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    2022.12.18 CLB22内覚ます恋 一途な想い5
    サマイチプリオンリーにて発行の新刊そのさん。
    自カプ数字31冊目記念本として「跡」をテーマに書いたサマイチです。
    一郎君が色んな人と同居して自分を知っていくお話。
    ゲスト4名の方に来ていただいております!どの作品も素敵!好き!
    A5/ページ数未定/年齢指定

    #サマイチ
    flathead

    プチ新刊③テーマ【跡】 目の前をボールと子供が通り過ぎて行った。一郎が歩いていたのは歩道で、子供が向かった先は道路で。後ろからは車の音。誰がどうなってしまうかだんて、簡単に想像がつく。
     そうはさせないと一郎は子供に向かって手を伸ばした。その一郎を、背後から、誰かが抱きしめて止める。
    「落ち着けって」
    「は……」
     子供は道路の端でボールを捕まえていた。その寸前で車は止まっている。きっと運転手は子供の動向がきちんと見えていたうえで止まれたのだろう。
    「お前今自分からぶつかりに行っただろ」
    「そん……そんな、の、してねえ」
    「俺から見ても車は止まりそうだった。だからと言って道路に走っていく子供をそのまま放っておけねーけど、子供は無事。車は止まった。でも、お前は、子供を守るために身代わりになろうとしただろ」
     声に一郎は何も言えない。その通りだったからだ。子供の腕を引いて、自ら身代わりになろうとした。死のうとしたわけではない。ただ、生きようともしなかった。
     幸いだったのは道路の端で子供がボールを捕まえた事。車が子供に気付いて止まったこと。けれどもし道路の中までボールが転がっていたら。飛び出す子供に運転手が気付かなかったら。一郎を抱きとめる人が居なかったら、もしかしたら、一郎の命は今この瞬間で尽きていたかもしれない。
    「お前、生きていけなくなっちまったんだなあ」
     哀れみでも同情でもない。一郎を客観的に見た素直な感想が漏れ出た声。
    「よし分かった。一郎、俺をしばらくお前んちに泊めてくれ。あっ家無しだからお前にたかろうとしてんじゃねえよ? 金はまあ……手に入った傍から出てくから払えねーかもだけど……でも気持ちだけ払う気はある……つーわけで、よろしく!」
     ニカッと笑って言う帝統の言葉に一郎はぽかんと口を開けた。
    「は?」


     *


     着の身着のまま生きている帝統はその日のうちに萬屋ヤマダへやってきた。許可を取って二郎の部屋での寝泊りもすんなり決まる。
    「あんまし散らかすなよ」
    「わぁかってるって。つーかそもそも家に居る時間も少ないと思うしな。朝からシブヤで頼まれてる雑用こなして、メシと寝に帰ってくる感じだと思う。つーわけでメシ、よろしくな!」
    「……はあ」
     どうしてこんなことに。けど、不思議と、追い出す気持ちは湧かない。
     二郎と三郎はそれぞれの進路のため山田家から出ている。巣立ち。さみしいの気持ちと、応援の気持ちが一郎の中で今でも渦巻いている。そんな中でひとり生きていたから、久々に人の世話が焼けることで追い出す気が湧かないのかもしれない。
     ひとりだったので食事は適当になっていたし、冷蔵庫の中もまちまちだった。それが帝統がしばらく住むということで帰りに食材を買い込み、おかげで冷蔵庫は綺麗に埋まってくれた。
    「弁当要るか?」
    「えっそこまでしてくれんのかよ~! 神様仏様一郎様! ありがてえ、もらうぜ!」
     そうと決まれば翌日の弁当の内容も考えての夕飯作りとなる。
    「おにぎりとかのがいいか?」
    「ありゃなんでも助かる」
    「うーん。嫌いなもんは?」
    「ない!」
     元気よく返されて、つい偉いなと褒めそうになった。やはり一郎は人の世話を焼かずには居られない。夜は焼きそばを大量に作り、翌朝おにぎりと焼きそばと卵焼き、トマトを入れてやると決める。もちろん夕飯に焼きそばだけではさみしいので、汁物と――献立を考えてる一郎を見て、なるほどと帝統は小さく頷いた。
     帝統がイケブクロに居たのはシブヤからとあるイケブクロの人物へ物を運んでほしいと頼まれたから。それで今ある借金を失くしてやると言われて喜んで運んだ、その帰り。対面から歩いてくる一郎を見かけて、全く知らない人間ではないしと声をかけようとしたところで帝統の前をボールと子供が横切った。帝統からは急ブレーキをかけた車が見えていて、ボールもすぐに子供が捕まえられる距離だし、けれど万一を考えて子供の腕を引いておくかと腕を伸ばした。よりも早く一郎が子供に腕を伸ばしていたのだが、その腕を引くよりも子供自体をかばって代わりに、あえて、怪我を負おうとしているように見えて、咄嗟に一郎を抱き留めていた。
     ただ歩いているだけだったとも言えるがその時の一郎は明らかに生きようとしていなかった。死のうとしたわけじゃないけれど、生きようともしていない。でも帝統の世話を焼くことになった一郎の様子は、どこか弾んでいるように見える。
     なるほどと思った。一郎に必要なのはこうやって、つい尽くしてしまうような人なのかと。
     一郎の作った夕飯を食べ、先の入浴を促し、その間に食器を洗っておく。帝統はお金をもらうべく働いているのではなく、元ある借金の返済のために働いている。だから一郎にお金を渡せる確証はない。なのでこれくらいはと思ってやったのだが、ただ食器洗いをしただけなのに一郎はやわらかく笑って「ありがとう」とお礼を言った。なるほど、世話を焼かれるのも心底嫌というわけでないことが分かった。
     その日から帝統と一郎による奇妙な同居が始まった。朝はどちらも同じような時間に出ることが多かったので朝食を共に食べる。一郎自身の弁当はまちまちだが、帝統には必ず弁当を持たせてくれた。帰ってきて、一緒に食べられれば夕飯を共にし、一郎が先に帰宅なら当然夕飯は用意されていた。帝統が先に帰宅と分かっている日は鍵を預けられて「まじかよ……」と一郎の気を疑ったが、帝統がギャンブラーと分かっていても人の家からお金を盗むような人ではないと信頼は心地よかったのでなにも言わないでおく。その通りであるし。
    「へえ、シブヤで萬屋みたいなことしてるんだな」
    「つってもまーじの雑用だけどなー。お前みたいに幾らで承りますじゃなくて、元ある借金返済のためだから賃金も発生しねーし。たまに色付けてくれる奴もいるけど」
    「ふーん。じゃあ、俺の仕事手伝ってくれねーか? もちろん給料は払う」
    「いいのかよ、やるやる! 何すんだ?」
    「張り込み。ただ夫婦両方から同時に浮気調査されちまって、人手が欲しかったんだよ。じゃ、頼むな」
    「任せろって」
     夕飯を終えて一郎が先に入浴、その間に帝統が食器を洗っておく。一郎が上がってから帝統が入浴し、その間に洗濯機が回る――そんな日々を過ごしていた。



    「なんで! 僕に! そんな面白い事! 黙ってやってるの⁉」
    「わ、悪い。お前のチームメイトを勝手に」
    「もー! そんなので怒るわけないでしょ⁉ 僕の好きと好きが面白い事やってるのはいいんだけど、僕がのけものなのが許せないだけー! で、どうしてそうなった?」
     帝統も一郎も珍しく何も予定が無く、一郎の部屋でくつろいでいる時だった。一郎がおすすめのラノベを帝統に渡したところ、夢野という小説家が近くにいるおかげか活字を追うのは苦ではないらしく、素直に読んでくれた。そのラノベが元になったアニメ鑑賞会が開かれようとしたところでインターホンが鳴ったので応答してみると、どこから聞きつけたのか乱数の来訪だった――というわけだ。ひとまず元居た一郎の部屋に通す。
    「こいつが生きようとしないからよ」
    「お、おい、帝統」
    「なあにそれ?」
     乱数の疑問はもっともである。きょとんと首を傾げる乱数に帝統は洗いざらい話した。一郎の前で隠すという選択肢もあったけれど、生きようとしない一郎を繋ぎとめるものは多い方がいいだろうと判断してだ。
     帝統は特に一郎に思い入れがあるわけではない。断然大事なのはポッセである。けれど、認めてはいる。実力の高さも、かつて乱数とチームを組んでいた者としても。だからこうして行動したわけだが、帝統でこうなのだから、元チームメイトである乱数が黙ってるわけがない。
    「……帝統との同居生活終わり! 今度は僕と一緒に住も!」
    「んえ?」
     今度は一郎が疑問を持つ番だった。そんな一郎を置いて乱数は帝統と話を進める。
    「おい待てよ、じゃあ俺の家はどうなるんだ⁉」
    「いやここお前の家じゃ……」
    「帝統、僕とこうたーい! はい僕の事務所の鍵」
    「お、さんきゅー」
    「いやそれで済まねえだろ?」
    「じゃあな一郎、おまえとの生活楽しかったぜ! また来るわ!」
    「じゃあねー帝統! さて一郎、今度は僕の番だよ!」
    「まじかあ」
     まあ冷蔵庫の食材は無駄にならずに済みそうだし、帝統と乱数の当人たちがそれでいいなら一郎はさして困らない。二郎に泊まる人物が帝統から乱数になったことだけ報告すると「おもしれーことになってんね! 俺の部屋好きに使ってくれていいからさ、次誰か来た時も教えてね~」などと返ってきた。次はもう無いと思いたい。
    「さあて、僕の一日を教えるね? 事務所に詰める時間はその時の作業量によってまちまちだから分かり次第スケジュール伝えていくよ。なるべく朝夜一緒に食べたいけど、変則的になると思うから無理に合わせなくて良いからね。そして僕が朝から事務所行く時はぜーったいお弁当作ってね! 絶対!」
    「お、おう」
     帝統に作っていた弁当のなにがそんなに乱数をそそるのか一郎には分からなかったけれど、そこまで熱く言われて断る理由も無い。
    「なんでそんな……」
    「それはねえ」
     漏れ出た疑問に乱数はふふんと答え始める。
    「一郎はたくさんの人間に触れた方がいいよ」
    「……うん?」
     職業柄乱数の言うたくさんの人とやらには触れているつもりだ。それに、一郎の疑問はどうしてそんなに弁当に固執するかにあった。けど乱数は、どうして乱数も泊まることになったのか一郎が疑問を持っていると解釈したようだ。
    「依頼とかビジネスじゃなくて、プライベートで一緒に居る人間。一郎はどんな人と居ると過ごしやすいのか、まだ分かってないでしょ?」
    「……まあ?」
     言われてそうかも、とは思う。依頼として、仕事としてはたくさんの人と触れてきた。二郎と三郎は家族だったので過ごしやすいもなにも関係なく好きであった。しかし家族以外でどんな人間とプライベートを過ごしやすいか聞かれると、弱いものがある。
    「だから次は僕。帝統と違うタイプと暮らすことでなにか見えてくるものがあるかもでしょう?」
     乱数の言葉に今度はしっかり一理あると思えた。けどやっぱり疑問は湧く。どうしてそこまでしてくれるのか。一郎の疑問は顔に出ていたようで、乱数は笑った。
    「一郎にねえ、幸せになってほしいからだよ」
     そう言う乱数の顔は裏表のない、素直な気持ちを表していた。

    (後略)
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