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    hisoku

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    hisoku

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    過去作
    湯沸室で杉と尾がお茶を飲む話です
    前世記憶あり現パロ
    尾語り

    #杉尾
    sugio
    #sgo
    #現パロ
    parodyingTheReality

    湯沸室 喫煙をする習慣はないので、就業中の休憩といえば緑茶だ。あるいは珈琲。それと少しの甘いものかしょっぱいものを一口頬張るのが日課で、デスクワークに根が詰まり、肩も凝りそうだったので仕事の効率が落ちる前に気分を変えようとひとり湯沸室に向かった。買い置きのドリップコーヒーを淹れるために湯を沸かそうと薬缶のことを思い、買い置きのミネラルウォーターはまだ残っていたっけと思い起こしながら廊下を行く。
     スタッフルームのあるフロアの一角、廊下奥の角の階段と廊下を挟んだ少し離れた斜向かいにトイレが、その対角線上の奥まった場所にひっそり湯沸室はあった。そこは小会議室の並びでコの字に壁と壁と窓に挟まれた造りになっていて、二畳半程の広さがあり、冷蔵庫と棚、その棚の上に電子レンジ、隣に小さな流し台があった。流し台にはガス台が二口と壁にガス給湯器が備えつけてある。どうってことはない必要最低限が備え付けられている極普通の湯沸室だが、流し台が木目調の引き出しのついた懐かしい感じのする流し台で、ばあちゃん家の台所を彷彿とさせて、そこを緑茶を飲みながら眺めているだけでも癒しを覚えた。面積の狭さも落ち着く。
     それぞれの課で使用出来る棚が振り分けられていて、そこには皆のマグカップなどが仕舞われており、冷蔵庫の扉を開けるとお八つや夜食を前提に持参してきたのかシュークリームやプリンやゼリーなどが入れられている。それで各々、誰の物なのか解るよう蓋などにマジックで名前を書くように決められていて、これも湯沸室あるあるだと思う。
     オガタと名前の書いておいたニリットル入りのミネラルウォーターのペットボトルを冷蔵庫の中から取り出して共用の薬缶を探す。が、見当たらない。薬缶といっても、女性社員が用意した細身の、いかにもドリップ珈琲を淹れるの適した細く湯の注げる形をした口のある、琺瑯製の兎のマークがついた赤いやつと、適当に男性社員が用意したであろう古くからある定番の、夏にばあちゃんが麦茶を沸かしていそうな蓋に笛のついた質素な薬缶があるのだが、その質素な笛つきの方は今、誰かが使っていて焜炉の火にかけられていた。大音量の笛が鳴るから沸騰したことには気付けるとはいえ、火を使っている以上、この場から離れるのは誉められた使い方ではないし、本人が来たら席を外すのはやめた方が良いと注意をした方がいいだろうか。面倒臭いか。
     それで薬缶を、焜炉はもう一口空いているからと赤い方の薬缶を探しているのだが、流しの下の収納スペースを探っているが見当たらない。しゃがみこんで両開きの戸をめいっぱい広げその間に顔を突っ込んで手を伸ばし探す。
     ぴゅ、と鳴り始めたかと思うとあっという間にけたたましい音量で薬缶の笛が鳴り始めた。まだ赤い薬缶を探している途中だったが顔を上げ、焜炉の上の内部の水が沸騰して騒ぎ出した薬缶を見つめる。気を利かせて火を止めてやろうかどうしようかと思い、先ずは立ち上がるかと膝に手をついた時に、すみませんっ!今、止めますっ!という男の声がした。声に驚き、更に駆け込んできた男の顔をしゃがんだままの姿勢で見上げて、凝視して、何故こいつがここにいるんだろうと夢心地になった。心臓が否が応にも早打ちし出すが、いるものは仕方がない。
     すたすたと駆け寄ってきて、後ろ、ちょっとすみません通りますと謝りながら焜炉の火を止めた男の反対側の手に例の赤い琺瑯の薬缶があるのを見て呆れもする。それは共用備品である薬缶類をこの湯沸室から持ち出すのはこのフロア階で決められているルールに反していたからで、俯いて髪を掻き上げて、小さく溜め息もついて頭を掻く。向こうがまだこちらに気付いていなさそうだから余計に気が進まない。あまり進んで自分から関わりたくはない。けど仕方がない。そういう定めなんだろう。諦めた。

    薬缶を持ち出すのはルール違反なんだが。

     低いところから声を掛けられて男が振り向いてこちらを見る。本当にあの時のままの顔だ。

    えっ、おがた!?

     大声で名前を呼ばれて立ち上がった。

    ああ、解るのか、面倒臭いな。

    えっ、尾形百之助だよな?

    そうだな、でお前は杉元佐一だろ?

    え、あ、うん、そう、杉元で合ってる。だけど、そっかぁまじかぁ、吃驚した。こんなところで。

    こんなところで、だな。それで、湯沸室外への薬缶の持ち出しはルール違反なんだが、お前、課の誰かにそれを教わってはいないのか。

    あ、ごめん、持ち出し禁止なんだ。俺、本っ当に最近、こっちに異動になって、それで。

    それで、なんでそっちの赤い方まで持ち出して二つも使っていたんだ。

    あ、こっちは水遣りに?

    どこで?

    俺のいるスタッフルームにある木に水を遣ろうと思って。木、観葉植物っていうのかその鉢が俺の席の近くにあって前々から水遣り誰かしてんのかなって気になってて、お茶でも飲むかぁと思ってここに来たら、ちょうど鉢に注ぎやすい形をした薬缶があったから、これで水遣りをしたら良いかもと思って拝借して、で。

    水遣りを。

    水遣りをしてた。

    お前のいる課は暇なのか。

    全く忙しいな、ただの現実逃避だったかもしれない。っていうか、尾形って顔も髪型も昔のまんまなんだな。

    お前、鏡を見たことはないのか。

    ある、毎日見ているな。傷のことだろ。背広の下、全身にもある。呪いかな。

    お互い呪いだろうな。

    苦労するな。ああ、悪い、お前、もしかして薬缶を探してたのか。返す。あ、俺、お湯多めに沸かしていたからお前も使うか?

    じゃか貰おうかな。お前は茶? 珈琲? どっちだ。

    あ、俺は緑茶。

     戸棚を覗いてストックの緑茶のティーバッグとドリップ珈琲のを一つずつ取り出し、お前のカップは? と訊いて、手渡されたそれにティーバッグを入れてやる。薬缶の柄を掴むと湯を注ぎ、二人で並んで壁に持たれてそれを飲んだ。味が舌から頭に入ってこなかった。

    尾形は、いつからここにいるんだ?

    入社してからずっといるな。

    そっか。それでさっきも言ったけど、俺こっちに来たばかりでさ、どこか美味い店知らないか? コンビニ飯続いていて飽きてきちゃって。

    教えてやっても良いが、高くつくぞ。

    え、何、単価高い店なの?

    紹介料が。

    お礼に、そこの飯を奢るのじゃ駄目?

    やっぱりそうなるか、そうなるよな。

    そう嫌そうに云うなよ。飯行こうぜ。

     それから、二人で湯沸室でお茶を飲むようになった。



    なあ、その、尾形は昔の事ははっきりと覚えているのか?

    まあまあ、それなりに。

    俺もまあまあ、それなりに覚えている。夜に寝ていてうなされたりしないか?

    独り暮らしでで寝ているから、自分ではどうか解らんな。

    俺も解らねえ。あ、ドーナツ、食うか?

    どこにドーナツがあるんだ?

     杉元がポケットの中から取り出した、少し潰れて少し人肌に温まったちびた駄菓子のじゃりじゃりに砂糖まみれの一口サイズの四つ入りのドーナツを二人で二つずつ分けて口に放り込む。少しもそもそとしてやたらと甘いが珈琲にはよく合った。杉元はしょっちゅうこういった駄菓子をポケットに忍ばせてくる。それを俺と分けて食って少し会話を交わし珈琲を飲みきると決まって伸びを一つした。手の指を組んで気持ち良さそうに伸びる。使い終えたカップを洗って伏せる。
     色々な郷愁が胸を過る。じっと集中して今の二人の間にある気配を見ていた。

    ドーナツご馳走さん。

    ん、お粗末様。

    今日は中華を食いに行くか。

    行く。仕事終わったらお前の席に迎えに行くよ。

    ああ。

     そうやって夜も一緒に飯を食いに行くようになった。



     気付いたらもうべったりだ。
     何となく一緒にいる。さすがに昼飯は一緒に食わないが、昼飯まで一緒に食い始めたらもう何なのだろう。
     杉元の性格なら話し相手もいくらでもいそうだと思う。俺じゃなくてもつるめる同僚はいるだろう。なのに気が付いたら、十五時台は女性社員が多く集うからとわざわざ時間をずらした十六時過ぎにここで二人で珈琲や緑茶を飲むようになっていて先に着いた方が二人分の湯を沸かしながら相手が来るのを待っている。俺も杉元に倣って駄菓子をポケットの中に忍ばせるようになった。コンビニやスーパーで珈琲にも緑茶にも合う駄菓子を探すのが日課になった。薬缶が湯気を上げていくのを壁に凭れて立って見つめて今日も待っている。遅いな、とか思って腕時計を見てしまったりする。はっきりと何時何分になどと約束もしていないのに杉元を待ってしまう。

    そんな怖い顔で睨まれて薬缶が可哀想。

    下らねぇ、薬缶に感情なんてないだろ、来たか、直に沸く。

     窓の外を眺めて表情を見せないようにした。

    なんか悩み事でもあるのか? 不自然に外なんか見て。

    ない。全くもって仕事も順調だ。いや、あるか。

    なんかトラブったのか?

    逆にトラブらなくてなぁ。

    なんだよ、はっきり云えよ。

    お前とちっともトラブらないから気持ち悪いなと。

    それか。そうだな、いつも一緒にいるのにな。一緒にいるようになっちゃったのにな。もしかして、お前はこうして俺と一緒にいるのは嫌だったのか?

    嫌じゃないから、寧ろ

    なぁ尾形、この階にいる女子社員に何て噂されているのか知っているか?

    もうその振りからして聞きたくないが、何て云われているんだ。

    俺らがデキてるって。

    ははっ、そりゃあこれだけ毎日毎日毎日毎日二人っきりで茶ぁ飲んでりゃ、そう云われるだろうな。

    で、お前は、それ、釈明したい?

    どう釈明するんだ。

    とりあえず、茶を飲む時間を変えるか、夜にするか。帰る前に飲むか。夕飯行くのもお前が噂されているのを嫌だと云うのなら、もう店もたくさん教えて貰ったから俺独りででも行けるし。

    杉元がそうしたいのなら。

    そうしたら、今夜から二十一時半以降に。残っていればだけど。帰っていたら無しで。

    そうしようか。

     そう話してそれぞれスタッフルームに帰り、自分の席に戻って座る際ポケットに押し込んでいた駄菓子を取り出して机の上に投げる。杉元と一緒に食べそびれたそれは、煎餅のようなポテトチップスのようなフライドチキン味をした代物ですっかり砕けきっていた。
     さっき交わしたあの会話が、どういう意味だったのか解らない。



     二人でお茶を飲む時間を変える話をして数時間が経った。二十一時、四十分。気が付いたらそんな時間になっていた。見回してみて自分のスタッフルームには自分しかいなかった。ステージライトのように自分の席の上の照明だけが点いていて、作業をしていたファイルを保存しパソコンの電源を落とす。伸びをする。椅子に体重を預けて大きく伸びながら伸びをしている杉元の姿を思い出す。あいつは、俺と休憩をしていてリラックス出来ていたのだろうか。スマートフォンやペンなどをポケットに仕舞うと最後に砕けた駄菓子をポケットに再び突っ込んで席を立つ。スタッフルームの照明を消し、湯沸室に寄るかどうするか迷って、一応行ってみることにした。
     廊下を行くと、音がした。薬缶がぴゅ、と鳴り出した音だ。ぴぃぃぃいとやかましい音が階に響く。あいつまた席を外していやがるのかと思い、火を止めに行こうと軽く走って湯沸室に向かった。駆け付けて火を見て、焜炉のスイッチに手を伸ばす。

    全くやかましいな、火を止め、てから、席を外せよな、ってお前、一体そこで何してるんだ?

    泣いて、お前が来るのを待ってた。

     焜炉前に座り込んで立て膝に顔を押し付けている杉元の姿を見つけ声を掛け、スイッチを捻って代わりに火を消した。

    はぁっ? 二十一時半以降に居たら、と云い出したのはお前の方だろう?

    もう二十一時五十分だもん。

    二十一時五十分だもんって何だよそれ。

     横にしゃがみんで様子を伺う。腕を揺すっても顔を上げようとしない。

    何故泣いているんだ。簡単に泣くなよ。

    独り待ってみて思っていた以上にお前とお茶飲んだりして過ごす時間が自分の中で大事な時間だったんだって解ったから、自分はどうなりたいか解ったから、泣いてんだよ。

    なんだ、お前も俺とトラブれなくて困っていたのか。

    トラブりたい訳ないだろ。

    そんなことは、知らん。デキてるって云われていることに対してそんなことないってお前釈明したいんだろ?

    お前がしたいのかと思ったからだもん。

    だからその気持ち悪い喋り方をやめろ。

    冷たいな、人が真剣に悩んでいるのに。

    俺も悩んでいるから、解る。

    ならもう、既成事実作ろうぜ。同じ悩みなんだろ。お前だってそうなんだろ。

    既成事実な。既成事実か。もう無理か。これ以上引き延ばしても意味ないかぁ。顔を上げろ、杉元、涙と鼻水を拭け。

    ちょっ、ちょっと待って俺からしたい。

    俺の気が変わる前に早くしろよ。

    待ってって。

     手持ち無沙汰にポケットから砕けた駄菓子を引っ張り出す。開封して欠片を口に運んだ。ばりばりという音が小さく響く。懐かしいフライドチキン味に自分が今何処にいるのか解らなくなってくる。まだ社内か。杉元はポケットティッシュを出して鼻をかんでいる。それを横目に見て立ち上がって緑茶のティーバックを二人のカップに入れて用意する。もう一切れ大きめの欠片を見つけてそれを口に咥えたまま、薬缶の湯をカップに注ぐ。振り向く。杉元がはぁと溜め息をついているのが見えた。薬缶の中の残った湯を流しに捨てると、ばん、と流しの底が勢いよく音を立てた。二切れ目の駄菓子の欠片も食べきって、ふうふうと吹き冷まして緑茶を口にする。猛烈に焦れったくなってきた。

    お前っ、まだなのか?!

    だって本当にいいのかなって。

    すると決めたのなら動けよ。意気地無しは昔から嫌いだ。

    するっ。

     立ち上がって杉元が俺の頬に手を添えてきた。無意識にしているのか縫合痕を指先で撫でてくる。見つめ合う。やっぱりそうなるか、そうなるよな。眼を見つめて、こいつ、性欲強そうだなと思う。のされる自分を思い浮かべて、次に押し倒している自分を思い浮かべて、前者かな、とそこまで考えた。他人に何かを期待するのは嫌いだったのに、今、杉元に期待してしまっているのを認める。潔く認めることにした。

    早くしろ。

    ここで尾形の方から声を掛けてきてくれたから、俺をとことん無視する事だって出来たのに、お前から声を掛けてきてくれたから、こうなったんだ。

    全部なすりつけたな。俺の所為にすればお前は楽だもんな。

    嫌味を云いながらにやけんなよ。

    避けられないんだなと思うと。

    キスが?

    それは大したことない。

    どうだか。してみなきゃ解らんねぇよ。

    そろそろ、棟全体が消灯されてしまう、二十二時に社員を追い出す為の。だから本当に早くしろ。

     そうやってけしかけて湯沸室の暗がりの中で二人で唇を合わせて既成事実化を進めた。認め合う。消灯は嘘だ。それは向こうも知っている。
     仕方ない。もうそういう定めだろう。定めか。便利な言葉になってしまったなと思う。軽いな。過去の重かったことの方も覚えているが、今回はこれくらいの軽さで良い。殴って痛め付けるよりこうやって気持ち好くなれる仲の方が良い。ずっと好い。一度顔を離して唇の角度を変える。結局、緑茶は淹れただけで杉元の分は口をつけないで棄てることになりそうで勿体ない。軽く唇を開いて深さを求める。杉元のあれは鎌をかけていたのかと今になって解ってきた。噂の真意は解らない。遠慮がちに舌が入ってきて俺の舌を探してくる。優しくそれに応える。口の中の感触に頭と胸の奥が甘く痺れてくる。ふらついた杉元の後頭部に手のひらを添えて抱える。身体が熱い。切りようのない腐れ縁だというのなら、こういうことをする仲の方がずっとずっといい。背中に腕も回して抱き寄せて夢中で唇を重ねた。
     もう十分なくらい重ねて新しい関係が出来上がっただろう。作れた。俺等にも出来た。杉元にだけ、今度も杉元にだけのされたいと思う。
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    湯沸室で杉と尾がお茶を飲む話です
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     スタッフルームのあるフロアの一角、廊下奥の角の階段と廊下を挟んだ少し離れた斜向かいにトイレが、その対角線上の奥まった場所にひっそり湯沸室はあった。そこは小会議室の並びでコの字に壁と壁と窓に挟まれた造りになっていて、二畳半程の広さがあり、冷蔵庫と棚、その棚の上に電子レンジ、隣に小さな流し台があった。流し台にはガス台が二口と壁にガス給湯器が備えつけてある。どうってことはない必要最低限が備え付けられている極普通の湯沸室だが、流し台が木目調の引き出しのついた懐かしい感じのする流し台で、ばあちゃん家の台所を彷彿とさせて、そこを緑茶を飲みながら眺めているだけでも癒しを覚えた。面積の狭さも落ち着く。
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    hisoku

    DOODLE昔書いた掌篇小説です
    杉語り、尾の寝る時の癖に気付いた話です
    両手に収まりきらない程の 同棲を始めて毎晩一緒に寝るようになって、尾形が寝ている間はいつも両手を握っていて、ぐーをしている事に気が付いた。毎晩、毎晩、時には眠る前に手を繋いでいたりすることがあっても、いざ眠りに落ちて繋いでいた手がするりと解けると同時にぐーになる。きっかり両手を握り締めていて、ぱーの手になっていた事がない。柔くもなく常にきつく握り締められていて、それに気付いてから目にする度に不思議だと思った。
     こいつは力んで寝ているのだろうか、そんな力を入れたまま寝て休めているのだろうか。夜中にトイレに起きたついでに気になって握っている手の指を開かせてみたくなった。腹這いになって尾形の手元に顔が来るように寝そべり、一本ずつ曲げている指の関節を伸ばしてやろうと指に触れる。親指は人差し指の隣につけられていたので、先ずはそれをそっと横にずらした。出来た隙間から人差し指の第一関節を優しく掴むと起こさないよう細心の注意を払いながら手のひらから離すように伸ばしてやる。開いたら、自分の手の甲の縁で押さえて中指も広げようとした時に声がした。
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