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    ippan_piranha

    @ippan_piranha

    AC6の書き散らしを置くために作りました。

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    POIPOI 8

    ippan_piranha

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    禁煙を決意したラスティの話 (https://poipiku.com/6918054/9366491.html)の続き。
    揃いも揃って大人気ない大人しかいない。

    ただいまいっぷくちゅう!⦅レイヴン、レイヴン…⦆
    ――どうしたの、エア
    ⦅あのV.Ⅳとかいう馴れ馴れしい男のことですが⦆
    ――ラスティがどうかした?
     頭の中で響く「交信」と、周りから怪しまれずに会話するのにも慣れた頃、突然彼女が切り出した。目の奥でちかちかと光る友人と対話するように、ひっきりなしに届く依頼の映されたタブレットから顔を上げた独立傭兵レイヴンは、彼女…エアの話に耳を傾ける。
    ⦅はい、彼は先日のアイスワーム討伐のブリーフィング前後から面白い挙動をしておりまして。突然禁煙の決意表明をウォルターにしたと思ったら何故か取っ組み合いの喧嘩にまで発展して……そこで少し、そんな彼に悪戯を思いつきまして⦆
    ――待ってそれは初耳。…あんまり意地悪しないであげてね
    ⦅意地悪ではありませんレイヴン。むしろ、貴方と彼の距離を縮めるお手伝いになるかもしれませんよ⦆
    ――…私とラスティはそんな仲じゃ…
    ⦅レイヴン、私は貴方のバイタルデータを把握しているんです。知っていますよレイヴン、貴方はV.Ⅳからの通信が入ると一気に心拍数が上がります。これはウォルターやチャティ、G6などからの通信では見られない現象です。総合すると…⦆
    ――わかった、わかったから…! 私は何をすればいいの?
    ⦅話が早くて助かります、レイヴン。ではまずこちらの依頼をこなすついでにレッドガンの本拠地へ向かいましょう⦆
    ――レッドガンの?
     首を傾げるレイヴンに、⦅任せてくださいレイヴン、貴方の恋路は私がサポートします⦆なんて大真面目な声でエアが言うものだから、レイヴンは「こら」、と呟いてヘルメットの上から頭をこつん、と叩くのだった。
     
    ―――― 

    「……という状況です。いくらMT部隊とはいえ人的資源の消耗は目を瞑る訳には参りませんから、ヴェスパー部隊でなんとかせよ、と…」
    「なんとか、と言われてもねぇ」
     週に一度の隊長会議(相変わらず首席隊長フロイトは無断欠席だ)にて、先日独立傭兵に破壊させたはずの燃料基地周辺に所属不明機体が出没しており、調査に向かったMT部隊が撃破された、という報告を第8隊長ペイターが上げる。人事担当のホーキンスが部隊の調整を考えて難色を示す中、第4隊長ラスティが手を挙げた。
    「そういうことなら私が行こう。上のことだ、その所属不明ACというのに基地の情報を流した裏も洗ってこい、そしてその黒幕は大方察しが付いている…ということだろう。もしせ…ハンドラー・ウォルターとレイヴンが関わっていたのなら処分すればいい。先頃はレイヴンに私の名前で依頼を出したから、続きの調査ということで怪しまれる可能性も低いと思うが」
    「取ってつけた理由をよくもまぁ…」
    「何か言ったか、オキーフ」
    「いや、なんでも」
     近頃顔を合わせれば戦友、戦友、と独立傭兵レイヴンの話を尻尾を振るかのように何度も話してくるラスティに、オキーフは胃もたれ気味だ。横から見ないとわからないが、考え込む振りをして顔に当てた手の下で、ラスティは口角を上げるのを隠しきれずにいる。最近は戦友を苦しめてしまったから、と煙草も止めた、正確には止めようとしているらしい。
    「そこまで言うのなら第4隊長、貴方に任せましょう。貴方が裏で糸を引いているということでなければ、損耗を出さずに解決できそうだ」
    「痛み入ります、第2隊長閣下」
     スネイルからチクリと入る嫌味にも顔色一つ変えずに返す。演技派め。
    「ではその依頼は第4隊長へ。では次の報告ですが……」
     
    ――――

     ーー新着メッセージ、1件。
     レイヴンが数えきれないほどの依頼をエアと一緒に仕分けていると、ぽん、と見慣れた狼のエンブレムの持ち主からメッセージが入る。
    ⦅来ました、来ましたよレイヴン!⦆
     待ってました、と実体もないのに聞こえる鼻息と共に、エアが頭の中で叫ぶ。
    ⦅聞いてみましょう、レイヴン、さ、早く!⦆
     エアが盛り上がってどうするの、と微苦笑して、レイヴンはメッセージを開いた。
    「やあ戦友、君の良き戦友V.Ⅳラスティだ。先日君に依頼した、惑星封鎖機構に接収された燃料基地の件なんだが…付近で動きがあった。所属不明機体がアーキバスのMT部隊を襲撃し、部隊は壊滅。そこで私に討伐依頼が下ったのだが、全くと言っていいほど情報がない。言い方としてはおかしいかもしれないが、保険として君の協力を得たい。……ま、正直に言えば、君が最近アーキバス系列からの依頼を受けてくれないから、そうだな…退屈しているんだ。私は、楽しみにしている。…ではまた。」
    ⦅この『退屈』と言うのは寂しいで間違いないですね! V.Ⅳも所詮は人の子、この私の恋愛シミュレーションのパターンからは逃れられない……あぁ、レイヴン、お待たせしました。この依頼はもちろん受けてください。しかし…返信は夕方頃にしましょう。相手を焦らさせてやきもきさせるのは恋愛の常道です⦆
    ――エア、楽しそうだね
    ⦅ええ、もちろんです。荷物の準備も進めましょうね、レイヴン。楽しいデートの始まりですよ⦆
    このCパルス変異体には、少しばかり仕事への向き合い方というものを教えた方がいいかもしれないと思う独立傭兵であった。

    ――――
     
     燃料基地周辺に出没する不明機体は、蓋を開けてみれば惑星封鎖機構の新型LC機体だった。襲いかかるLC機体5体を相手取っての戦闘も、戦友となら音楽に合わせて心のまま踊るように機体が動く。一体仕留めて上を見れば、相変わらず飛ぶようにACを駆る戦友がスタッガーを決めているところだった。
    「ラスティ、そちらに行った」
    「了解した、任せてくれ」
     よろめきながら崖を落ちていく相手機体に追い打ちを掛けて仕留めていく。申し合わせたわけでもなく、2人で共闘する時は役割分担のようなものが決まっていた。
     動かなくなった機体からログを回収して解析を試みる。目ぼしいデータが無いか確認していると、戦友の機体が横に停まって排熱機関を展開した。
    「私の仕事は終わった、ラスティの方は?」
    コックピットのハッチを開いて、ひょこ、と顔を出した戦友に、もう少しだと返事をして、様子を伺ってみる。普段なら任務が終わるとすぐにウォルターの元に帰ってしまうのだが、どういった了見だろうか。
    「こちらも終わった。しかし珍しいな、戦友が待っていてくれるなんて」
    同じように外に顔を出して一呼吸してからコックピットの上に這い出ると、これまでの癖で手が勝手にライターと煙草を探してしまう。戦友の前で吸わないと決めたというのに、身体は正直だ。
    「うん、ラスティと一服しようと思って。いる?」
    「は?」
     固まる私を無視してスティールヘイズへと飛び乗ってくる戦友。胸ポケットから出した箱には……見覚えがあるぞ、確かあれはアイスワーム討伐の合同ブリーフィングの時に…レッドガンのG5が吸っていた銘柄!! ちょっと待て待ってくれ! 先日副流煙で死にかけていた戦友がなぜ煙草なんか持って? しかし様になっていてこれもこれで色気が…いや違う!よりにもよって私ではなくG5と揃いの…違うそうでもない! 待て待て待て待て戦友近い近い!『あーん』ではないが! くそっ、やめてくれそんな、抗えな…
    「……お菓子?」
    「あはは、引っかかったね、ラスティ。ココアシガレットだよ」
    控えめな口をいつもより大きく開けて笑う戦友を、ぽかんとして見つめる。口に突っ込まれたシガレットを無言でぽりぽりと食べ進めると、それも面白かったのか、けらけらと笑い声が聞こえた。
    ⦅レイヴン、レイヴン、見ましたかV.Ⅳの顔!⦆
    ――うん、見た。ラスティのあんな顔、初めてだよ
    ⦅ああいう顔を昔の言葉で『鳩が豆鉄砲食った顔』と言うらしいですよ。鳩という存在は知りませんが、こういう間抜けな顔だったんでしょうね⦆
    ――エア、性格変わってるよ?
    ⦅おっと失敬、ではレイヴン、そろそろメインイベントに行きましょうか⦆
    ――了解。
    「ふふ、ラスティ、ごめんね。最近スケジュールが合わなくて会えなかったから、少しでもお話したくて、ウォルターに言ってお茶と軽食を持たせてもらったの。こういう休憩のこと、一服するって言うんでしょ?」
     はいこれラスティの分、と渡されたサンドイッチを受け取って、ラスティは使い捨てのコップに慎重に注がれるお茶と悪戯な烏を交互に見やった。
    「戦友…いくつか聞いてもいいかな」
    「うん、どうぞ」
    「…まず。どうしてこんなことを?」
    「最近、気になった言葉を一つずつ調べてるの。そしたら煙草を吸う人達の言う『一服する』って言葉に『お茶を飲む短時間の休息』って意味があったから、煙草を吸う人に一服どう?って言ったらどう反応するのかなって」
     種明かしをする戦友をちら、と見ると戦友はコップで口許を隠しても目尻が下がりっぱなしだ、本当に子供の戯れのつもりなのだろう。ならば。
    「しかし君も人が悪いな。私がいるのにG5と懇ろな関係を匂わせるなんて」
    「? どうしてイグアスが出てくるの?」
     澄み切った目で逆質問をしてくる戦友に対して照れを隠すように手にしていたサンドイッチに齧り付く。邪な考えをした自分が恥ずかしくなるほどの純粋な目だ。戦友曰く、最近レッドガンの購買にココアシガレットがたくさん並ぶようになっていたのでこの『一服』に掛けた悪戯を思いついた、精度を上げるために偶然通りがかったG5に煙草の空箱を貰い、菓子の中身を詰め替えたのだという。残念だったなG5、戦友の横は私が貰ったぞ。
    「…それと、もう一ついいだろうか」
    生理現象で溢れてくる涙をぐしぐしと拭って、呼吸を整える。
    「この辛すぎるサンドイッチはハンドラーお手製かな…?」

    ――――

     まさかハンドラーがこんな子供のような嫌がらせをしてくるとは思わなかったが、これもまぁ僥倖というものだ。ぺこぺこと謝る戦友に、交換条件だと言って次のデート…共同任務の約束を取り付けた。
    「帰ったらウォルターに言っておく。ごめんね、ラスティ」
    「いや、気にしないでくれ。ハンドラー⦅お義父さん⦆によろしく」
     誰がお義父さんだ、と渋い声が聞こえるが、男の人生には得てして恋人の父親が立ちはだかるものだ、越えて見せようじゃないか。
     ブーストを噴かせて帰投していく戦友を見送ってから、彼女のくれたシガレット入りの箱を開く。『禁煙がんばってね』と拙い字で書かれたメモをコックピットの一等席に貼り、帰ったらいの一番にシガレットを中途半端に残っている自分の煙草の箱に入れ替えようと決めて、作戦領域を離脱した。オキーフには、どこから話してやろうか。口角が上がるのを抑えきれない自分がいた。


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