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    eri_fdgk

    @eri_fdgk

    松/一チョロの小説を書きます。

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    まだまだBL初心者の私が、「BLのラブラブカップルにありがちなシチュエーションをいっちょろに落とし込む」をテーマに、いろんなパターンの小話を書いていきます。

    嘘つきとささくれ「それは俺が着ても意味ねーだろ」
     一つ上の兄は嘘がつけない。その強い語調とは裏腹に、チョロ松は寂しそうな目でポツリと呟いた。否定はして欲しいけれども、同時に、否定して欲しいわけではない。肯定されたいわけではないけれども、緩やかに肯定された方がホッとする。一松と同じく、どこか自分に自信がない兄は、そんな前向きな後ろ向きを望んでいるようだった。
    「……まあ。そうだね」
     だから一松は、ゆっくりと頷いてから、あまり感情を込めずにそうこたえた。
     言わされた台詞ではあるが、決して全部が嘘というわけでもない――そういう一松の心の内を感じ取ったのか、チョロ松はやっぱり傷付いた顔をしているし、どこかホッとした顔もしている。相変わらず考え方がややこしくて、結局お前はどっちなんだと言ってやりたい。自分が言うのもなんだが、とても扱いにくい面倒な人だ。

     きっかけは昨夜、なんとなく暇つぶしに観ていた深夜番組だった。世の中のカップルにアンケートを取って、それをランキング形式で紹介するという、所謂自分たちには無縁の番組だ。いや、自分たちだって実は〝カップル〟ではあるのだが、世間一般でいうところのカップルに非ず。誰にも内緒の恋人であり、そんなにワクワクするようなはしゃいだ間柄ではない。例えこの人や自分の内心がどうであっても、だ。
     そう、いや、つまり。本音を言ってしまうと、本当はこんな番組を気まぐれでつけたままにするくらいにははしゃいでいる。少なくとも自分は。そして、それを止めずに、チラチラと気にしながら観ていたこの人も、内心は自分と同じなんだと思いたい。
     閑話休題。番組の中盤、倦怠期の盛り上げ方についてのランキングの中で、色っぽい下着を着けるというものがあった。いかにも深夜番組らしい下世話なトークが繰り広げられる中、自分もその空気に当てられて、きっと調子に乗っていたのだと思う。半分は兄弟のからかいくらいのテンションで、「お前も穿いてみたら」と言ってしまった。軽く怒られたり、笑い飛ばされたりして、あっさり流れた話題だとその時は思っていた。
     それが一晩明けて、二人になって、冒頭のやりとりに至ったというわけだ。どうやらチョロ松の方は、この件についてじっくり一晩考えていたらしい。

     確かに、自分とほとんど変わらないこの体が、そんなものを着けてもきっと似合わないと思ってしまうだろう。テレビで言われていたみたいに、それで何かが盛り上がるとは思えない。透けているパンツ? 紐のようなパンツ? 自分たちにはあり得ない。そんなものはテレビの向こう側の話だ。
     大体、素人が真面目な顔をして着用すること自体が、滑稽なシチュエーションにしかならない気がする。それなのに、世の中の普通のカップルは頭がいかれているのか、途中で我に返らないのか、そんなことで興奮出来るらしい。自分には友達がいないので、それが普通なのかどうか確認も出来ないけれども。

    (あ……)
     気まずい沈黙の中、不意にチョロ松を見ると、ハの字眉毛とへの字口がいつもより急角度で垂れていた。目こそ赤くなってはいないが、なんとなく泣き出す二歩手前のような、そんな空気が滲み出ている。こんなにも当たり前の話をしているのに、チョロ松はどうやら悲しいらしい。
     一晩も思い悩んでしまうほどに、こんな馬鹿げた話を彼は重く受け止めてしまっているようだ。これは一体、似合わなくて意味をなさないことが悲しいのか、一松にそう思われているのが悲しいのか。
    (いや同じ意味か……。同じ意味?)
     一松はポケットに手を突っ込んで、チョロ松の目を下からじっと覗き込んだ。伏せられたまぶたの隙間から、不安そうな小さな黒目が揺れている。何故だかそれが見てはいけないもののように思えて、不意にドキリと心臓が跳ね上がった。
     リア充たちの下着の件は、自分には荷が重くてやっぱりよくわからない。しかし、この兄の気持ちの動きには、何故か今突然ぐっときた。
     〝色っぽい下着を着る〟ということは、もしかしたら下着本体がメインなのではなくて、それに付随する諸々が大事だということなのだろうか。それ自体ではなく、工程を楽しむものなのだろうか。そういうことであったのなら、一松にもなんとなくわかる。今突然霧が晴れたみたいに、いろんなことを理解した。
     たぶんこれは、チョロ松にはわからない感情なのだろう。わからないから泣きそうな顔をしていて、自分がこれをわかるのは、こいつと違ってドメスティックパリピだからだ。

    「やっぱり着る?」
     ポケットから手を出して、一松はチョロ松の右頬を親指で擦った。ザラザラに感じるのは、自分の手が乾燥しているせいだろう。爪の横側のささくれが引っかかったのか、チョロ松の頬にうっすらと白い線が入った。
    「……どうやって買いに行くんだよ」
     チョロ松は口を尖らせながら、頬の手をパチンとはたき落とした。怒っている風な顔をしているが、今度は声のトーンも手の力も全然強くない。その目がどこかホッとしているようにも見えて、一松も心の奥底でホッと息をついた。

    「どうって……痛っ」
     返事をしようとしたら、親指にチクリと痛みが走った。どこから取り出したのか、いつのまにか、チョロ松が愛用の爪切りを構えている。よく爪を切っているので、たまたまポケットにでも入っていたのかもしれない。弟のささくれが余程気になったのか、相変わらず世話焼きで、こういうところは兄というよりも少し母親の空気を感じる。
    「じっとして」
     有無を言わさぬその声と共に――すぐにパチンと音がして、チョロ松は一松のささくれを綺麗に取り除いた。
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