。ふいに立てていた両膝の下に杉元に腕を通されて視界が揺れて覚醒する。抱え上げられて布団に運ばれようとしていた。

    お前っ、何をするんだ、放せ。

    じっとしろよ、落ちるから動くなよ。

     ずりずりと膝立ちで歩んで布団へと連れて行かれる。

    そんなに俺とナニをしてみたいのか。

    ナニをしたいのかな、解らねぇ、ここで眠りたいとは思う。

    しっかりしろよ、お前。

    しっかりしろって別に尾形を布団まで運ぶだけだろ。

    弱りすぎだろ、お前。

    弱かねぇよ、力あるし。普段から力仕事をする部門にいるし、ほら、筋肉だってそれなりについてるだろ。

    杉元。

    うん。

    今の俺は絆され易いんだ。

    知ってる。で、俺はそこに漬け込もうとしてる。

     ほどなくして布団の上へと静かに下ろされた。俺の尻が敷布団の上についたのを確認すると杉元は膝下から腕を抜き、なんだか間抜けに同じ姿勢でそこに座らされてしまった。横にぺたりと正座した杉元がちらちらとこちらを窺いながら口を開く。

    それでさ、たまに、ここに来てもいいかな。

    たまに、なら。

    週に何回までなら許してくれんの?

    二回か。

    ははっ、確かに絆され易くなってるな。月に一回って云うと思ってた。

    だから今言っただろ。

    また来る。

     そう話すと杉元は立ち上がり、深夜の廊下に音が響かないようにスリッパは履かずに手に持つと自分の部屋へと帰っていった。



     そうして杉元が俺の部屋に時々入り浸るようになった。来るのはだいたい二十三時頃で、俺とナニをするわけでもなく漫画雑誌などを片手にやって来ては、ここで読んでもいいかと訊く。顔だけ見て頷くとスマートフォンを弄っている俺の背中に凭れるようにして持参したそれを読み始める。背中に杉元の体温を感じながらスマートフォンを眺め、見たいものを見終わって、或いは飽きてきても同じ姿勢を保つため、仕方なくスマートフォンを弄り続けていると後ろから寝息が聴こえてくる。首を動かして振り向ききれない視界の端に手から離れ落ちた漫画雑誌があるのを見てゆっくりと身体を捻り、俺に凭れているその身体をそっと受け止めて抱き抱えてやる。すぅすぅ気持ち良さそうに眠っている顔を少しの間見つめて脇に手を入れて運び、敷いておいた自分の布団に寝かしてやる。室内の明かりを落とし、あどけなくさえ見える杉元の寝顔になんとなく添い寝をしたくなり、そっと胸を手のひらで叩いてやる。そうやって部屋に来た日は俺の布団で寝かしてやり、俺はその脇の畳の上で眠って夜を明かした。




    尾形、今夜もいいか。

     そう云って杉元が部屋へ上がってきて俺の背中に凭れて座る。今週三度目の訪問だった。

    杉元、今夜で三回目だ、罰金でも払ってもらおうか。

    三回目なのは解ってる。金を払えって云うんなら払う。でもここで寝たい。尾形といたい。

    ナニをやるわけでもないのに。

    尾形はナニが出来るのか。

    寝かしつけは出来るようになった。

    あれ、さ。

    あれ、は、お前、狸寝入りなんだろ。

    うん。

    最初に侵入して布団で寝ていたあの日からずっと、俺が寝るまでお前は寝た振りをし続けているんだろ。

    うん。

    俺がどういう行動を取るかを知る為に。

    うん。

    口吸いのひとつもしてやらなくて悪かったな。

    ううん、お前は押し掛けてくる俺のことをたったの一夜も邪険にしなかった。

    そうだな、出来なかった。なんでだろうな。今のお前は俺に冷たくされただけで直ぐに死んでしまいそうに見えたからかな。

    死なねえよ。

    それなら良かった。

    こうやってさ、お前に背中を預けていられるのが、なんとも言えなくて、なんとも言えねえのに、ずっとこうして預け続けていたくて、その体温と感触を俺だけのものにしたくなって、こうしている間は少しも、一度も寝てなんかいられなかった。

    俺だけのものしたい、か。

    でも、尾形は俺と何かになるのは無理だと思っているんだろ。

    はぁ、杉元、お前は俺を信頼しすぎだな。狸寝入りをしていたのは自分だけだと思っているんだな。

    え、どういう意味だよそれ、え、え、嘘。

    嘘かもな。

    え、はぁ? 嘘? 待って、ど、どっち。

    そうだな、一つ、唇を奪う時は本人の同意を得てから行った方が紳士的だという忠告はしておいてやる。夜這いも諦めろ。

    嘘。

    俺に睡姦は難しいと思うな。

    お前、解っていてずっと俺を部屋に上げ続いていたのか。

    お前の狸寝入りも見抜けない程、お前は俺を馬鹿だと思っていたのか。絆され易いのと馬鹿は別だろ、甘いのとは違うだろ。

    じゃあ、じゃあ俺はどうすれば良かったんだよ。

    正面から来い。背中は飽きた。目を閉じてないで俺がどういう顔をしてお前のことを見ているのか、お前もちゃんと見ろよ。それで目を反らした方が敗けだな。お前が敗けたらこの部屋には二度と来るな。

     杉元が背中を起こす。立ち上がる気配がする。何を吹っ掛けているんだろうか。けれど俺もいい加減、向き合おうか。それでにらめっこに敗けそうになったらもう一つ明かしてやろうか。たぶんこいつは知らないんだろうな。俺も魔が差して唇を奪っていたことを。いや、知っていて、奥の手として俺を揺さぶる為に取っているのだろうか。解らないな。それも込みで愉しめばいいか。
     杉元が俺の正面に座った。   
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    hisoku

    DOODLE作る料理がだいたい煮物系の尾形の話です。まだまだ序盤です。
    筑前煮 夜の台所はひんやりとする。ひんやりどころではないか。すうっと裸足の足の裏から初冬の寒さが身体の中に入り込んできて、ぬくもりと入れ換わるように足下から冷えていくのが解る。寒い。そう思った瞬間ぶわりと背中から腿に向かって鳥肌も立った。首も竦める。床のぎしぎしと小さく軋む音も心なしか寒そうに響く。
     賃貸借契約を結ぶにあたって暮らしたい部屋の条件の一つに、台所に据え付けの三口ガス焜炉があるということがどうしても譲れず、その結果、築年数の古い建物となり、部屋も二部屋あるうちの一部屋は畳敷きになった。少し昔の核家族向けを意識して作られた物件らしく、西南西向きでベランダと掃き出し窓があり、日中は明るいが、夏場には西日が入ってくる。奥の和室の方を寝室にしたので、ゆったりとしたベッドでの就寝も諦め、ちまちまと毎日布団を上げ下げして寝ている。また、リフォームはされているが、気密性もま新しい物件と比べるとやはり劣っていて、好くも悪くも部屋の中にいて季節の移ろいを感じることが出来た。ああ、嫌だ、冬が来た。寒いのは苦手だ。次の休日に部屋を冬仕様をしねえとと思う。炬燵を出すにはまだ早いか。洋間のリビングの敷物は冬物に替えとくか。気になるところは多々あれど住めば都とはいったもので、気に入って暮らしてはいて、越してきてもう三年目の冬になった。
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