「…送っていきます。」
立派な日本家屋、松に囲まれた広い庭の端に停めてある車の鍵をリモコンで開けて、観月は言った。
ピシャリと閉めた玄関の扉はなかなか重厚そうな作りに見えたが、その内側からは何やら言い争うような声が聞こえて、そうでも無いのかもな、とぼんやり思った。
ここは山形、観月はじめの生まれた家。
訪れたのは今日で2回目。
玄関から先に、俺はまだ入ったことは無い。
姉や母が近所で使う用なのだという、丸っこい形のピンク色の軽自動車は、観月にもよく馴染んでいた。芳香剤は花の香りで、これも遺伝なのかとふと思う。小さめの作りの車に、ただでさえ着慣れないスーツを着ているせいもあって窮屈で、助手席のシートを一番下げられるところまで下げる。俺がシートベルトを締めたのを確認して観月が車のエンジンをかけたところで、誰かが運転席の窓をノックした。観月の二番目のお姉さんだった。
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