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    sshark_shrimpp

    @sshark_shrimpp

    フリートみたいな感じで、作業進捗ぽいぽい上げていきます。あとは基本的に突発的な落書き文です。
    反応されるとめっちゃ喜びます。
    作業進捗も落書きも基本的に読み直ししてなく、文章がひどいのでさらりと読んでくださいな。

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    sshark_shrimpp

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    お狐了見×変なものが見えるようになった尊の一緒に住んでる話。

    ――運命とは、数奇なものだと、僕は思う。

     駅から徒歩七分の路地裏に場所にある、木造築四十五年の木造二階建てアパート。その一番奥にある角部屋。
     そこが、今、僕が一人で住む部屋だった。
     幸い、築年数の割に中は草臥れてはおらず、和室八畳二間にも関わらず、家賃3万円代なのは貧乏学生にとってとてもありがたい。
     今まではこの土地から遠く離れた漁村で祖父母と共に住んでいたのだが、引っ越してきたのがつい数か月前のこと。今まで住んでいた、田舎のから出てきたのは、噂を聞いたからだ。
     この街には、僕と同じように幼い頃、怪異に連れ去られた少年と少女がいる、と。
     5歳の頃、僕は半年もの間、行方不明になっていた。それは、穏やかな春の陽気が漂うようになった五月暮れ。両親と共に訪れたとある神社でのこと。そこは、緩やかに続く階段の先にひっそりとある、昔ながらの小さな神社だった。
     そこで、僕はどうやら行方不明になったらしい。
     曖昧な発言になってしまうのは、僕自身に記憶がないからだ。どこにいたのか、何をしていたのか。何一つ、その頃のことは思い出すことが出来ない。何せ、僕にとってみれば、ほんの一度目を瞑っただけ程度の短い時間でしかなかった。
     しかし、はっと目を開けてみれば、はっきりとした視界の中、目の前に広がっていたのは異様ともいえる光景だった。両親の姿はなく、ポツンと神社の境内に僕だけが一人で立っている。辺りを見渡せば、日は落ちておらず、頭上をさんさんと照らし続けている。しかし、ついさっき来た時には緑葉が青々と茂っていた樹木は色とりどりの紅葉をつけていた。
     何かがおかしい。幼いながらに直感した僕は背筋が冷たくなる感覚に襲われて、境内から続く階段を転げ落ちるように下って大通りへと飛び出し、そこで警察に保護されたのだ。
     混乱する僕は、保護された交番にて半年後の時間が流れていた事実を知った。そして、両親が自分を探すために奔走し、その際に、事故に遭ってなくなってしまったことも。
     どこにいたんだと問う祖父母に対し、僕はその答えを持ち合わせていなかった。
    ――わからないよ。気が付いたら、半年たっていたんだ。だって、僕、どこにも行っていないよ。
     そう答える僕に、祖父母はひどく遣り切れないような、困惑した表情をしていた。それでも、孫が嘘を吐いていると頭ごなしに決めつけないでくれたことがありがたかった。ただ、僕自身その言葉が嘘偽りは一つも入っていなかった。
     両親を失い、僕は祖父母の元で暮らすようになった。
     その頃からだ。
     『ヘンなもの』が見えるようになったのは。
     その『ヘンなもの』を言葉で表現するのは難しい。それは様々な形がある。黒い霧の中に目だけが浮かんでいるようなもの、生えそろった歯に足が映えたようなもの、一見普通の人の形を模したようなもの、その外見は様々だ。
     しかし、それらは総じてこの世のものではない。自分が生きている世界とは別の、モノだ。生き物という表現すら危うい。
     そして、その目に見えるようになったその『ヘンなもの』からは突き刺さるような悪意を感じていた。
     初めはその異様なものを見るのが恐ろしくて泣き喚いた。祖父母には目に映らない、邪悪な存在。追い払ってもらおうにも、存在を理解してもらうことすら出来ない。
     ガタガタと身体を震わせ祖父にしがみつきながら、怖い怖いと何度も泣きじゃくった。
     しかし、怯える僕を他所にそいつらは遠巻きに見ているだけだった。ギラギラとした目を向けながら、だらだらと涎を垂らしているにも関わらず、僕を遠くから見据えている。明らかに、その視線には寒気がするくらいの、害を与えてやろうという悪意が見え透いていたのに、少しも距離を縮めてこない。
     時折、近付いてこようとする存在もいるにはいた。しかし、何故か、僕の傍に来ようとすると存在が蒸発するように消え失せる。その消滅する様子を見て、周りの奴らは怖がったように距離を取った。そして、また僕を遠くからじっと獲物を狙うような視線を向けてくる。
     ただ、それだけの日常だった。
     けれど、年を重ねるにつれ、そいつらと僕の距離はじわりじわりと縮まっていった。僕がそいつらに近付いているわけではない。そいつらが僕へと近付いてきているのだ。
     十年も経つ頃には、そいつらのさざめく声すら聞こえるようになったのだ。
    ――忌々しい、狐の匂いが消えてきた。
    ――あともうちょっと、あともうちょっと。くさい狐の匂いが消えれば、極上の甘美にありつける。
    ――早く早く。狐の気配が消えてしまえ。
     まるで、祭りのように興奮しているそいつらの声が恐ろしくなって、僕は祖父母に協力してもらい、昔、両親と住んでいたこの土地へと越してきた。
     自分と同じようにあの神社で行方不明になった子がいる。彼らがどこの誰だかなんてわからなかったが、藁にも縋る思いだった。
     あの神社へと足を運んだのは、その足掛かりとして、だ。
     その時は、まさか、そこで【あんな存在】と出会うだなんて、予想だにしていなかったが。


     最低限の家具しかないしゃれっ気のないこの部屋には、今まで誰もいれたことがない。
     何せ、変な時期に転校してしまった。物珍しさで遠巻きにされていることもあってか、未だ友人らしい友人は出来ていない。
     何が何でも友人が欲しい、とは思っていないが、しかし、まさか、友人よりも先にわけのわからない存在を部屋の中に入れることになるとは、思ってもいなかった。
     リビングと言える玄関から続く廊下に面した部屋の中、中央にある丸型のローテーブルに向き合うように正座する男。
     外見からうかがえる年齢は僕と同じくらいか少し上だろうか。男は嫌味なほどに整った顔立ちをしていた。
     頬から鼻にかけてまるで爪痕のように真紅の三本がそれぞれ伸びている特徴的な模様も、男の端正な顔を引き立てるようにしか思えない。
     すっとした鼻筋の映える横顔ですら綺麗で、中性的な顔の男は背筋をしゃんと伸ばし、行儀よく座布団の上に座っている。
     陰陽師のコスプレでもしているのかと言われそうな、狩衣と呼ばれる白い着物のような服。その身体は折れそうなほどに細く、余分な肉などこれっぽっちもついていない。
     まるで我が物顔のように緊張した様子もなく、そこに座る男は、数日前に神社で出会った、『狐』だった。
     失踪の現場となったあの神社で、僕は喋る白い狐に出会った。
     『何故、此処に来た』と問う狐は明らかに普通の存在ではなかった。人語を喋る狐など、異様なものでしかない。しかし、厳しい視線を僕に向けてくる割に、その目は獲物を見るような視線とは違う。明らかに異様なものではあったけれど、僕を傷付けようとじりじりと距離を詰めてくる『ヘンなもの』とは同じだとは思えなかった。
     どことなく僕を心配しているようにすら思える、毛を逆立たせ睨み付けてくる狐に、僕は事の顛末を告げた。
     最近、『ヘンなもの』に付きまとわれていて困っている。そういうものが見える原因になったここに来れば、何かがわかるんじゃないか、と。
     僕の言葉を神妙そうな顔付きで聞いていた狐は、『私の匂いが薄くなっているせいだ』とぽつりと零した。匂いについて聞き返したが、狐は詳しくは説明してくれない。けれど、『ヘンなもの』が近付いてくるようになったのは、自分のせいであり、だからこそ責任を取る、と言った。
     そして、その責任の取り方が、僕と共にいること、である、とも。どうにも、『ヘンなもの』はこの狐の匂いには近付くことが出来ないらしい。そして、この狐と一緒にいれば、その匂いが僅かにはつくことが出来るのだという。
     その発言に絶句したのは言うまでもない。
     この狐が僕を騙してこようとしているのかと最初は一瞬疑った。それもそうだろう。初めて会ったのにも関わらず、お前の傍で責任をとろう、だなんてどこの押しかけ妻だと言いたくなる。狐に摘ままれた、なんて慣用句があるくらいだ。この狐は僕を化かそうとしているのだろうかと、訝しんだ気持ちは確かにある。
     けれど、その狐を信じてみようと少しだけ思ったのは、藤色の切れ長の瞳が逸らされることもなくじっと僕を真剣に見つめていたからだ。貫くような視線がひどく真剣で、少なくとも『ヘンなもの』と同じように僕を害そうとするようには変わらず見えなかった。
     事実、『ヘンなもの』は、『狐の匂い』がどうたら、と言っていた。狐の話を与太話と片付けるのは何となく違う気がした。
     全てを手放しで信じたわけではない。寧ろ疑わしい部分も多少なりともある。それでも、僕はこの狐の言葉を少しでも信じてみようと、一人暮らしで住む部屋に連れ帰ってきた、というわけだ。
     狐と共に暮らす生活に大きな変化はなかった。大きな狐の面積が一匹分空間を占拠している、その程度だ。
     食事時と外出時以外は基本的に男は狐の姿を保って大人しくしている。人の姿になることも出来るのだが、顔のイイ男が一緒に暮らしている現状に何となく気が引けてしまい、僕の方から狐の姿を保つようにお願いしたのだ。
    「はい、今日の夕食」
     僕は台所から持ってきた皿を丸いローテーブルの上に置いた。その皿を見て、感情など宿していないと思えた冷淡な細長い薄藤色の瞳が、僅かに大きく見開かれる。
     その視線は皿の上に乗った、薄茶色の塊に釘付けになっていた。
     厚みのある油揚げを焦げ色がつく程度に軽くあぶって、葱を散らしただけの料理と言うには少し憚られるような品を男は視線もそらさずに見据えている。
    「……油揚げ」
     ぽつりと、男は声を零した。掠れたような声だった。
    「スーパーの特売で安かったからね。嫌いだった?」
    「いや」
     左右に頭を揺らし、言葉少なに応える男は視線を上げて僕を見ようとすらしない。縫い付けられたように、じっと油揚げを凝視している。僕になんて向けられることのないほどの熱視線に、鉄仮面に見えた男の感情が見えるさまにどことなくおかしくなってくすりと密やかに笑った。
    「好きならまた買ってくるよ」
    「……ああ」
     まるで消え入りそうなほどに微かな声で、男は呼応した。僅かに弾むように聞こえた声に何となく嬉しくなる。
    「焼き魚と、あとごはんとみそ汁も持ってくるからちょっと待ってて」
    「わかった」
     頷く男の背中にはゆらりと箒の穂のような白くてふわりとした尾っぽが姿を現し揺れている。まるで犬のような喜び方にじわじわと面白くなってきて、緩みそうになる口元を隠すために僕は足早にキッチンに戻った。
     透けた銀色の髪の間から頭頂部に生えている三角形の細長い獣の耳に、不思議な色をした装飾具が視界の端でゆらりと輝いていた。
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