24年目の誕生日「あぁ〜楽しかったぁ〜」
「にしたって飲みすぎだ、ほら水。」
それなりに酒には強いコイツがここまで羽目を外すのは珍しい。
そう思いながらグラスに水を注いで手渡した。
年に一度の誕生日。
自分が生まれた日が大概定かではない俺たちには祝う習慣が無いのだが、人間であるコイツは別で。
それに合わせてプレゼントでも、と真珠と二人で持っていってみれば、双子の魔法使いとサボテン(鉢ごとで動いてはいなかった)とでケーキを囲んでいた。
邪魔をしては悪いと去ろうとしたが、せっかくだし人は多いほうが楽しいと言われ巻き込まれ。
そのうち俺たちと同じようにやってきては巻き込まれる人物が増え、気づけば宴会になっていた。
ドラグーンの姉弟に、獣人の僧兵と騎士にその他大勢。
知らない顔も多かったが、いずれも俺たちと同じようにコイツに大きく縁があったらしい。
そんな話をしながら、飲んで食べて、祝って。
双子の魔法使いは夜もふけてきて先にリタイアし一部は帰宅、それから成人(?)だけでの酒宴となったが本日の主役も潰れかけた頃に流石にお開きとなった。
俺たちも帰ろうかと思ったが、覚束ない足取りのこいつをそのまま放っておくわけにも行かず、階段を上がってベッドに転がしたというわけだ。
何せ俺たちは酒に酔うことがない。
飲めるし美味いまずいという感覚はあるがそれだけで、そのせいで飲みすぎて前後不覚になるということもない。
「あんがとなー、瑠璃〜。」
グラスを受け取り、それを干したコイツは一度起こした体をまたベッドに沈ませる。
ぼすん、と音を立てて倒れ込んだコイツはいやにごきげんだ。
「あぁ~、ちょっと飲みすぎたかも??」
「かもじゃなくて飲み過ぎだろ。」
確かにあの猫獣人…ダナエといったか、彼女が持ってきてくれた酒は美味かったが、それ抜きにしてもペースが早かったように思う。
「涙石って二日酔いにもきいたりする??」
「アホか!仮に効いたとしても、そもそもそんなくだらん理由じゃ誰も泣くわけないだろ。」
普段以上に緩んた顔でにへにへと笑いながら言う頭を軽く叩けば、痛いと言いながらもその顔は戻らない。
どれだけ楽しかったんだと思った瞬間。
「いやー、こんな大勢に祝ってもらったの、初めてでさ。めっちゃ楽しかった。」
去年まではこの家、サボテンくんと僕しかいなかったし。
そう続けられれば一瞬言葉に詰まる。
その目はほんの少し寂しさを宿していたから。
「…じゃあ来年も、また祝いに来てやるよ。」
「…ホント?」
思わず言えば今度はその目がまぶたを無くす。
「珠魅にとっちゃ人の一生なんてあっという間だ。お前が死ぬまで毎年来てやるさ。」
「…そっかぁ、毎年かぁ…。」
しんみりとけれど隠しきれない喜色の混ざった声音。
そこに普段の人をくったような姿はない。
けれど。
「じゃあ、次のプレゼントはおすすめの酒がいいなwww」
「うるせぇ、早く寝ろこの酔っぱらい!」
こんな状態で尚おかわりを要求してくるコイツに、次も酒を選ぶのはやめようと誓った。