現代だということはわかるけど見覚えのない浜辺で目覚めたテ、寂れきった港町のシャッター通りの近くのアパートに住まわらせてもらうことに。
身分証はおろか現金もなく、バス停からバス停をトボトボ歩いていたところに声をかけたのは、金髪長身の身ぎれいな、顔の端正な若い男だった。
豆腐屋をしていた祖父を看取りに帰ってきたと話す彼。ねっとりと肌にまとわりつく潮風に生臭い魚の饐えた匂いが漂う町の陰鬱さに、およそ似つかわしくない爽やかな好人物。記憶がない事を話したら、痛く同情してくれた。花が綻ぶような笑顔に射抜かれるテ。
バイト先はもちろん、何から何まで大家である彼が世話を焼いてくれる。ウォ口と名乗った彼とは、歳が近い事もあって、お裾分けのビールとご馳走をいただくうちに、すっかり打ち解けていった。古い業務用冷蔵庫の奥で冷えたビールが、肉体労働で疲れ切った体と心に沁みるが、何もお返しする物がなく気後れする。
気後れする理由はそれだけでない。錆びたパイプ椅子に腰掛ける彼は、いつ見ても木立のように一本筋が通っていて、困り事はないですかと訊ねる声音は葉擦れのように耳をくすぐる。困った事といえば大家さんが目の毒な事くらいです、と無言で俯くテ。
クリスマスイブだろうが何だろうが商店街は5時で店を閉める。塾帰りの子供が騒ぐ時間帯から、二人で飲んだ酒が進み過ぎた。もう一興に身を委ねてみませんかと誘われて一線を超える二人。しかし目覚めたら夜通し愛し合った人の姿は消えていた。布団の残り香と暖かみをたしかめて、二日酔いで痛む頭を抑えたら、ウォ口さんの憔悴しきった表情が浮かんできてーーーっていう
(実は豆腐屋のおじいちゃんは認i知症が進んでしまってて後日このウォ口さんが大家でもなんでもないことが判明する)