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    ##ミラプト

    酒のやつ03この美酒は、生まれるべくしてこの土地に生まれたというのが、酒精に満ちた2人の頭が弾き出した答えだった。おそろしくグロテスクな見た目をしていたカラフルな物体も、割り開くと毒々しい色味をしていた芋も、あたかも生肉のような色合いの果肉も、何をどうしても美味かったのだ。この土地に実る食べ物は、どうやら全て美味いらしいので、それを元にもっと美味くしたものは、それはそれは美味しいと言うのが当然の帰結だと、興奮気味に喋る2人は既にキッチンを荒らし放題のまま放置し、できたつまみに買ってきた食べ物、そしてついでに希少種の酒瓶をこれでもかとリビングスペースのソファとローテーブルに運び込み、次から次へと口へ運んでいた。もはやテイスティングと言うには苦しい本数を空けているが、そんなことに構っていられなかった。全くと言っていいほど釣れない態度の恋人が、酒やつまみの旨さに随分とガードが緩んでいる。この機を逃すわけにはいかなかった。自分の店のために購入した分の封を次々と切り、上機嫌のクリプトの杯へ注いでいく。難しい顔をしてレイスの名前を出して杯を断ったのは最初の方だけで、今は進んでおかわりを求めてくるようになった。もう一押し、と言うところで、話題が逸れるということを幾度も繰り返し、やきもきするミラージュが何度も居住まいを正す中、その時は急に訪れた。小気味良い音を立てて封を開け、とくとくと瓶を通して伝わる空気の入り込む音を楽しんでいた時。
    「ああ……こうして過ごすのは、ずいぶん久しぶりだ」
    ついにきた。ミラージュはさりげなく酒を注ぐふりをして、クリプトの隣を陣取り、ぐいと肩を引き寄せた。しまったという焦りを滲ませていたクリプトの体はやや固かったものの、己の失態に不意をつかれ、すんなりと腕の中に収まった。
    「そう。随分久しぶりなんだよ。知っててくれたとは驚きだぜ、クリプちゃん?」
    「バカでも日にちを数えられるとは、俺も驚きだ」
    「ハァン?いつもの煽りのキレはどうしたんだ、じいさん。しばらく会わない間にボケちまったか?」
    悔し紛れの文句を受け流しつつ、色々と積もる話はあるものの、まずはクリプトの香りと体温を楽しむことにした。即物的だが、ミラージュにはもう限界だったのだ。ただでさえ随分久しぶりに対面で喋る恋人が、平素でも珍しいくらい上機嫌に酔っ払っているのだ。今すぐ飛びついてむしゃぶりつきたい気持ちを必死に抑えているのだから、ちょっとしたお目こぼしくらい頂戴したってバチは当たらない。がっしりと首に腕を回しながら、居心地悪そうに身じろぎを繰り返すクリプトに逃げられないよう、杯に並々と酒を注ぐ。折角の美酒がこぼれることを嫌ったクリプトが、酒を口から迎えにゆく。背がソファから離れた隙に半身を滑り込ませ、酒を口に含んだクリプトが体勢を戻す頃には、すっかりミラージュに捕まってしまっていた。
    「さ、もう逃げられないぜ。観念して白状して楽になっちまえ」
    「ああ、白状しよう。お前がさっき持っていたカラフルな物体についてだが、実は調べていたんだ。あれは——」
    「馬鹿、そんな最近のことじゃねえ。いや最近は最近なんだが、発端はもう200年は前の話だ」
    「200年か。生まれていないから心当たりがないな」
    「だぁっ!もう、それは知ってる。小粋なジョークに水を差して逃げようったって、そうはいかねぇ。
     最近のお前の態度の話さ。とてもじゃないが、恋人に向ける態度じゃないぞ。それどころが、挙動不審だ。おっと、これはいつものことか。ええと、そういうことじゃなく……」
    おほん、とミラージュは一つ咳払いをした。ちょっと恥ずかしいけれど、これはきちんと伝えなければならないことだ。
    「なぁ、俺はお前が……しん、しっ、……あー、……心配なんだよ」
    クリプトの眉根に酔っていたシワが、ふと和らぎ、瞳が真芯からミラージュの目を見つめた。今度はミラージュが目を逸らす番だった。酒ではない熱が頬に集まるのを誤魔化すために酒を煽っていると、クリプトが言葉にならない気持ちの代わりに、ミラージュを呼ぶのが聞こえた。申し訳なさと、嬉しさと、複雑に入り混じった声に、胸がぎゅうと締め付けられて苦しかったので、わざとらしく咳払いをして話を続けた。
    「あー、もちろん俺様もだが、お前の態度のおかしさは他のレジェンド達も気づいてるぜ」
    その言葉に、明らかにクリプトは動揺を走らせた。
    「何だと?」
    「え?だから、他のレジェンドも気付いてるって……」
    「気付いた……ローバあたりか?彼女はそういうのに聡いから——」
    「いやいや、そんなもんじゃねぇ。ローバもそうだが、レイスにヴァルにバンガロール……そう、バンガロールに俺はしこたまつつかれたんだ!何か喧嘩でもしたのかって。なんでもねえって言ったんだが、とにかくまず謝れの一点張りでよ。訳がわかんなくてもまず対話だって言って、根性が足りないならつけてやるって射撃訓練場でメチャクチャ——そう、射撃訓練といやその後のライフラインもひでえんだぜ、俺が訓練でくたくたになって湿布もらいに行ったらよ、今度は何したんだっていうからバンガロールが急にふっかけてきたんだって言ったら、そうじゃなくてクリプトと——」
    「待て、いい、わかった。ライフラインとバンガロールが気づいたんだな?」
    「いやぁ?俺に仲直りしろって言ってきたのはその2人だけじゃないぜ。その場にいたオクタンも謝っとけって言ってきたし、ジブにソマーズ博士、ヒューズにマッドマギーにそれからワットソン——」
    「彼女も?!何か言われたのか?!」
    「いや?ワットソンはどっちかっていうと、絡んできたラムヤから庇ってくれて——」
    「おい、絡んできたってどういうことだ。まさか」
    「パソコンのおっさんと喧嘩でもしたのかって聞いてきてよ。それでどうせ俺が悪いんだから仲を取り持ってやる対価として晩飯奢れとか言ってきてよ、飯が食いてえだけだろってつっぱねてたら、まぁまぁって」
    「そうか……ランパートにまで………」
    「他の奴らも気づいてると思うぜ。わざわざ言わないだけで。ブラッドハウンドもこういう時はプラウラーの——」
    「やめろ!もういい」
    クリプトは今日一番迫力のある声を発した。驚き口をつぐんだミラージュは、一瞬にしてシンと静まりかえった部屋の中、具合の悪そうなクリプトの顔を見つめていた。やや血の気の引いた唇が薄く開くと、大きく息を吸い、細く、長く息を吐いた。それはそれは苦い顔をしながら、ぐいと酒を一気に煽り、そして再び大きくため息をついた。
    「よく……わかった。そうか……みな、そうだな、優しい……人たちだということを……ここまでとは……思わなかったが。」
    驚きのあまり起こしていた体を、グッタリとミラージュに預けながら、飲まずにはやっていられないという態度で乱雑に口元に酒を運ぶ。グラスが空かないよう次々と酒を注いでやりながら、ミラージュは宥めるようにクリプトの頭にキスを落とした。
    「あー……迷惑だったか?」
    おずおずと尋ねると、勢いよく肩に頭を預けてくる。意図を正しく汲んだミラージュは、優しく撫でてやる。頭、耳殻、オトガイ、そして首筋と指を滑らせ、一度、二度とゆったり往復させる。強ばっていたクリプトの体が、ひと撫でする度に緩んでいくのが面白く、指の腹で酒精にのぼせた皮膚の温かさを味わいながら、薄い皮膚の後ろの弾む鼓動を感じることに集中していた。
    やがて、ゆっくりとクリプトは息をついた。そして酒で唇を湿らせると、ぽつりと「迷惑じゃない」と呟いた。
    「ただ……なんだか大事になってしまっているから……」
    「や、心配すんな。そこまで大事じゃないさ。みんな多分暇だったから口に出しただけ——とか、そんなんじゃないか?
     バンガロールだって俺をシゴく口実が欲しかったか、八つ当たりかのどっちかだって踏んでるね」
    「……そうか?」
    「だけど、俺には大事さ」
    真剣に話がしたいミラージュは、クリプトの顔をぐいと自らに向けさせ、じいと見つめた。少し驚いた様子を見せたクリプトは、慌てて視線をずらすが、負けじとそれを追いかける。努めて落ち着かせるように、優しく温かみのある声に聞こえるように、ゆっくりと語りかけた。
    「クリプト。何かあったのか?」
    声をかけても、クリプトはモゴモゴと口を動かすばかりで、一向に言葉は出てこなかった。しばらくはどんな言葉がくるかと真剣に待機していたものの、気づけばミラージュはじっくりとクリプトの顔を観察していた。
    顔が至近距離にあるのに、必死に目を逸らしているせいで節目がちになっている瞼。こういう時でもないと確認できない睫毛。
    うろうろと彷徨う瞳の動きに釣られ、柔らかく隆起する瞼。言いあぐねてしきりに舐められ食まれる、濃く色づいた唇。
    そういえば、酒を次々と空けていたのはクリプトだけではなかったと気づいたのは、彼の口腔に舌を忍ばせてからだった。真剣に話しあう時に、こんなに頭がぼうっとしてはいけないと理性は警鐘を鳴らしているが、心も体もクリプトを欲して止まず、せめてこのくらいと口を吸うことを止められなかった。
    不思議なことに、あれだけ散々な態度をとっていたクリプトも、さしたる拒否をするわけでもなく、ちゅうちゅうとミラージュが吸うに任せ、たまに心地よさそうな呻き声をこぼすばかりで大人しく納まっている。
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