現代だということはわかるけど見覚えのない浜辺で目覚めたテ、寂れきった港町のシャッター通りの近くのアパートに住まわらせてもらうことに。
身分証はおろか現金もなく、バス停からバス停をトボトボ歩いていたところに声をかけたのは、金髪長身の身ぎれいな、顔の端正な若い男だった。
豆腐屋をしていた祖父を看取りに帰ってきたと話す彼。ねっとりと肌にまとわりつく潮風に生臭い魚の饐えた匂いが漂う町の陰鬱さに、およそ似つかわしくない爽やかな好人物。記憶がない事を話したら、痛く同情してくれた。花が綻ぶような笑顔に射抜かれるテ。
バイト先はもちろん、何から何まで大家である彼が世話を焼いてくれる。ウォ口と名乗った彼とは、歳が近い事もあって、お裾分けのビールとご馳走をいただくうちに、すっかり打ち解けていった。古い業務用冷蔵庫の奥で冷えたビールが、肉体労働で疲れ切った体と心に沁みるが、何もお返しする物がなく気後れする。
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