立春も過ぎ、徐々に伸びゆく昼間の実感を伴いながらも依然、容赦ない北風が背を丸めさせる頃。
珍しく電話が鳴った。
今では博物館に収蔵されるほどレトロな電話機だ。ジリリリと耳障りな音は、お茶とみかんを備えた昼下がりの長閑さを容赦なく蹴散らしていく。そろそろスマホにしろと言われるが、遠くの人に声を掛けて声を聴く。その機能だけで十分なのだから、回線が続く限りはこのスタイルでいきたい。それとは別に、つけっぱなしだったゲーミングPCではチャットが画面を活発に駆けていく。
「はいはい、静岡だで」
ふんわりと柔らかいギンガムチェックのカバーで覆われた受話器をとり、話し始める。相手の声を聞くよりも早く、その周囲から慌ただしいほどの喧騒が立ち上がっており、只事ではないことを予感させた。
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