冬・雪の情景 白く塗りつぶされた景色が珍しく、冷たい雪の積もったトピアリーを眺め歩いた。
この寒い中、酔狂とも言える散歩をしている者はほとんど居なかった。すっかり冷えてしまったとミトンに包まれた両手をすり合わせると、
「冷えてしまいましたね」
戻ったら、熱い紅茶を淹れましょう。と従者が囁く。
その声に頷きかけ、パトリックは彼の薄手のコートの袖から覗く手を取った。
「パトリック様?」
怪訝な顔をするリッキーの手はレースのグローブに包まれてはいるが、そんなもの、あって無いようなものである。明らかに赤くなった指先に自分の体温を移すように包みこみ、そっと息を吹きかけた。
***
「乾燥してはいけないわっ」
ルゥはルイーズに言われるままに絹張りの椅子に腰掛け、落ち着かぬ尻をモゾつかせていた。
朝起きて、外出し、眠る前。
日に日に三度もルイーズはルゥの顔にクリームを塗らせた。
ルイーズの手では黒く煤よごれてしまうので、ああしろこうしろと手ほどきをしながら成人の権限で取り寄せた、甘いミルクの匂いがする滑らかなクリームを塗らせている。
「冬は特に、気をつけないとっ」
手や足にヒビが切れるのは構わない。けれどこのきれいな顔にカサつきが見えるのだけは我慢がならないのだ。
***
しんしんと。しんしんと。
「もうカーテンを閉めますよ」
音もなく降り積もる雪を見ながら窓辺から離れようとしない主人に、ショーンはそろそろベッドに入って頂きたいものだと密かに息を吐く。
明々と暖炉の燃える部屋でも、窓際は冷える。
行火を入れたベッドはさぞや快適だろうに、ジョンは暗い空から降っては消えていく雪を眺めている。きっと、明日は朝から外へ飛び出して行くだろう。
厚手の外套と手袋、雪用ブーツ……念の為、替えの服一式を今夜のうちに用意しておかねばならないなと段取りしながら、ショーンは分厚いカーテンを引いた。
2023/01/02