プチ新刊③テーマ【跡】 目の前をボールと子供が通り過ぎて行った。一郎が歩いていたのは歩道で、子供が向かった先は道路で。後ろからは車の音。誰がどうなってしまうかだんて、簡単に想像がつく。
そうはさせないと一郎は子供に向かって手を伸ばした。その一郎を、背後から、誰かが抱きしめて止める。
「落ち着けって」
「は……」
子供は道路の端でボールを捕まえていた。その寸前で車は止まっている。きっと運転手は子供の動向がきちんと見えていたうえで止まれたのだろう。
「お前今自分からぶつかりに行っただろ」
「そん……そんな、の、してねえ」
「俺から見ても車は止まりそうだった。だからと言って道路に走っていく子供をそのまま放っておけねーけど、子供は無事。車は止まった。でも、お前は、子供を守るために身代わりになろうとしただろ」
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