薔薇の木『要くん』
僕を呼ぶあの人の声が好きだった。
『どうしたのですか?』
いつも穏やかに僕を見守っていてくれた。
「月村先生…、どうして…っ」
どれほど泣いても涙は枯れることはなく、あの人が戻ってくることもまたないのだ。
ねぇ、月村先生。いつか僕がそちらに行ったら、あの薔薇の木で逢瀬をしましょう。
そうして僕は言うんです。
『櫻の木の下には死体が埋まっているんですって。では、この薔薇の木の下には何が埋まっているんでしょうね?』
きっとあなたは驚くでしょう。
『死体が埋まっているのは薔薇の木の下ではないでしょうか?』
そうして、薔薇だ櫻だと言い合って、最後にはどちらにも埋まっているのかもと落ち着くんです。
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