2回目「もうあと寝るだけか?」
乾いた食器を片付け終わったところ、珍しく共有スペースのソファに座っていた治崎から背中越しに声をかけられる。
「うん?うん、もうそうだね。何か要るの?」
水かな?と思いコップを手にするが首を横に振られ、手招きされる。不審に思いつつ、隣へ座るとテーブルの上にいくつか容器が置かれていた。
「保湿クリーム?そんなに持ってたっけ?」
「余らせてるやつ。手出せ」
「ええ、いいよ自分で塗れるから。どれがなにとかあるの?」
「違う。掌上にして見せるだけでいい」
言い方紛らわしい。俺の手と顔を見て治崎が容器を1つ手に取り名前を確認してから渡してくる。
「さっき背中に手回された時引っかかってたの、痛かったから」
「うわ、ごめん。爪は立ててなかったよね?」
言われてみれば指先がひび割れていたり、かさついていて、ああこれは傷にはならないだろうけど確かに触られれば気が付く。久しぶりに対面でしたから無意識のうちに掴まってしまったのだろう。痛がっているようには見えないので大したことはなさそうだ。でも、じゃあなんでここまでしてくれるのだろうか、その場で指摘してくれたら自分だって保湿剤くらいは持っている。さっきから疑問符だらけだ。
「お前言ったところで後回しにするだろう。活動時にはグローブしているから素手で相手に触れることなんてまあまず無いだろうし」
こちらがなにか言う前に一気にそれだけ言って治崎は席を立って自室へと戻っていった。もらった塗り薬の蓋を開け、中身を適量手に塗る、ついでに腕まで塗ってしまえ。本当にたまに本当に面倒な人だなと思う。
「治崎、入るよ」
バスタオル二枚を左側、シーツを右側の小脇に挟んで少し行儀が悪いけれど肘でドアノブを下げ扉を開ける。
「これ、ありがと。どう?さっきより滑らか?」
容器を返すついでに手を握ってみたが、特に反応はない。ここで触れる前に手を引っ込められたら戻るつもりだった。どうやら当たりかな。治崎から手を離し、挟んでいたバスタオルを勝手に治崎のベッドへ広げると間に挟んでいたゴムとローションが転がり出てくる。替えのシーツはとりあえず足元にでも置いておこう。簡単に準備を整えていると、扉を閉めに立ち上がっていた治崎が枕元にタオルを何枚か追加で置いてきた。この部屋タオルあったんだ。
「ドアくらい閉めろよ」
「だってまだ手乾いてないし。まだ俺の部屋の布団整えてないし」
ここでするのか。と言われそうだったので先手を打つ。というかそっちがしたがったんだからこっちでいいじゃん。
「明日晴れだってよ~」
適当に言いながらベッドへ寝転がる。珍しい2回目のお誘いを治崎の方へ両手を広げた。
「もっかいしよ」