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    移雨(いあめ)

    @iame_Eame

    移雨(いあめ)です
    今はスプラ絵描き兼スピナー愛好家
    ※スプラのステージの擬イカ/タコ化も描きます

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    移雨(いあめ)

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    【ステ擬】
    以前から書いてみたかったお話です。ステさんってどんな生き物?って話をちょこっと含んでます。お暇な時にちょこっとお読みいただけたら嬉しいなあという限りです。

    一つ所に生まれるもの誰の目にも入らず、ひっそりと隠れるように。
    バンカラ街の片隅に、それはある。


    ―――


    「…………?」

    なんの因果か、この日はそれに目を留めた青年がいた。

    それを一言で表すのであれば、小さな門のような形をした、古い木製の建造物である。
    色褪せてはいるが、もとは鮮やかな赤色の門だったであろうことが窺える。

    門に扉はなく、その奥には屋根のついた木の箱のような……


    「おいマサバ、そっちはダメだ。行くぞ」


    それに足を向けようとした青年を、少女が呼び止める。


    「え? あぁ、うん、ごめん」


    青年は少女を追いかけるように歩き出した。


    ―――


    薄暗い道をしばらく歩いたところで、少女が話し始める。


    「ハイカラもんでも分かんだな、やっぱ。他のヤツらにも言っとかねェと……」

    まずいな、という表情。

    「ゴンズイちゃん、あれは何?なんか近づいたらいけなかったかな?」

    首を傾げる青年に、少女は頭を搔きながら言葉を探すように語っていった。

    「あれは……なんつーか、アタシらと同類だけど、『上』のもんだ。上位互換ってェの?」

    「上?」

    「あぁ。アタシらよりよっぽど旧くて、よっぽど強い。どんなもんなのか詳しくは知らんが、近づかないのが利口ってもんだろうよ」


    肩をすくめる少女。


    「も、もうちょっと情報くれない? なんか怖いんだけど……」

    青年はやや怯えた様子で早足になり、前を歩いていた少女に追いついた。

    「あん? しゃーねェな……オメーもここいらを出歩くこともあるだろうし、話しとくか」

    少女は青年を軽く睨みつけ、面倒臭そうに話し出す。


    ―――


    「オメーはよ、自分とかアタシみたいなヤツらのことをなんだと思ってる? アタシらはどうやって生まれた?」

    「えっ? うーんと、生まれ……?」

    想定外の質問だった様子で、青年は言葉に詰まる。


    曲がり角を曲がると、先程までより人通りの多い、開けた道に出た。


    「異質だろ? アタシらにゃ親兄弟もいねェ、なんなら身体は成長もしてねェし、普通の生き物じゃねェのは確かなはずだ」

    「ああ、それはそうだね、うん。なんとなく、バトルステージに集まった人の思念体? みたいなのが生き物の形をとったのが僕らなのかな~っていう認識はあるよ」


    正面から歩いてきたクラゲの一団をなんとか避け、はぐれないよう少女の隣に戻っていく青年。


    「へえ、スカしてばっかのハイカラもんにしちゃいいとこ突くじゃねェか。アタシもだいたいその認識だよ」

    少女はニヤリと笑い、どこからか取りだした炭酸飲料の蓋を開ける。

    「あれも似たようなもんだ、多分。バトルステージなんてちっこいハコじゃなくて、もっと広い土地単位での話だろうけどよ。アタシらとは比べ物にならんくらいの人の思いが集まってできた『何か』が、あの門の中……正確には、奥にある木の箱の中に住んでんだろうなって気がすんだよ」

    「えーと? うん?」

    理解が追いついているか怪しい青年をよそに、一口の炭酸を挟んで、少女の話はそのまま続く。

    「……アタシらは同類だから感知できるっぽいが、普通のヤツらはあそこに何かがいるなんて気づかねェし、何でか知らんがそもそもあの門をうまく認識できねェみたいな節がある。好奇心でいっぱいのガキンチョ共ですら、誰一人近づいてるのを見たことがねェんだよ」


    君もそのガキンチョみたいな歳に見えるんだけどなあ、と青年は思うものの、口には出さない。


    「バンカラで生きてるヤツらが巻き込まれないなら、これ以上気にする必要もないっちゃあないけどな。だが……」

    少女の表情がやや曇る。

    「バトルステージに集まる思いなんて『バトルが楽しい』とかそんなもんがほとんどだろうが、特に決まった目的もない、土地そのものに集まった思いなんてどんなもんかさっぱり見当もつかねェ……あそこに住んでるのが、強い怒りとか恨み、悲しみの集合体って可能性だってあんだよ」


    「怒り、恨み、悲しみ……かあ? うーん……」


    納得のいっていない様子の青年。


    二人の歩く道の先には一際目立つ建物が見える。一階はバトルロビーがあり、多くの若者が集まっている。


    「まあお気楽なインクリングにゃ無縁に思えるよな? しかしよ」

    今度はまた薄笑いを浮かべ、青年の顔を見上げる。

    「ありゃアタシが見る限り、いつからあるか分かんねェくらい昔からあるぞ? ひょっとすると、イカが地上に上がるもっともっと前、大昔の別の生き物が地上で繁栄してた時代から……」

    「大昔の……」


    青年はその可能性について一瞬思考を巡らせてみたようだ。


    「いやいや、まさかぁ……? だってどう見ても木造だったよ? あれ。そんな昔の建造物が残ってるわけが……」

    「わっかんねェぞ? 強ェ力を持ったやつの棲家だったら、木だろうとなんだろうと劣化せずに残ってるかもだろ」


    そんなことを言い合ううちに、二人はロビーの前に到着した。


    少女はここで立ち止まり、青年を指差す。

    「とにかくだ。あれは得体が知れねェ。そもそも今も生きてんのか、アタシらの存在に勘づいてるのか……アタシらをただ見守ってんのか、危害を加えようと狙ってんのか、なんも分かんねェんだ」


    一呼吸置いて、警告するように静かに告げる。


    「だから、できるだけ近づくな、何もするな……分かったか?」


    青年は少女の鋭い視線に思わず身を竦める。


    「わ、わかったよ……他の人にも、まあ僕の話せる範囲で言っておくから。よそ者の僕よりゴンズイちゃんが言った方が説得力高そうだけど……」


    それを聞き、ふっとその視線を緩める少女。


    「そうそう、分かりゃいいんだ、分かりゃ」


    そのまま何事も無かったかのようにロビーへと入っていく。


    「よォし! くっちゃべってたら喉乾いたな、オメーなんか奢れや! 授業料だ!」

    「えーっ さっきなんか飲んでたじゃん、あのジュースどこやったの」


    ―――


    バンカラ街の片隅に、それはある。
    何も言わず、誰とも関わらず、ただそこにあるだけ。


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