薔薇の木『要くん』
僕を呼ぶあの人の声が好きだった。
『どうしたのですか?』
いつも穏やかに僕を見守っていてくれた。
「月村先生…、どうして…っ」
どれほど泣いても涙は枯れることはなく、あの人が戻ってくることもまたないのだ。
ねぇ、月村先生。いつか僕がそちらに行ったら、あの薔薇の木で逢瀬をしましょう。
そうして僕は言うんです。
『櫻の木の下には死体が埋まっているんですって。では、この薔薇の木の下には何が埋まっているんでしょうね?』
きっとあなたは驚くでしょう。
『死体が埋まっているのは薔薇の木の下ではないでしょうか?』
そうして、薔薇だ櫻だと言い合って、最後にはどちらにも埋まっているのかもと落ち着くんです。
ねぇ、そんな未来(あした)を、夢見てはいけませんか?
二人で薔薇の木の根本に座って、寄り添ってただ過ごす。
たとえその下に何が埋まっていようとも。
その時を待ち焦がれて、僕は生きていきます。
貴方は僕の唯一でした。
今までも、これからも。
だからねぇ、月村先生。そんなに長くはお待たせしないかもしれません。
なんだか、そんな気がするんです。
だからその時はどうか、また優しく迎えてください。
貴方が迎えてくれると思えば、きっとそちらに行くのも怖くはないから。
これから幾夜も、貴方を思い出して泣くでしょう。
けれどそれは、それほどまでに貴方が僕の唯一だからという証のようなもの。
もしも向こうで逢った時に僕が泣いてしまったら、その涙を拭ってくださいね。
そのくらいは、してくださってもいいでしょう?
僕を置いて逝ってしまったのだから。
「月村先生…、月村先生…っ」
貴方のいない現実は、ずいぶんと寒いです。
僕はただ、貴方に逢いたい……。